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殴りかかるのは、私だからね

2014/09/15 投稿

 現代の日本に住む者で、漫画を知らない人間はいないだろう。特に俺のような中高生は、魔法と聞けば私利私欲や戦争を思い浮かべ、結社や政府の関与は欠かせないという者もいるはずだ。中でも一騎打ちのようなシチュエーションは、共感する全男子のテンションが少なからず上がる場面であろう。

「準備はいいか?」

 それが現実にここに起こっている。何があったわけではない。錬金系統魔法の実現に失敗し、やることもなかったヒマ部だった。適当な世間話をしているうちに、全員の名前をネットで検索しようという話になり、興味本位で愛崎礼音という名前を検索してみると、ここらの地域で行われた小さな異種格闘技大会で、優勝しているということがわかった。

「いつでもいいよー」

 他の二人が見たいと言うので俺が相手になり、試合というのか対決というのか決闘というのかは知らないが、まぁやることになったわけだ。格闘技などルールも知らない俺が駆り出された理由。それはただ男だからということだ。経験がないので拒否したのだが、たまたま体育館の女子バスケットボール部が休憩中だったので、それとなく言って休憩中だけ貸してもらうことになった。ここまで来たら、覚悟するしかないだろう。

「わかった」

 彼女は自分の腕に絶対の自信があるようで、提示したルールは二つだけ、彼女を一定範囲から外に追いやる、それか彼女に蹴りでも拳でも、何でもいいから一発入れること。俺はとりあえずバレーコートの半面という一定範囲から出ないこと、またはギブするまでだ。健全な男子としては信じたくはないが、徹底的にやりこまれる感じしかしない。

「なぁやっぱり女子に殴りかかるってヤバくないか?」

 これでもし俺のが当たって怪我でもさせた日には、言い訳の余地もなく処分は覚悟しなくてはならない。

「大丈夫だよ。殴りかかるのは、私だからね!」

 その発言もどうかと思うが、どうにも反論の余地もない。しかし俺にも希望はある。この勝負には、魔法の使用を互いに許可しているのだ。

「こう見えて、俺も運動音痴ってわけじゃない。こうなったら簡単にはやらせないぞ」

 そう言いつつ魔法の起動式を頭で思い浮かべる。一つで両手に野球ボールほどの炎を発生させ、一つで炎の形や動きを制御し、一つで制御する魔法への指示を手で行うところを脳に直結させる。以前に見たテレビアニメで、炎の性質を利用して攻撃と防御を行っていたのを、そのままパクっただけである。

「そこまで行っちゃうと、もう格闘技関係ないよね」

 俺の魔法に感心した様子を愛崎が見せる。しかし俺は彼女に一切の魔法が通じないという可能性を知っている。実際に見たわけではない。だが以前の話によると、彼女が得意とする魔法の効力は、全ての魔法を破壊する、というものであるからだ。

 そして俺は意を決して、彼女に特攻を仕掛けるのであった。

先駆者はいつでも進んだことを隠します

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