突発シークレット(後編)
「ありがとうございますマスター。これからもよろしくお願いします!」
「か、可愛く笑ったってビシバシ教えるのは変わらないからな」
「そんなぁー」
「女の子に優しくしてないと悪い噂が立つよヒビキくん」
「うっせえな。メシ作るぞ、二人とも手伝え」
テントの外で折り畳みの椅子を並べ、携帯用のコンロに鋳鉄のスキレット(時代錯誤と言って良いほど古くさい道具だ)を置いて温める。
「なんかワクワクしますねアカリさん!」
「世の中には宇宙アウトドアを楽しむ人もいるみたいだけど、私はあんまり興味は……て言うかこんな楽しんでる場合じゃない気がするんだけど」
「連れない事言うなよ。俺だってソウイチ達を探しに行きたいのはやまやまなんだ。でも《ゼルヴィード》はあちこち捜索に動き回るには燃費が悪すぎる。ドローンがSOS信号の発信場所を特定してくれるまでじっと待つしかない」
「ソウイチさん達は大丈夫なんですかね」
「ネシオンは採掘マシンとかの機械は攻撃するけど生身の人間を執拗に追いかけたりはしないはずだ。うまく隠れて逃げている可能性は高い。リーダーのソウイチを信じよう」
温まったスキレットに少し油をひいてパックの合成ハンバーグを次々と焼く。
「おおー、美味しそうです」
「……そう言えばお前、アンドロイドなのにメシ食うのか?」
「流石に食べ物からカロリーを摂取したりはしませんが、食事を楽しむ機能はついてますよ。わたし高性能アンドロイドですから」
「なんて無駄な機能だ」
ぼやきながらもプリムラの分も用意するヒビキ。焼いたハンバーグにチーズをかけて溶かしてから一旦上げる。続けて二つに切った丸いパンに焼き目をつけてからソースをかけたハンバーグを挟めばチーズバーガーの出来上がりだ。
「よし、食え」
「いただきまーす。……うーんシンプルだけど美味しいです!」
「これ新商品で人気のハンバーグだよね。よく買えたねヒビキくん」
「こんな任務じゃ食い物くらいしか楽しみ無いからな。頑張って銀河ショッピングの通販で買ったぞ」
「わたしもお菓子持ってきました!ストロベリーチョコのフリーポ!デザートに食べましょう」
「あ、それ好き!ありがとうプリムラちゃん!」
わざわざ作ったハンバーガーよりコンビニで売ってるお菓子にテンションを上げるアカリにヒビキは多少納得のいかない感情を持ったが、まぁいいかと炭酸水を飲みながらウェスタンな雰囲気を十分に楽しんだ。
ピピピピピピ。
アラーム音が鼓膜を震わせた。続けて聞き慣れた少女の声がそれに代わる。
「起きて、ヒビキくん、プリムラちゃん」
アカリにゆさゆさと起こされる。ヒビキは目をこすり頑張って頭をはっきりさせようとした。
「見つかったか?」
「多分。ここから48kmくらい先のかなり入りくんだ渓谷にいるみたい。プリムラちゃんもしっかりして」
「ううう……眠いですぅ」
「アンドロイドってのはもう少ししっかりしているイメージなんだがなぁ」
呆れてそれ以上の言葉が出ないヒビキは先にテントを出て《ゼルヴィード》を起動した。レーダーと出力チェックをしながら後から出てきたプリムラとアカリをそれぞれのシートに運ぶ。
「しっかりしろ、お前がいないと《ゼルヴィード》はちゃんと動かないんだぞ」
「すみません低血圧なもので……ふぁぁ」
「無意味なウソをつくな。アカリもいいか?出発するぞ、データをくれ」
「うん、今送るね」
アカリの端末のドローンデータと《ゼルヴィード》のマップデータをリンクさせる。ここからなら10分足らずで行ける距離だ。
「運が良いな……ここまでは」
「どういう状況でSOSを出す事になったのかが気になりますねマスター」
「そうだ。気を抜くなよ」
三人の乗る《ゼルヴィード》が渓谷を縫うように飛ぶ。段々と谷は深くなり、また濃霧のような白いガスが充満してきた。
「なんだ?このガスは」
「ヒビキくん、電波障害が発生してる。これで採掘隊が《アンカレッジ》と通常通信出来なかったみたい」
「なるほどな……っと!」
渓谷の曲がり角、唐突に現れた小型のネシオン機《ナーブ・C》に反射的にライフルを放つ。出会い頭。回避行動もままならないネシオン機は直撃を受け爆散した。
「ヤバイな、《ゼルヴィード》のレーダーも死んでる」
「マスター、ここでレイ・ライフルを使うと渓谷を破壊して落石が起きるかもです。ソウイチさん達を発見するまでは戦闘は控えた方が……」
「わかってるが、出会ったら逃げるわけにもな。アカリ、受信位置はまだか?」
「もう少し東……後3分くらいの所」
「了解、慎重に行くぞ」
若干スピードを緩め警戒しながら進む。運良くと言うべきか、次の敵に出会う前にSOS信号の発信地点に到着する。ヒビキは恐る恐る外部スピーカーで呼びかけた。
「《アンカレッジ》のパイロット、仙崎だ。誰かいないか」
しばしの静寂の後、足元の岩影から何人かの宇宙服姿が顔を出してきた。
「ヒビキか、助かった」
「ソウイチ。無事だったか」
操縦をプリムラに任せコクピットから地上に降り立つヒビキ。
「40人って聞いたけど、そんなに見当たらないぞ。やられたのか?」
「ああ……いや、全員生きてはいるんだ。しかし厄介な奴に分断されて、他の連中は奥の渓谷の方にいる。それで俺達も帰れなくなってるんだ」
「分断?何がいるってんだ」
ついてこい、とジェスチャーするソウイチの後を歩くヒビキ。10分程移動した先の岩影から前を覗くと巨大な機械の姿が見えた。
「こいつは……」
そこには巨大なネシオン機が渓谷を通せんぼするように立っていた。《ゼルヴィード》よりも大きい。短い足と多数の砲門を装備した防衛用砲撃機のようだ。ヒビキは岩影に引っ込むと心底嫌そうに溜め息をついた。
「見るからに厄介そうな奴だな」
「採掘調査中にアイツが急に渓谷に降りてきて部隊を分断されたんだ。向こう側に残りの連中がいて、何人かケガ人もいる」
「それでSOSを出したのか」
「倒せそうか?」
「やるしか無いだろうが……正面からじゃ厳しいな」
ざっと見たところ砲台ネシオンの砲は大小合わせて十以上はあった。《ゼルヴィード》が高性能でもこの狭い渓谷で正面から火力戦を仕掛けるのは無謀すぎる。
「マスター、聞こえますか?」
プリムラが通信を入れてきた。
「お!プリムラちゃんも来てくれてるのか」
「こちらヒビキだ、どうした?」
「センサに反応です。方向はわかりませんが《ナーブ》系の機体が何機か接近してきていると思われます!」
「感づかれたか!」
のんびりしていられる状況では無くなってきた。ヒビキはソウイチ達に離れるよう言い残すと急いで《ゼルヴィード》まで走る。コクピットシートに座りながらベルトもせずに《ゼルヴィード》を一旦渓谷から浮上させた。
「どうするのヒビキくん!」
「一旦周りのザコを掃除する!……来たか!」
霧の中から姿を見せた《ゼルヴィード》に《ナーブ・B》の編隊が攻撃を始めた。迫り来るビームとミサイルを避けながら一発、レイ・ライフルを発射する。
ビィィィィ……ン!
眩いエネルギー弾が《ナーブ》の背中を焼いて地表に墜落させる。
「こんな状況じゃなければプリムラに相手させるんだがな」
「そんな余裕あるコメントしてる場合じゃ無いですよう~!」
「しっかり見て勉強しておけよ!」
背後から仕掛けてきた《ナーブ・B》に振り向きざまメーザーソードを叩き込む。動力中枢を破壊され動けなくなったそのうち機体を掴み更に別の《ナーブ》に投げつけてヒビキは包囲網を脱出した。
「増援、また来ます!」
「しつこいな!……っとぉ!?」
唐突に足元から砲撃。回避しながら下を見ると先程の砲台ネシオンが霧の向こうから攻撃してきている。
「うわ、なんか凄いのがいる!」
「アイツ対空攻撃もできるのかよ」
よくよく考えれば当たり前だが意識していなかった自分に舌打ちして渓谷上空からやや離れる。安全地帯に入ったところで《ナーブ》を全滅させたものの、レイ・ライフルは弾切れになってしまった。
「クソ、困ったな」
「どちらにせよソウイチさん達がいるので渓谷に向けてライフルは使えませんけどね」
「しかしあの砲台野郎をメーザーソードで突き刺すのは勇気がいるどころの騒ぎじゃ無いぞ」
「確かに」
二人して悩みながら遠回りをして一旦ソウイチ達の所へ戻る。
「おう、流石だなヒビキ」
「褒めてる場合じゃないぞ。なんか武器とか無いか?」
「こっちは採掘屋だぞ」
「わかってるよ。なんでもいいんだ。でかいハンマーとかアンカーとか……」
「そんなもん持って逃げられる訳が……ちょっと待て。おい、確かアレがあったな」
何か思い付いたのかソウイチが後輩に指示を出した。後輩の生徒達が大きな台車でコンテナを一個運んでくる。
「なんですかこれ」
「残ってた発破用の爆薬コンテナだ。アイツの脚の一本位なら折れるかもな」
「なるほど。しかし脚一本折ってもな……うーん」
しばしコクピット内で考え込むヒビキ。
「……やってみるか」
「何か良いアイデアがあるんですかマスター」
「上手く行くかはわからんがな。ソウイチ、それ貸してくれ。それから向こうにいる連中に出来るだけ離れろって伝えろ」
「わかった。頼りにしてるぜ大将」
「期待しすぎんなよ」
爆弾コンテナを掴みゆっくりと岩壁に身を隠しながら砲台ネシオンに《ゼルヴィード》を接近させる。これ以上隠れようが無いポジションまで進んでヒビキは身構えた。
「アカリ、プリムラ、耳塞いでろよ」
「わ、わかりました」
「無茶しないでよヒビキくん」
「無茶しないで乗り切れる局面じゃ無いんだな……っと!」
ブン!と爆弾コンテナをネシオンに投げつける。銃撃に比べれば遅すぎるその攻撃は当たり前のように砲台ネシオンに感知され、コンテナは蜂の巣にされた。
ドォォォン!
当然コンテナは中の爆弾に引火して爆発を起こす。渓谷内に爆風と土煙が吹き荒れ、互いの姿が全く見えなくなった。
「その足じゃ逃げられまい!」
近くにあった岩を続けて二個程投げつける、敵がいると判断した砲台ネシオンはその全身の火器を前方に目くら撃ちし始めた。
「かかった!」
「え!?きゃああああ!」
ヒビキは《ゼルヴィード》を急上昇させ、まるで体操選手のように宙返りさせながら前方に回り込んだ。急加速とその挙動にプリムラもアカリも目を回しながら必死にコクピットの中でシートにしがみつく。
(後は……俺の運次第だな!)
空中で反転した《ゼルヴィード》がソードを構え突っ込む!互いにロックオンは効かない。ヒビキは勘のみで土煙の中思い切りメーザーソードを突き出した。
ガキィィィン!
機体に金属同士の衝撃音が伝わる。数秒後ネシオンの砲撃も止まり静かになった。
「や、やっつけたんですか……?」
「手応えはあったが……」
見たところ足の遅いデカブツの砲撃型、外す事は無い。しかしそれが致命傷を与えられているかとなると別の話になってくる。
静寂。いや、時折バチッバチッと穏やかでは無いスパーク音だけが聞こえてくる。吹き荒れた土煙が収まって、やがて周囲の様子が見えるようになってきた。
「マスター」
果たして、砲台ネシオンはヒビキ達に背を向けたまま立ちすくんでいた。その胴体には深々とメーザーソードが突き刺さっている動力中枢付近にダメージが入ったのは間違いないだろう。
「やったなヒビキ!」
ソウイチの喝采に採掘科の生徒達が歓声を上げて喜んだ。それを見てようやくヒビキも息を吐いて緊張を解く。
「ま、俺にかかればこれくらいはな」
「もう少しスマートにやっつけて欲しかったよ」
サブコクピットからアカリが文句を言うのはスルーしてヒビキは外部スピーカーを開いた。
「ソウイチ、怪我人を介護コンテナに乗せてくれ。《ゼルヴィード》で運ぶ。無事な連中は急いでジャンプシップ(大気圏離脱用のロケット船)まで戻るんだ」
「わかった、よろしく頼む。帰ったらジューカツステーキな!」
「シャンパンも付けろよ」
17時間後。
「何とか無事に帰れましたねぇ」
「ケガした人も何とか命に別状は無いっていうし良かった良かっただね」
ヒビキの部屋でホットチョコレートを飲みながら(作ったのはヒビキだが)くつろぐプリムラとアカリ。
「お前らこれからステーキ食うってのにそんなカロリー高いもの飲んでいいのか」
「別腹別腹」
「ワタシはカロリー関係無いですし」
「砂糖水でも飲んでろ」
ぐったりしてソファーに身を沈めるヒビキ。
「まぁまぁ、校長先生からヒビキ君に銀河功労勲章貰えるみたいだよ。掲示板に出てる」
「おー、すごいです!」
「今時あんなもの幼稚園児の頑張ったで賞くらいの価値しかねーじゃん。うちの校長なにかっつーとアレ配るしよ」
「勲章は勲章だよー。軍に入ってからの昇進にも結構関係するって言うよ?」
アカリが嗜めるように言いながら捜索に使ったドローンのチェックをしてコンテナにしまった。
「ま、採掘科の連中の金で食うステーキの方が俺にはありがたいな」
「現金ですねマスター」
ちょうど二人がホットチョコレートを飲み終わったところでチャイムと共にソウイチの声が聞こえてくる。
「おう、お待たせー。ステーキ行くよプリムラちゃん!」
「はーい!」
「おいこらおごりは俺にじゃないのか」




