二人のアリス
2014/10/22 投稿
冬が近づく昼下がりの学校。ある者はこの日を待ち、またある者たちは知ることもなかった。第二生徒会の部室は、授業中ということもあって人は居ない。
「授業サボるのって、もしかして初めてかもな」
断片的な記憶を探ってみるが、授業をサボったことなどはないように感じる。俺にとっては、もう断定するだけの要素はないけどな。
「やるしかないんだよな」
戻ったら殺されるし、進んでも死ぬかもしれない。
そんなことを思いながら、三つ並べられた同じ見た目の本を見る。
著者の署名がないが左から、アリス・カイテラー、ペトロニーラ・ディ・ミーズ、そして神崎祐希、いや現代アリスとでも呼ぶべきだろうか。
「よし……」
魔法の起動式を頭に思い浮かべる。ゆっくりと時間を掛けて、起動式を鮮明にする。しばらくして起動式が弾け飛び、魔法が発動する。光り輝く三つの本の光が包み込まれ、自分の身体から、光と一緒に何か抜けていくのを感じる。
「あんたがアリス・カイテラーか」
いつの間にか、光の集まる窓辺に立つ女性が一人。ドレスのような服装に、茶髪が嫌に目立つ。振り返った彼女には、魔法の力を感じられず、ただ純粋な人間としての存在感だけを感じられた。
「日本語というのは、想像以上にややこしい。知識の整理をするのに時間が掛かってしまいました」
その瞬間に、魔法を感じる。彼女から魔力の香りが漂い始めたのだ。
「アリスで結構ですよ、少年」
「神崎祐希だ」
「ふふふ……知っていますよ。邪魔が入ってしまったようですが、あなたのお陰で助かりました。感謝しますよ。まぁあなたは、私をお呼びでないのでしょうね」
わかってんじゃねぇか。そう心で呟きながら、何百年も前に存在していた人間を見る。開かれた窓枠に腰掛ける姿は、まるで現代に生きる人間にさえ思える。しかしどんな風に見えても、彼女は絶対に違う。この女性は、もう死んでいるのだ。
「亡霊になってまで、復讐するって執念は凄いとは思う。でもやらせるわけにはいかない。まだあいつは、生きているべき人間だ」
「私の素質を継承したあなたです。まともに戦えば、私たちは互角でしょう。ですが、あなたが生き残る可能性はありません」
「いや絶対に、あんたが俺に勝つことはない。あと時間が無いんだ。大人しく広い場所まで来てくれるか」
「もちろんですよ、私の後継者」
この時間帯、グラウンドは使われていない。現代に二人のアリスが存在したということ、これ自体が異常な結果だった。そう誰もが思うのだろう。
ここから最終章です。




