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家出仙女は西側世界で無双する  作者: Ryoko


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09、様子見は必要

「えっ!? ちょっ!? なっ!?」


「済んだよ。じゃぁ、さっさと戻って(ぎょく)の買取してもらえるかな?」


 なんちゃってヒドラは倒した。

 冒険者ギルドの急ぎの用件も片付いたわけだし、これでやっと本来の目的が達せられる。


「えっ? 玉? あぁ、買取希望でしたね。それなら……って! そうじゃなくて! 今のは何!? 何したの!? タオちゃん、何者!? こんな簡単にヒドラが……」


 まずは、さっさと手持ちの玉を売って、当座の資金を確保する。

 その後は……しばらくはあの街に居てカテリーナのお父さんの経過観察かな。

 太上老君の金丹はよく効くけど、それ故に心身への影響も強い。

 たった一粒で昇仙できてしまうほどだけど、心身に受け入れるだけの器ができていないと、逆に猛毒になりかねない。

 これが本物のヒドラの猛毒だったら問題無かったんだよ。

 神話級の猛毒と神話級の丹薬でプラスマイナスゼロ。

 全然問題無かった。

 でも、実際に喰らったのは大した強さもないトカゲの毒……。

 これだと、金丹の効き目の方が強過ぎる。

 飲ませた瞬間に死んでしまう可能性もあった……。

 幸いなことに、カテリーナの記憶によると、カテリーナのお父さんはヘラクレスおじさんの血を引いているらしい。

 かなり薄まってるみたいだけど、それでも半神の血だからね。

 器としてはかなり期待できる。

 さっき見た時には普通に元気になってたし、あれなら死んでしまうような心配はないと思う。

 でも、そうなると、今度はカテリーナのお父さんが昇仙してしまう可能性も……。

 いや、血筋的に西方の人だから……神格化かな?

 まずった……これからは、ちゃんと症状確認するようにしよう……。


「ちょっと、いいかな。詳しい話を聞きたいのだが」


 未だ混乱するレイアを無視して今後のことを思案するタオの前に、立派な鎧を着た若い男が現れる。


「ん? なに?」


「……その、私自身きみの戦うところを見ていたので間違いないと思うのだが……改めて聞かせてほしい。あのヒドラを倒したのは、きみで間違いないかな?」


 この目で見た光景が未だに信じられず、確認を求める男に……。


「そうだね」


 タオの反応はあっさりしたもので……。


「……そうか。正直、未だに夢でも見ていたのではないかと思うが……ヒドラが倒されている。これが全てだ。

 私の名はアンドレ。この地ラモスを治める領主バルドの息子だ。きみの名は?」


「タオ」


「では、タオ殿。領主バルドとラモスの民に代わって言わせてほしい。

 この度は、ヒドラを倒していただき、心より感謝する!」


 姿勢を正し、深々と頭を下げる鎧の男、アンドレ。

 その姿を見て、慌ててそれに(なら)うように、兵たちもタオに向かって頭を下げる。


「……うん、まぁ、いいよ。大したことしてないし……」


 タオの少し照れた様子に、場の空気も柔らかなものに変わる。


『かわいい……』


 そんな囁き声や心の声も聞こえてくるが……。


「それより、もう帰っていいかなぁ? これからギルドで用事を済まさないといけないんだよね」


「……? 用事? そういえば、副ギルド長(レイア嬢)も一緒のようだが、何かあったのかな?」


「うん、これから冒険者ギルドで玉の買取をしてもらわないといけないんだよね。

 ボク、今、お金、全然持ってないから。このままじゃ、屋台の串焼きも食べれないでしょ?」


 たった今、神話級の怪物を倒した目の前の少女にとっては、その偉業よりも手持ちの玉を売って屋台の串焼きを食べることの方が重要らしい。


「あぁ、そういうことなら、わざわざ玉を売らずとも、しばらく待ってもらえればヒドラの討伐報酬もお支払いできる。それに、ヒドラの素材をギルドに売れば、玉よりも余程高く売れるはずだ」


「えっ? トカゲの死骸って売れるの?」


 そこに再起動して話を聞いていたレイアが口を挟む。


「勿論よ! ヒドラの素材自体が大変珍しいからはっきりした金額は言えないけど、恐らく相当な金額になるはずよ。

 今回のヒドラ討伐は、冒険者ギルドからの参加義務の無いタオちゃんに対する緊急依頼だから、報酬もかなりの金額になるわ。

 領主様も奮発してくださるでしょうし、ね?」


「そ、そうだな。ラモスを救ってくれた恩人のためだ。できるだけのことはさせてもらおう」


 そう言って苦笑いを浮かべるアンドレ。


「報奨金も素材の代金もかなりの金額になるだろうからすぐには渡せないけど、できるだけ急がせるからちょっと待ってね」


 そう言って笑顔を向けるレイア。


「はぁ〜〜」


 そんな2人にため息を吐くタオ。


「ん?」 「えっ?」


「……ねぇ、こんな話、知ってる? ある日、男は喉が渇いて死にそうになっている人に出会うの。で、その人はコップ一杯の水を恵んで欲しいと男に頼むんだ。すると、その男はこう言うんだよ。私はこれから国王に会いに行く途中だから、王に会ったらここに井戸を作ってくれるよう頼んであげるよ。そうしたら、いくらでも水が飲めるようになるよってね。

 わかるかなぁ? ボクが必要としてるのは今日の食事代と宿代で、そのうち入る大金じゃないんだよ」


 確かに、真理だ。アンドレは思う。

 為政者とは常に広い視点に立って物事を考えるものだ。

 数年後、数十年後の未来を見据え、今何が国に必要かを考える。

 だが、今日を生き延びるのに必死な飢えた民にとって、数年後の幸福を語る為政者のなんと愚かに見えることか……。

 このタオという娘は、剣の腕だけでなく、その智慧においても並外れたものを持っているのだろうと……。


 そして、レイアは思う。

 この娘、実は東国のお姫様とかじゃないわよねぇ?

 これだけの事をしておいて、お金に対する執着が全く感じられない。

 これだけの魔物を倒しておいて、報酬にも無頓着。素材の売却益にも無頓着。

 普通、冒険者じゃなくたって、かなりのお金が貰えるはずって考えるわよ。

 ヒドラ(トカゲ)の死骸は売れるのかって……ちゃんと冒険者としてやっていけるのか、心配になるわ。

 変なのに騙されて、はした金でこき使われたりとかしないわよねぇ。


「……そういうことなら、しばらく我が家に滞在してはどうだろうか?

 大変申し訳ないが、報酬の支払いにはしばらく時間がかかる。そして、タオ殿の言うとおり、その間にも生活する金銭は必要だ。

 その点、我が家に滞在していただければ衣食住こちらで用意できるからお金もかからない。

 どうだろうか?」


 このような状況下で、タオ殿のような実力者に居てもらえるのは非常に心強い。

 当面の脅威は去ったとはいえ、ヒドラ出現の原因究明はこれから。壊滅した村のこともある。

 何より、毒に冒された父のことも……。

 なんとか持ち直してくれればいいが、このまま亡くなるようなことになれば街の混乱は避けられない。

 このような状況だからこそ、タオ殿の力と智慧は心強い。


「……そうですね。それがいいと思います。

 素材価格の計算にも時間がかかるでしょうし、その間、領主様のお屋敷に滞在されるなら、こちらとしても連絡がつきやすく安心です」


 とりあえず、この騒動が収まるまでは領主様に保護してもらっていた方が安心よね。

 恐らく、タオちゃんがヒドラを倒したって噂はあっという間に広まるわ。

 そうなれば、パーティーへの勧誘に金銭狙いの詐欺師、素材狙いの商人たちからナンパ野郎まで、有象無象が一斉に押し寄せてくることになる。

 こんな危なっかしい娘、一人で放っとけないわよ。


 そんな2人の心の声を聞きつつ、タオは考える。

 う〜ん、レイアお姉さんの“危なっかしい”は心外だけど……。

 確かに、面倒ごとは多いのかも……。

 お姫様ってわけじゃないけど、世間(下界)知らずってのは間違ってないしね。

 それに、領主の屋敷ってことはカテリーナのとこってことだから、カテリーナのお父さんの経過観察には便利だよね……。


「うん、わかった。じゃあ、しばらくの間、アンドレさんのところでお世話になるよ」


 その言葉に、アンドレとレイアの2人は全く違う意味で共に安心するのだった。



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