26、治水工事
バルドに土地の浄化を頼まれた日の夜。
雲に乗ったタオは、上空からラモス領を眺めていた。
「確かに、あのトカゲが死んだ辺りの土地の穢れがひどいね。
でも、それだけじゃない。あれは、トカゲが通ってきた跡かなぁ……やっぱり少し穢れてる。
汚染ってほどじゃないけど、あれじゃあ作物は育たないかな」
さて、どうしよう?
いっそ甘露でも降らせちゃえば簡単に浄化できるんだけど、万が一それを口にする人とか出ちゃうと、今度はその人が不老不死になっちゃうかもだし……。
やっぱり、ここは面倒がらずにしっかり考えないとね。
巾着から筆と紙を取り出すと、雲の上に胡座をかいて、取り出した紙に筆を走らせるタオ。
下界を覗いては紙に書き込み、空の星を眺めながら思案してはまた何やら紙に書き込んでいく。
「よし、できた!」
完成した図面を持って地上に降りてきたタオは、虚空に向かって話しかける。
「小青、ちょっといい?」
「は〜い、主さま。何か御用でしょうかぁ」
突然現れた十代後半くらいに見える少女にタオは命じる。
「この辺りの土地と水を管理してる土地神を呼んできてくれる?」
「は〜い、承りましたぁ」
そうして待つこと暫し。
「主さま、お待たせしましたぁ」
そう言って小青が連れて来たのは、この土地を管理する2体の精霊。
この辺一帯の水脈を司る水精ネイアードと、土地を司る土精ダイモーン。
「「お初にお目にかかります。東方の仙姫様。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」」
「いいよ、いいよ、そんなの。こっちこそ勝手にお邪魔しちゃってごめんね。
で、早速で悪いんだけど、ちょっとお願いしたいことがあって……」
そう言って説明されたのは、アケロンの大河から汚染地帯を通ってラモスまで、そこからまたアケロンへと支流を繋げる大規模な治水工事。
アケロンの大河の水を使って、ヒドラの毒を洗い流してしまおうという計画で……。
「おお! それは助かります! あのトカゲの毒で土地が穢れ、とても困っていたのです」とはダイモーン。
「うわぁ、この計画書、すごいですわ! これなら水の機嫌を損ねることもないですわ」とネイアード。
「うん、ヘラクレスおじさんの昔のやらかしは聞いてたし、禹王様から治水についてはちゃんと習ったからね。
その辺りは、抜かりないよ」
そう自慢げに言うタオ。
((東方の姫様、かわいい!))
元々、タオに頼まれる前からヒドラの毒による穢れを気にしていたネイアードとダイモーンの行動は早く、周囲の精霊総動員で行われた突貫工事は、夜明け前にはすっかり完了してしまった。
完成を確認し、ヒドラの毒もしっかり洗い流されたのを確認したタオは、少し眠い目を擦りながら、領主邸にある自分のベッドに倒れ込むのだった。
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「タオ殿! タオ殿!」
そうしてタオが気持ち良く惰眠を貪っていると……。
何やら自分の名を呼ぶ騒がしい声が聞こえてくる。
「うるさい!」
周囲の音を遮断し、同時にベッドの周りに結界を張ったタオを起こすことなど、バルドにできるはずもなく……。
結局、タオの偉業をバルドが確認することができたのは、日が傾き始めた頃になってのことだった。




