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騒がしいライバル(後編)


ネシオン……自立型無人戦闘兵器の通称だ。この資源惑星ルモイに、地球人が到達するより前に異星人が残して行ったと思われる自動防衛兵器群。後で採掘するつもりだったのか、ただ単にこの星の保全の為に配備したのか……その真意はわからないがともかく“よそ者”である地球人の採掘作業を邪魔しに現れる厄介な戦闘メカ達である。


地球人としても資源は必要だし、ネシオンから採掘権どうこうという主張も交渉も無く攻撃を仕掛けられているので、なし崩し的に戦闘による事態解決が図られていた。


「怖いか?」


「戦いも怖いですけど……こんな事になっちゃって、もしこの《ゼルヴィード》を取られちゃったら……」


ヒビキは震えるプリムラのピンク色の頭を撫でる。


「勝ったらどうするか、決めてなかったな」


「へ?」


「お前、お菓子とかぬいぐるみ好きなんだろう?」


ヒビキは最初にプリムラと出会ったときの事を思い出していた。コクピット一杯に溢れ変えるチョコやぬいぐるみの光景はなかなかインパクトがあり忘れられない。


今は流石に全部プリムラの部屋に置いてこさせた(はず)。


「は、はい」


「じゃ、ケンには大量にお菓子とぬいぐるみ買わせてやろうじゃねぇか。《アンカレッジ》中のウワサになるぞ」


ハッハッハと笑うヒビキにプリムラはぽかんとした顔を見せる。


「帰ってからの楽しみが無くちゃパイロットは戦場には出られないのさ。緊張は取れたか?」


「は、はい。ありがとう……ございます」


「じゃ、気合い入れて行くぜ!」


「ハイ、マスター!」







二人は戦闘空域に進入した。砂塵はいよいよその濃さと勢いを増し、戦闘マシンである《ゼルヴィード》の機体を揺らす程になってきた。視界の悪い景色の中に黒い蠢くネシオンの影が見えてくる。


「来たな……」


ヒビキがレイ・ライフルの照準を合わせた瞬間、右からグリーンのエネルギー光が疾った。


ビュゥゥゥン!


ビーム弾が一撃で《ナーブ・C(コルテ)》(《ナーブ・B》より装甲の薄い大量生産型の飛行戦闘型ネシオン)を火だるまにした。


「マスター!」


「ちっ、ケンか」


「ぼやぼやしてるんじゃねーぜ、エース!」


挑発しながらケンの《ハイフェリオン》が先行していく。ヒビキもコントロールグリップを握り直しバーニアを噴かせた。


「レーダーを良く見ろよ」


「は、ハイ!11時方向!」


「よし!」


ロックオン、即トリガー。レイ・ライフルから青いエネルギー光が束になって砂塵を裂く。接近を仕掛けて来ていた《ナーブ・C》は何もできずに爆散した。反対側では同じように火球がもう一つ咲いている。


「……カーボニックだぜ」


「マスター?」


「ま、勝つのは俺達だけどな!」








「ケンが6つにヒビキが4つ……どう思う?」


後方で待機しているリュウジがリーダーであるツカサに聞いた。


「このまま行けばケンがギリギリ逃げ切るんじゃない?」


と言う返事の割には嬉しくも無さそうなツカサ。


「じゃあヒビキもウチの隊に入るし嬉しいんじゃないのか?」


「ヒビキが納得して自分から入るっていうんじゃなけりゃ意味無いさ。それにリュウジだってアイツが入るのは反対なんじゃないのか?」


「反対っていう程でも無いけどさ」


リュウジがクールぶって《アンカレッジ》の後輩の女の子からキャーキャー言われていても、その実ツカサの事が好きだというのは女子の間ではそこそこ知られたなウワサであった。


ツカサもそういうのは聞いてはいるが、自分からはっきりと気持ちを言わない男は好みではない。リュウジが自分の小隊で副隊長をしているのはあくまで腕が立つからだ。それこそ、ヒビキとやりあってもリュウジの方が上手だろう。


それでも実は自分以上に攻撃的な戦闘スタイルのヒビキの方がツカサは好きだった。(恋愛的な意味だけではなく)


「ま、たまにはいいんじゃないか?こういうのもさ」


「そうだが……天候が良くないな。大嵐になる。こういう時はマシンの破損が多いって報告読んだだろ?」


「自動操縦の採掘マシンが風に飛ばされて岩にぶつかったんだろ」


「そういう話になってるが、実際の壊れたマシンを見ると結構鋭利な傷が多いみたいでな」


通信モニターの向こうで真面目な顔をするリュウジにツカサも眉をひそめる。


「……その話、ケンには?」


「してない。興味を持つとも思わなかったしな」


「だろうね」


ま、いいかとツカサは持ってきたドリンクに口をつけた。








「こちらは六機……嶋田さんは九機です!」


「敵の数も減ってきた。決着は近いな」


「このペースじゃ……」


不安がるプリムラをよそにヒビキは前方の《ハイフェリオン》とその側に渦巻く大きく黒い竜巻を見た。その中に《ナーブ・C》と思われる小型の敵影が見える。ケンの《ハイフェリオン》はライフルを銃剣(バヨネット)モードにして竜巻の中の敵に接近戦を仕掛けて行った。


「これで、オレの勝ちだな!」


「マスター!」


敗けを悟ったプリムラの悲鳴。しかしヒビキの脳髄は、金属をハンマーで叩くような鋭く重いプレッシャーを感じていた。


「いや、待て!」


正面モニターの中、竜巻に突入した《ハイフェリオン》は唐突にその中から弾き跳ばされて来た。


「うぉああああああーーーーーー……!?」


ぽーんという擬音が似合いそうな放物線を描いて地面に墜落するケン機。ヒビキは急いで通信を繋いだ。


「生きてるか?」


「何なんだよ今のはッ!?」


元気に怒鳴っているので無事なようだ。しかし《ハイフェリオン》のウィングと右足が酷く破損している。戦線復帰は無理だろう。


「竜巻でのダメージ?」


「まさかな……プリムラ、オーバーシュートだ」


「えっ?は、ハイ!」


意図はわからなかったがともかくプリムラはヒビキの指示に従った。レイ・ライフルの銃身を展開。エネルギーを充填し銃身の耐久値ギリギリまで圧力を高める。


「エネルギー充填220%!どうぞ!」


「オーバーシュート!」


レイ・ライフルを竜巻の根元、接地点に目掛け発射する。高エネルギーの塊が地面と共に竜巻を根本から吹き飛ばした。


「あれは……ネシオン!?」


霧散した竜巻の中から現れたのは、足の無い人形のような不気味なシルエットを持つ機体だった。ネシオン特有の仮面に似たセンサー部がついている。


「新型だな。右手に重火器、左が格闘用のハサミ……か?」


「ライフルは強制冷却開始、170秒使えません!」


「接近戦だ!」


レイ・ライフルを腰のホルダーに固定。代わりにメーザーソードを手にした《ゼルヴィード》を突っ込ませる。敵は右腕の銃火器で弾幕を張って来たがヒビキの操縦テクニックにはついてこれず弾丸はただ空に散る。


「接近レンジ、入ります!」


(来る!)


「ヒャッ!?」


ヒビキが不意に急制動をかけてプリムラがつんのめった。直後、新型ネシオンの左腕が異常に延び、その先端のハサミが《ゼルヴィード》の胸元を掠める。


「ケンを落としたのは“コレ”か!」


大蛇のように長い腕が不気味にうねっていた。どうやら背面に折り畳んであった“隠し腕”のようだ。


一旦機体を転回させて距離を取るヒビキを冷や汗で髪が額に貼り付いているプリムラが振り返った。


「な、何で今のわかったんですか?」


「パイロットを長くやってるとな、囁いてくるのさ」


「何が……ですか?」


「さあ。経験か、直感か……もしかしたら亡霊かもな」


ヒビキの真面目とも冗談とも取れない答えにプリムラがごくっと唾を飲む。


「私にも……いつか聞こえますか?」


「さぁな。でもそいつを味方に付けれないパイロットは早死にする。俺の先輩はそう言ってた」


「そんな……キャア!」


鞭のように振り回される敵の腕と弾幕に流石のヒビキも後退を余儀なくされる。ネシオン機の背後を取るように旋回するが、相手も意外に小回りが利くのか的確に追いかけて来た。


「しつこいな」


《ゼルヴィード》の動きが一瞬“止まる”。鋭敏なセンサーを持つネシオンはその瞬間をしっかり捕らえていた。


ビシュゥゥゥゥッ!


唸りを上げて長い左腕が迫ってくる。先端のハサミが大きく開き《ゼルヴィード》の頭部を狙っていた。


「マスター!?」


「釣れたな」


僅かにレバーを傾けギリギリでハサミをかわし、その腕にグサリとメーザーソードを突き立てた。相手が腕を延ばす程ソードはその腕を分断する。ヒビキは腕の半分ほどを切り裂いた所で、ソードを抜き急接近をかけた。


敵は反対の腕から弾幕を張るが、それだけでは《ゼルヴィード》は止められない。


「終わりだ!」


死角となった左側から背面に回り込み動力部を切り裂いて離脱。動力系を破壊されたネシオンの胴体にスパークが散り爆発を起こした。


「ふぅ……これで七機目か?」


「えっ、は、ハイ!」


事も無げにそう言うヒビキに少しおののきながらも答えるプリムラ。よし、とヒビキは地面の上で砂塵にまみれているケン機の上をパスして別のネシオン機を探した。


「おい、こっち先に助けてくれよ!」


「勝負にケリつけるのが先だ」


「ひ、ヒデェ!」


「すまんな、勝負の世界は非情なんだ」


近くを彷徨いていた《ナーブ・C》を数機軽々と倒し、結果ヒビキは11機撃破で勝利をおさめた。勝負を見届けたツカサとリュウジがケンを回収に合流する。


「残念だったな、ケン」


「仲間なんだからもっと優しい言い方あるんじゃないのか?」


「勝手にケンカ仕掛けて負けた上に慰めてくれとか男のプライドってもん持って無いの?」


ツカサのシビア過ぎるコメントに言葉が詰まるケンにヒビキは笑いながら通信を開いた。


「いや、危うく負けるかと思ったぜ」


「あんな訳わかんねえ新型がいなきゃ俺の勝ちだったんだよ!」


「迂闊にあんな怪しい竜巻に突っ込むのもどうかと思うぜ、エース」


「あー!もう、うっせえ!敗けだ敗けだ!何でも言う事聞いてやるよ!」


やけになって大声を上げるケンにヒビキとプリムラはニヤリと悪い笑みを浮かべた。








「何でもとは言ったが……マジかよ」


買い物袋をいくつも持ってふらふらと歩くケンをヒビキが楽しそうに励ます。


「おう、落とすんじゃねーぞケン」


「屈辱だぜ……」


「頑張ってくださいー♪」


《アンカレッジ》内にある唯一の商店街。一行はそこでプリムラの買い物に付き合ってぞろぞろと歩いていた。パイロット科のトップクラスのメンバーが顔を揃えているので嫌がおうにも目立ちまくる。


その上ケンの持つお菓子やぬいぐるみの入った袋の数々は、女子生徒達の絶好の被写体であった。


「見せモンじゃねーぞお前らー!」


「キャー!」


バシャバシャケータイで写真を撮りまくる周りの女の子達に袋を振り回しながら吠えても、それは彼女たちを喜ばせるだけである。


「チクショウ……俺が何したっていうんだ」


「いや、これでケンの女子人気めっちゃ上がると思うぞ。羨ましいな」


「ああ、羨ましい」


「うるせえよ!」


リュウジとヒビキの前で泣きそうなケンをよしよしと慰めるツカサ。


「もうこれで買い物は終わりだろ。ガマンしなよ」


「うう……」


商店街の店の数は多くない。一つしかないおもちゃ屋のぬいぐるみ(クマだのネコだのウサギだの謎の宇宙生物だの)を買い占め、後はケンの金のあるかぎりチョコやクッキーやドーナツを買いまくってプリムラの私室まで帰る所だ。


「これに懲りたら思いつきと勢いでヘンな勝負を仕掛けるのはやめるんだな」


「るせーよ。卒業までに絶対俺が勝ってトップになるからな」


「はいはい、楽しみにしてるわ」


ともあれ《アンカレッジ》は今日も平和であった。



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