17、道中
善は急げと、その日のうちに出発準備を整えた3人は、翌日にはネメア平原に向けて旅立って行った。
話し合いの結果、領主家からはアンドレが、冒険者ギルドからはレイアが代表として出され、それにサポーターという名目でタオがついて行くことになった。
たとえ名目だけとはいえ、タオは二人のサポーター。
アンドレとレイアの野営道具などの荷物は、全てタオの巾着の中に収められている。
他にも、カテリーナからもらった山のような量のお菓子も巾着の中だ。
タオの巾着の中の時間は外の世界とは違うらしく、生菓子の鮮度が落ちることもないから安心だ。
……
「前方の林の中にオークがいます……数は3……来ます! 右の1体は私が片付けますから、アンドレ様は残り2体を!」
そう言って、右の1体を残り2体から分断する動きで斬りかかるレイア。
ここまでの道中、何度か魔物に遭遇しているが、やはり彼女は全体の中での立ち回りが上手い。
「了解した!」
レイアに遅れて飛び出したアンドレは、目の前の1体を一刀のもとに斬り伏せ、返す刃ですかさずもう一体に一撃を加える。
アンドレは膂力もあり、剣術の基礎がしっかりできている。
少々動きが型にはまり過ぎているところはあるが、動きは悪くない。
そんなことを考えつつ、二人が戦う様子をタオが眺めていると、無事3体のオークを倒し終えた二人がこちらに戻ってくる。
「二人とも、お疲れ様。だいぶ連携も上手くなったし、なかなかいい感じだったよ」
そんなタオの褒め言葉に、2人は満更でもない様子。
「でも、やっぱりアンドレさんは想定外の動きに弱いね。普段から人を相手にすることが多いせいだと思うけど、動きの端々に人の常識で判断しちゃうところが見られる。
ふつうでは考えられない動きをされると、動作がぎこちなくなっちゃう時があるね」
「おっしゃる通りです。先程も、オークが頭から突っ込んできた時には、咄嗟にどう対処して良いのかわからなくなりました……」
タオに自分の問題点を指摘され、改めて先ほどの戦闘を振り返ってみるアンドレ。
四つ足の魔物ならともかく、二足歩行で手に武器を持つ人型の魔物が、いきなり頭から突進してくるとは思っていなかった。
その思い込みがいけないのだと反省する。
「レイアお姉さんの問題は、やっぱり突破力の無さかな?
動きは速いし状況判断もいいから、相手が一人だったらいいんだけどね。複数になって相手に囲まれちゃったりすると、手も足も出なくなっちゃう。
さっき、自分の相手を一体に絞ったのも、そういうことだよね?」
「そう、ね……。
本来なら、アンドレ様の護衛でもある私の方が、多くの魔物を引き受けなければいけないんだけど。
でも、私には2体のオークを同時に相手するのは厳しいから……」
ちらっとアンドレの方を見て、申し訳なさそうにするレイア。
それでも、まずは確実に素早く目の前の敵を片付けて、必要ならその後すぐにアンドレ様のフォローに回るのが最適解で……。
「うん、その判断自体は間違ってないと思うよ。今の自分にできる最善の策を選択するのは良いことだからね」
そうは言っても、今の自分に護衛対象をきっちり守り切る実力がないのも事実。
元々、現役冒険者時代には斥候役だったのだし、仕方がないのは分かっているが……。
それでも、悔しいことには違いないのだ。
この旅を始めてから何度目かの魔物、野党との遭遇を経て、タオの立ち位置はサポーターから師匠へと変わりつつある。
今回のように、二人の戦闘に対してアドバイスをするのも、今回が初めてではない。
実際、タオのアドバイスは的確で、二人ともこの短期間で、かなり実力が上がったのではと感じている。
(でも、まだまだ全然足りないんだよねぇ)
西の空を見ながら、そんなことを呟くタオ。
(うん、明日くらいにはそっちに着くかな)
(いや、その前にちょっとだけ修行させるつもりだから大丈夫)
(うん、楽しみだね)
「タオちゃん?」
「あっ、ごめん。どうしたの?」
「えぇと、この辺りには村とかもないから、今日はこの辺で野営しようと思うんだけど、野営とか大丈夫?」
ここまでの道中、たとえ小さな町や村でも宿を確保することはできていたから、野営というのは今回が初めてになる。
ここから先は村や町もないから、ネメア平原までのあと数日間は野営が続くことになるだろう。
冒険者であるレイアは勿論、領軍を率いての遠征経験のあるアンドレも野営には慣れている。
野営道具も持ってきているから問題は無いが、いいとこのお嬢さんにも見えるタオが心配だ。
アンドレに至っては、仮にも女神様と聞いているタオに野宿などさせて本当にいいのかと、レイアとは違う意味で心配になる。
そんな二人に対して、
「うん、ちょうどいい機会だし、この辺りで本格的に修行でもしてみようか」
にっこり笑うと、タオはそんなことを言い出すのだった。




