42話
このお話は時系列的には35話の続きで紗耶香視点のものになります。
とりあえず病院にはついた。タクシーの中で気持ちに整理をつけようとして、でもできなくてグチャグチャなまま来てしまった。
でもまずは陽凪ちゃんが無事かどうかの確認をしなくちゃいけない。美咲ちゃんから連絡をもらって大丈夫ってのは知ってるけど、それでも自分の目で確かめたかった。
会えるかどうか分からない。美咲ちゃんのお母様であって、陽凪ちゃんをずっと見守ってくれてた奈穂さんに止められるかもしれない。
..........正直そうなってもおかしくない。陽凪ちゃんを傷つけたのは結果的には私のせいでもあるんだからもう会わせないなんて言われるかもしれない。
それならそれでいい。寂しいし辛いけど、陽凪ちゃんのためになるなら我慢する。
だってあの子は今まで遠慮してきたんだから。シングルマザーになって仕事で大変になったお母さんに甘えることも、学校に行きながら、仕事に行きながら育ててくれたさーちゃんにも遠慮して、そして家族ではなかったからこそ甘えるに甘えられなかったし、そもそも本人が甘えることに抵抗を感じてた私。
でも奈穂さんは違う。家族でもない、ただの娘の友達っていうだけの関係なのにあそこまで心配してくれる。陽凪ちゃんを養子にするとまで言ったすごい人。
下世話な話だけど自分の家族で生活するのにお金もかかる。そのうえ陽凪ちゃんを養子にしたらもっとお金もかかる。ご家庭の経済状況によってもちろん養子として引き取る引き取らないが決まる。それにしても奈穂さんは何も考えることなく即答で養子に迎えるって言った。
もし私が奈穂さんだったら同じことが言えるかは正直不安。何も打算なんてない。ただの思いやりの心だけであそこまでできるんだからすごい。
だから何を言われても私は頷くしかできないと思う。
私が陽凪ちゃんと一緒に過ごす、なんて言ったからこんなことになったのかもしれない。
全ての責任は私にあるって言ってもいいんだから。あの日から私は陽凪ちゃんの家族であり、保護者になるって決めたんだから。私がちゃんとしてれば良かったはずなのに気づくことすらできなかったんだから私にも非はある。
..................ふーっ。よし!!病院にはもう着いたし病室の番号も教えてもらってるから行くだけ。
正面玄関を入って、エレベーターに乗って上に行く。
チーンって音と一緒にドアが開いてエレベーターから下りる。真正面には談話室がある。
まぁまだ病室にいるだろうからそっちに行かないとね。
「紗耶香さん、ですよね?お久しぶりです。ちょっといいですか?」
そう私に話しかけてきたのは菜穂さんだった。陽凪ちゃんの付き添いまでしていただいてありがとうございます。
「はい。お久しぶりです奈穂さん」
菜穂さんの顔からは感情が読み取れない。少なくとも今はまだ怒ってないように見えるけど内心は怒ってるんだろうな。
「立ち話もあれですしそこで座って話しませんか?」
「分かりました」
..............さて覚悟しろよ私。何を言われても仕方ないんだから全部受け入れろよ。
「まず陽凪ちゃんの容態から説明しますね。陽凪ちゃんは無事です。もう目も覚めて今頃うちの娘に説教されてるころでしょう」
「そうですか。..........良かったです」
「良かったかは分からないわね。まず陽凪ちゃんには後遺症はないだろうとお医者さんが言ってました。でもリスカをしたときに神経まではいかなくてもそれなりに深く切ったらしくもう傷跡は消えないそうですよ?」
「.................後遺症が残ることと比べるとマシですね」
「ええそうね。一生消えない傷を陽凪ちゃんは心と身体につけても死ぬよりかはマシでしょうね」
「...................奈穂さん。今回のことは全て私の責任です。私がちゃんと陽凪ちゃんを見ていたらこんなことにはなっていなかったはずです」
「そんなことはないわよ?あれはほとんど陽凪ちゃんが悪いの」
.......................え?なんで?どうしてそんなこと言えるの?
「陽凪ちゃんは元々1人で悩んで抱え込んで、抱え込みきれなくなったら自爆するのがいつもの陽凪ちゃんよ。今回だってそう。昔のよりはスケールが大きくなっただけで根本的には一緒。だから美咲さんの責任なんて少ししかないのよ」
「でも!そんなこと普段から一緒に生活してる私が知ってあげなきゃいけないんです!!陽凪ちゃんから話してもらうのを待つなんてことをせずに私から聞きにいけばこんなことには!!」
「落ち着いて落ち着いて。...........まず陽凪ちゃんは紗耶香さんも知ってるとは思うけども、あの子は自分のことはあまり話さないでしょ?..........まぁ小さい頃から陽凪ちゃんが隠し続けてきたこともあってあの子にとっては自分の気持ちのほとんどは隠して当然なのよ。沙那ちゃんも言ってたわ。陽凪ちゃんが全然甘えてくれなくて困ってるって。お母さんを亡くしたばかりで泣くことはあるけどそれだけ。それ以外はほとんど全部自分でしてるって」
「え?でも.......陽凪ちゃんからはいっぱい迷惑かけたって.......」
「それは陽凪ちゃん視点の話。私や沙那ちゃんからしてみればあの子はいろんなことを我慢してたわ。甘えることもワガママ言うことも、泣くことも全部全部我慢してるように見えたわ。だからでしょうね?それが当たり前になってこんな風に成長してしまったのは。..........今回のことには私にも少なからず責任はあるのよ。だから紗耶香さんだけが悪いことはないんだから大丈夫」
「でも!どこに奈穂さんに責任があるっていうんですか!?」
「私が強引にでもあの子を養子に迎えてたらこんなことにはなってなかったのかもしれないじゃない」
「それでも奈穂さんには責任はないと思います!だって養子にする件だって私がいたからなくなったものですし!」
「そうよ。でもね私に責任がないなら紗耶香さんだって責任がないの。だって陽凪ちゃんよ?あの子から自分の感情を聞き出そうとするのは沙那ちゃんでも無理だったんだから仕方ないの」
「でも!!」
「ここまで言っても責任があるっていうのなら私からあなたに対する罰の提案があるんだけどそれを受けるってのはどう?もちろん受けるか受けないかはあなたしだいで大丈夫よ」
「.................内容はなんですか?」
「しばらくの間陽凪ちゃんをうちで預かるわ。この2年間あなた達2人は近い位置にいたけど少しは離れてみたら?そしたら何か見えてくるものがあるんじゃない?私は陽凪ちゃんの幸せを願っているから、陽凪ちゃんが幸せになるには私や美咲よりも紗耶香さん、あなたが陽凪ちゃんにとって必要な存在だと思うわ。だからこれを機に少しだけ離れて、気持ちに整理をつけて、そしてもう1度暮らしてみたらどう?..........あっ!もちろん美咲も旦那も納得してるわ。だからそのあたりは心配しないで大丈夫。こんな罰ならどう?」
「..........陽凪ちゃんは男性嫌いなんですけど、そこは大丈夫なんですか?」
「そこは安心してちょうだい。うちの旦那はお金持たせてそこらへんのホテルに放り込むからうちには女しかいないから陽凪ちゃんにとっては大丈夫な空間になるはずよ?」
「.................旦那さんは大丈夫なんですか?」
「さっきも言ったけど旦那も理解してくれてるわ。理解したうえでうちで預かっても大丈夫で言ってくれたわ」
「旦那さん、なんかかわいそうじゃないですか?」
「それが男ってもんだから大丈夫よ?そもそも思春期の女の子に嫌われるのが父親の常なんだから心配しないで」
.....................これはあとで旦那さんにお菓子でも食べ物でも渡さなきゃいけない。強く生きてください旦那さん。
「で、紗耶香さんどうする?受け入れる?」
「..............................受け入れます。正直にいえば私も今自分の感情が整理できてないんです」
「どんな感じか聞いても大丈夫?」
「.............................私最低なんです。陽凪ちゃんがリスカしたって聞いた時心配しました。悲しくなりました。でもそれ以上に嬉しいといった感情がたくさん湧き出てきたんです。陽凪ちゃんが傷ついてしまったのになんで私はそれが嬉しく思ったんでしょうね?それが分からないんです。私は陽凪ちゃんを傷つけたくない。でも傷ついた様子を見ることが嫌などころか嬉しいなんて私最低な人間ですよね?こんな人間に陽凪ちゃんを任せたくないですよね?」
「ご両親には?」
「沙那さんと付き合うって両親に伝えた時以来縁を切られてしまって、電話番号も住所も変えられたみたいでもう連絡をつけることが不可能になってしまいました」
「...........その理由ってもしかして?」
「はい。そのもしかしてです。女同士付き合うなんて考えられない、と言われましてそれ以来です」
「ごめんなさい。辛い事聞いちゃったわね」
「いえ、これぐらいなんともありません」
「..............私は紗耶香さんのことをあまりよく知らないからなんて言えば分からないわ。でもねその陽凪ちゃんが傷ついて嬉しく思ったことにも何か意味があるんじゃないの?だって2年も一緒に同じ屋根の下で暮らしたんだから、ね?それに私はあなたがサディストじゃないことなんてそれぐらいは分かるわ。だからこの時間を使ってあなたも自分と向き合ってみたらどうかしら?」
「....................はい。その通りにします」
「はい!じゃあこれでお話は終了!!陽凪ちゃんに会いに行きましょ?そしてそこでみんなで陽凪ちゃんに説教しましょ?慈悲なんていらないわ、徹底的に説教するわよ」
「えっと、その、そんなことして陽凪ちゃん大丈夫なんですか?」
「うちの娘がもう陽凪ちゃんに説教してるから大丈夫よ?それにあの子にはこれぐらいしないと効かないんだからいいの」
普段の私のお説教でも逃げるのに大丈夫かな?これが原因でまた何か起きたりしないよね?
「いい紗耶香さん。説教だってしたくてしてるわけじゃないの。これだって一種の愛情よ。我が子が間違った道を進まないようにするためにするんだから。今回のように間違った道を行ったとしても連れ戻せばいいんだから。そのための説教なんだから手ぬるくやるだけ陽凪ちゃんのためにならないの。分かった?」
「分かりました」
............そっか。怒ることだって一種の愛情なんだもんね。陽凪ちゃんが変なことをしたら怒って、私達がこんなにも心配してるんだよ、間違った方向に進んでるから直してあげるって伝える方法がの1つが怒ってあげることなんだ。
今までの私は小言はたくさん言ってきたし、お説教も少しはしてきた。でもほんとに怒ったことは1度もない。自分の感情を表に出して、お互いの意見をぶつけたことなんてなかった。
.........................はぁ。やっぱり私って情けないなぁ。
なんとか更新できました。頑張って0時には投稿したいですが時間の関係上できないこと多々あると思うので0時~4時までの間に更新がなければその日は更新なしと思って下さるとありがたいです。




