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選ばれた人間はいない

2014/09/11 投稿

 俺という人間はとことん選民主義という考えを持つことが難しいようだ。今目の前で行われている通知簿の配布が終われば、ここにいる全員は晴れて夏休みに突入する。半分も過ぎ、俺は既に貰っていたが中身を見ることもなく考え事に没頭していた。

 それは世界でただ一人、おそらくはあなたしか知りません。

「……はぁ」

 俺が知っていて、他の誰も知らない。そんな美味しい話はない。先日、風里家に尋ねた際、言われたことには心当たりがある。それは言われるまで極当たり前だと思っていたこと。魔法を創り出すということ。

 白紙のノートに魔法の起動式を書く。条件が整わないので、書いただけでは魔法は発動しない。

 ロゼッタストーンを解読することを考えれば、そこまで長くもない魔法起動式の規則性は容易だろう。ヒエログリフと比べるのはわけが違うのかも知れないが、出来てしまったのは唐突で偶然で意味もない瞬間だった。

「おい、終わったぞ」

「智勇。俺って普通だよな?」

「いきなり何言ってんだよ。お前が普通なわけねぇだろ」

 まさかの親友の裏切り。智勇までそんなことを言うか。

「どこが」

「普通ってのは、あぁいう奴らのことを言うんだよ!」

 そう言って着実に人が減って行った後の教室に、残っている仲良しグループを指で指す。

「どういう意味だ」

「お前、あいつらのことどう思う?」

 どう思うかと聞かれても、同じクラスではあるが交流のない彼らのことはよく知らない。普通だと思うか、と聞かれているかとも考えたが、それもわからない。ただわかるのは。

「いつも盛り上がってうるさい」

「俺もそう思う。でもそれがアイツらにとっての普通。祐希、お前の普通はなんだ」

「……それがわからないから、俺は普通じゃないってか?」

「自分で考えたほうが良いぞ、学年主席」

 はぐらかすな。そう言いたい気持ちもあった。だが智勇は俺に気を使ってくれたんだろう。彼はつまりこう言いたい。存在しないものを探すな、と。

 その後ヒマ部に出向くと、本棚に新しい本を愛崎が追加しているところだった。夏休みも毎日ヒマ部は活動するらしい。確かに夏の時期は何かと困ることがあるようで、さっそく中町さんと風里さんが依頼に駆り出されているようだ。

「俺はやることがあるから帰る。手が必要になったら連絡してくれ」

 絶対に他人に教えるな。釘を刺されたところだ。部室で魔法を創り出す研究をするわけにはいかない。

「ちょっと待って」

「なんだ」

 早速と手がいるなんて言われるのかと思った。しかし俺はもっと重要なことを忘れている事実に気づかされた。

「私、祐希の連絡先知らないんだけど」

 言われてみれば、以前からやり取りは口頭で、スマホなんかで連絡を取り合ったことがない。自然すぎて全く気づかなかった。

「まぁ頑張って連絡しろ」

 え、何言ってるの!?っと背後から聞こえた。そして立ち去った廊下で、そこは連絡先交換するところでしょー、なんて叫ぶ声が部室から聞こえた。

わかりずらいですが、ここから新章です

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