未完成の完成であるべきだ
2014/09/14 投稿
まさか夏休みに部活動のために、二日も連続で学校に行くことになるとは思いもしなかった。しかし今日は別に面倒に感じず、苦になることはないだろう。無論のこと、興味という己の目的のために出向くのである。
「お前らいつも来るの早いな」
どうしてか早く出たつもりでも、彼女ら三人は部室にいる。秘技的魔法研究部では、ほぼいつも俺が一番遅いのである。
「とりあえず考えをまとめて作ってきた」
自分の鞄から出した紙を配り、逆に三人からそれぞれの資料を貰う。俺たちは本格的に先日の話題に取り組むことになったようだ。曖昧であるのは昨日のことを覚えていない俺のせいだが、昨日の内容を全て覚えているなんてのは愛崎くらいだろう。この錬金系統魔法というテーマを言い出したのは、何を隠そう彼女だからだ。
「それじゃ、初めよう!」
彼女の一言から活動が開始され、話合いや室内での簡易の実験が続いた。ヒマ部の通称は何処へと、そう言いたくなるくらいの真面目っぷりだ。多数の意見が出たが、結局として採用されたのは俺の案だった。
「物質が発生するであろう環境を仮想空間として設定し、仮想空間内での条件で擬似的な状態で魔法を発動する。意味はわかりますけど、これどうやるんですか?」
「まぁやってみればわかる。まず干渉系統の魔法で、自分の認識する空間に干渉する。理科の実験を思い出せ。酸素を発生させる実験をしている様子に、自分の認識空間を設定しろ。その認識した空間で、最後に書いてある魔法を使え」
そう何回も実験を繰り返した末に、あることがわかった。誰も成功したという感覚はないとのことであったが、よくよく考えてみると酸素を生成できたところで確認する術がない。まだ俺は本調子ではないようだ。
「息苦しいような気がするんだが……窓開けないか?」
空調が効いているので、本当は換気したくないところではある。窓を開けると、新鮮な空気が熱風となって入ってくるので、さっさと閉めた。しかし空気が良くなった気がする。だが昨日は換気をしなくても大丈夫だった。実験は恐らくいつの間にか成功していたのだろう。
酸素を発生させる理科の実験では、一般的に火を使う。発生する酸素より二酸化炭素の量が多いのだ。もしかすると部室の空気状態が悪くなったのは、そのせいである可能性が高い。
「急に換気なんて言い出して、どうしたの祐希?」
「いや、特に理由はない。俺は今日はこれで帰るぞ」
実験が成功していたことは、俺に言わせれば明白だ。だが彼女らにそれを伝えることはしない。別に自分だけで独占とか、そういうことをしたいわけではない。まだ疲れが取れず調子の出ない俺でも、ギリギリで思い出し気づくことができた。
錬金系統魔法は可能性の塊だ。実現すれば誰もが欲しがる。故に創り出してはいけない魔法なんだ。こんな学生が一日や二日で話し合って成功するんだ。他の多くの頭の良い魔法を知る人間が思いつかないわけがない。
こんな危険なものを完成させてはいけない。幸いなことに俺が事実を告げなければ、愛崎たちが気づく様子はなかった。可能であって不可能であるべき魔法。
俺は魔法を創り出すことができる。しかしここまで来て思う。いや、気づいていながら、興味という欲に勝てなかったんだろう。
この行為は、ただの人間がやっていいことなのか?
次から少しだけ展開します




