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押しかけ婚約者とわたし

来客。


口の中のクルミパンを飲み込む。


「来客ですって? 私に?」


「うん、帝国から来た人みたい。軍人さんじゃなくて貴族っぽい感じの人みたいよ。女性」


女の人?

心あたりが無いなぁ。


まぁ、とにかくお出迎えだ。

格好はこのままになっちゃうけど。許してもらおう。

私は白いエプロン姿のままお客さんを迎えた。


「失礼いたします」


そうしてお部屋に入ってきたのは、きらきら輝くお姫様であった。


艶めく銀の髪は冬の月のきらめきのごとく、その肌の白さは処女雪のよう。

蒼く澄んだ瞳は深い海の色を宿して、えーと、とにかく超可愛い女の子であった。


ふわり、上品なドレスの裾をつまんで、綺麗な姿勢でお辞儀する。


うわー、場違い。


固まる私を前にして、女の子は桜色の唇を開いて挨拶した。


「アリス・ブレアバルクと申します。エリザベート陛下でいらっしゃいますか」


「はい、私です」


私が素直に返事をすると、その子は、キッと私の顔をにらみ付けた。


なぜ睨まれるのか!?


私は動転する。

この子とは初対面だ。

前にも言ったが帝国に知人はいない。


私も私達の王国も、どっちかというと人畜無害な存在だったはず。


私の疑問は、彼女の言葉で解けた。


「私、オスカー様の婚約者ですの」


おっとー!

突然の婚約者の来襲だった。


彼女はそれから、彼と私との関係について根掘り葉掘り問いただされた。

隣のコレットが「なんだこの状況」


一応、私の中では交際させてもらっているという認識だ。

キ、キスまでした仲だしね。

お友達ってことは無いと信じている。


「交際をさせてもらっております。つい先だってから……」


「交際ですか! 私を差し置いて!?」


やっぱり反応してしまったか。

交際って単語に婚約者さんのボルテージが急上昇だ。

綺麗な顔が朱に染まる。



でもだ。

私は、こんな可愛い子でもう○こするのかどうかのほうが気になっていた。


いや、それぐらい綺麗なのだ。

正直この子が食べるもの食べて出してますっていわれても想像できない。

だったらまだ、花の蜜だけで生きてますってほうが信じられる。


この妖精さんが毎朝おトイレの上でいきむ姿を想像して、私がその違和感に内心で眉を潜めていると、その当人が口を開いた。


「もう一度言いますわね。私、オスカー様の婚約者ですの。来年結婚する予定なのです。ですから、貴女には……」


なるほど。


「では私は第二夫人ですね。これからよろしくお願いします」


「えっ?」


お辞儀をする。

まぁ、恋敵とみなした相手に、最初から二番目でいいって言われたらびっくりするよね

でも私は、いろいろと心の準備を終えていたのだ。


オスカーさんを信じることにした時に。



彼は外国の軍人さんだ。

私は王国の女王。


私は国を離れるつもりはないし、オスカーさんも帝国でお仕事がある。


ゆえに、遠距離恋愛になっちゃうのはほとんど確定の未来である。

当然本国にお嫁さんだって作るだろうなぁと想像していたのだ。


だから私の立場は、第二夫人とか、現地妻とかそういうことになるだろうなぁと。


それでもいいと私は思ったのだ。

私を救ってくれたあの人が、私を必要としてくれるならそれでいいと。


覚悟完了したエリザは強いぞ。

てこでも動かん。

尻の安定感がすごいからな。


「オスカーさんにも帝国での立場があることは承知しています。他のお相手がいらっしゃることも覚悟はしておりました。彼の立場を考えればそれもまた仕方が無いことだと」


アリスは私の言葉に、綺麗な眉毛の両端をきゅっとつり上げた。


「オスカー様の立場とあなたは仰いました。でもあなたはオスカー様のこと、どれだけご存知ですの?」


うーん。

私はちょっとだけ迷うな。

彼のいないところで、彼の事についてどこまでしゃべって良いものかしら。


でも、今、この場では隠すわけにはいかないだろう。


「であれば、私が彼について知る限りのことをお話ししますね」


それから私は、自分が知る限りのオスカーさん情報を彼女に伝えた。



オスカー・フォン・グレイン帝国軍中将。三十一歳。


彼は前科持ちで現在も服役中の犯罪者だ。

罪状は反逆罪およびそれに付随する重犯罪。


オスカーは、前皇帝の弟アウグストの非嫡出子で、十年前に彼の父がおこした反乱に加担した。

反乱はおよそ半年で鎮圧されたものの、オスカーは捕縛を免れ地下に潜伏、三年間にわたって非正規戦を続けた。

この間、軍人、民間人問わず多数の帝国人を殺傷する。

最終的には投降したのであるが、当然そのままだと死刑になるはずだった。

だが能力を加味された彼は、五千年分の懲役と合わせて懲罰部隊おくりとなったのだ。


当時の懲罰部隊は半年で全ての人間が入れ替わるような場所だ。

まぁ大体死ぬ。


でも五年間にわたって各地の戦場を転々としたオスカーは、延々と武勲を上げ続けて階級を大佐にまで進めてしまった。

強すぎたのだ。

結果、武勲比類無しとして初代の中央軍特務部隊、現在の帝国軍中央即応軍の初代司令官として就任。

ここでも武勲を上げ、皇族を除いて史上最年少で中将に昇進した。


というのが彼の来歴だ。


華々しくも血塗られた個人史だった。

その痛々しさに、私は泣きそうになってしまった。


嘘だ。割とガチで泣いた。

すぐ泣き止んだけど。


残りの刑期は千年ほど。

彼の重荷を少しでも私が持てたらと考えている。


少なくとも彼は私達を救ってくれたのだから。


「私が知っているのはこのぐらいです。他にもなにかありますか?」


アリスは驚いた顔で私を見た。


「……はい。だいたい、そんなところですわ。……よくお調べになりましたのね」


私の隣でコレットが胸を反らした。

そこで威張るのか。


まぁ、お手柄ではあるよね。

もちろん彼女だけじゃなくて、文官のみんなも調べてくれた。


これでも私は女王なのだ。

お付き合いする相手の情報ぐらい集めるさ。


「……オスカー様は、多くの人を殺めています。あなたは、怖くありませんの?」


「いいえ」


私は断言した。


「オスカーさんは、私の身柄を自由に出来る立場にありました。でも酷い事なんてなにもしませんでした。私もこの国も、彼に救われたのです。過去のことも彼が望んでの事だったとは考えていません。戦争であったのでしょう」


オスカーさんから直接聞いたわけでは無い。

でも、身内の起こした反乱から逃げることって難しいのでは無いだろうか。


私も昔、反乱したことがある。

私は勝てたけど、負けたらきっと酷い事になったはずだ。

戦いとはそういうものなのだ。




それからも私はアリスとお話しをした。

話を続けるにしたがって、アリスはだんだんと元気を無くしていった。

特に私がオスカーさんから、オスカーと呼び捨てにしてくれと言われたことがショックだったみたいだ。

キスまでしたことは伏せておいた。

鳴かせちゃいそうだったし。


歳も離れてるし、まだそんなに深い関係ではないんだろう。


「……また、日を改めて参ります。今日は、失礼いたしました。お時間とらせてしまってしまい申し訳ありませんでした」


最後、彼女はそう言い残してから部屋を出て行った。

私は肩を落として立ち去るアリスの小さな背中を見送った。


ふわりと上品な花の香りがした。




午後の仕事も順調だった。

どうも医療行為であれば、なんでもお願いできると勘違いされたらしく、悪戯っぽい顔をした兵士さんからお尻の傷を見てくれなどとお願いされたりした。


来たな。

セクハラだ。


まぁ、診て欲しいってんなら診てやるよ。


ほら、さっさとケツ出せ。


私が促すと、いそいそと丸いじゃがいもみたいなお尻を私に見せつけてから兵隊さんは満足げな顔をしてくれた。

案の定、汚い。

そして肝心の傷は単なるかすり傷だ。


尻の毛抜いてやろうかしら。


まぁもっと効果的な手を私は知っているけどね。


「かすり傷ですので、消毒だけしておきました。お大事に。あとこのカルテはグレイン中将にも回しておきますから、お尻のことについて聞かれたら正直に答えて下さいね」


そしたらお兄さんは、顔を真っ青にして震えだした。


やっぱりなぁ。


どう見ても鬼の司令官だし、オスカーさん。


「ほんの出来心だったんです! 陛下にお尻を診てもらいたかったんです!」


自白したぞ!

これも一緒に報告しちゃおうかしら?


しかし、陛下にお尻を診てもらいたいって、すごい響きだ。

不敬罪に両足突っ込んでないか?


うちの国には無いけどさ。

まぁ、初犯だしゆるしてやるよ。


「セクハラはいかんよ。セクハラは」


皆にも悪戯は駄目よと伝えておいてと私が申し渡したところ、この彼はゼンマイ人形みたいな勢いで頷きを返してくれた。


うんうん。

人間素直が一番だね。


でも、次はほんとに言いつけるからな!




新人女医エリザベートの診療は思いのほか好評だった。

兵士さん達もよく協力してくれたので、お仕事自体もスムーズだったのだ。

予定していたよりもずっと早くその日の診療が終わったので、私はご機嫌でその事をユリウスさんに報告した。


彼は、「お見それしました。まさかこれほどとは思わなかった」と、こっぱずかしいお世辞をくれた。


やだなぁ。

あんまり褒めないでよ。

私、木に登るぐらいしかできないよ?


ご褒美もかねてなのだろうか、私は帝国軍の皆さんのご厚意でお風呂を頂けることになった。

しかもなんと一番風呂だそうだ。


大喜びで私が仮設の小屋のお風呂に行くと、すっかり準備が出来ていて私は大興奮だ。


たらいにお湯汲んで湯浴みする女王とは今日で卒業だ!


もうね、うきうきしながら私は飛び込んだ。

気持ちよかったよ。


体は湯船の外で洗ったつもりだったけど、ちょっと汚してしまった。

私は謝ったけど、気にするなと帝国の兵士さんは言ってくれた。


優しい。

また入りに来てもいいですか、と聞いたところ、いつでもどうぞと返事をもらった。

いいのか、安請け合いして。

私は簡単に居着くぞ?


「いいお湯だったねぇ。うちにもいつか作ろうよ」


「いいねぇ。もし作るなら木のお風呂がいいな」


コレットと二人してニコニコしながら施療院に戻る。


公共浴場とかいいなぁ。

帝国にはあるって聞いてるよ。

今度、作り方聞いてみようかしら。


なーんて私が未来の王国に思いを馳せていると、兵士さんが大慌てで私を呼びに来た。


「先生! 急患です!」


「わかった、すぐ行くわ!」


救護用の天幕に急行する。

やってきた患者さんは、なんとお昼に私の元へ押しかけてきたアリス嬢であった。

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