表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 埴輪庭
6/9

 ◆


 視界の先にある寝台はジャハムが手ずから作った寝台だが、そこに寝ているべき姿が見当たらない。


 ──イリスはどこへ?


 厠かとも思ったが、待てども帰っては来ない。


 ──何か理由があって、三人へどこぞへ出かけているのかもしれんな


 忍んでいる身である以上、余り長い間その場にとどまる事も出来ない。


 忸怩たる思いで諦めて去ろうとした所、暗がりの向こうから音がした。


 足音だ──……一つではなく、複数。


 ジャハムが納屋の陰に隠れ、様子を窺うと声を潜めた悪魔の会話が聞こえてきた。


 ・

 ・

 ・


「やっと片付いたか。あれだけ深く埋めれば獣が掘り返す事もないだろう。それにしてもあの爺さんもとっくに死んでいるだろうが、孫がすぐ来てくれたのだから俺達に感謝すべきだよな」


 ギドの声。


「そうね、全く暴れちゃって。大人しくさせようとして殴ったら死んでしまって、最期まで迷惑だったわね」


 アンナだ。


 ジャハムは目を見開いた。


 血が頭に昇り、怒鳴りつけてやろうと、孫の仇をとってやろうと、……できなかった。


 なぜならジャハムにだって分かっていたからだ。


 このまま出て行って復讐しようとしたところで、返り討ちにあって墓が1つ増えるだけだと。


 ◆


 それでもジャハムは怒りを堪え切れなかった。

 

 堪える為に手の甲に噛み付き、自分の中から迸る得体の知れない激しいモノを抑える。


 ギドとアンナはそれからも聞くに堪えない事を話ながら家に入っていく。その中でジャハムの食事には毒が混ぜられていたことも分かったが、今となってはどうでも良い話であった。


 ジャハムはそのまま物陰で身じろぎもせず、湧き上がってくる怒りを懸命に抑え続けた。ここで激発してしまえば()()()()()が出来なくなってしまうではないか。


 ジャハムは山の方を見た。


 ──そうじゃ、儂はまだイリスの死体を見ていない


 それが例えどれ程小さい可能性であろうと、もしかしたらイリスは生きているかもしれない。


 状況証拠を信じ込むのではなく、自分の目で確かめようとする──……それは一見合理的な判断に思えるかもしれないが、この時ジャハムの思考を支配していたのは合理とはかけ離れたものだった。


 そしてジャハムは立ち上がり、見つかる事を望まぬ捜索をするべく山へと立ち去っていった。


 よろめく足取りの不確かさは、まるで彼の未来を暗示しているようにも見える。


 ・

 ・

 ・


 神がジャハムを導いたのか、或いは魔が手を引いたのか。


 山道を歩くジャハムは何かを引きずったような跡に気付いた。


 それと足跡も。


 跡の先を確かめたくない。


 しかし確かめなければいけない。


 ジャハムは意を決した様に歩を進める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ