宇宙のタケノコ(後編)
四人は護衛機の防衛線に切り込んで行った。慌てて援護射撃を行う《ハーベルティア》とその艦載機。
「全く、少しは足並みってものを……五番、六番主砲は《ステンバンブー》本体を狙いなさい、味方機に当てないように!」
ブリッジで毒づきながらも指示を飛ばすミユキ。この宙域でまともな軍艦はこの《ハーベルティア》しか無い。駆逐艦とはいえどもフル活用する必要がある。
大量のビーム粒子が飛沫の尾を引きながら《ステンバンブー》に直撃する。しかし、大口径の主砲の攻撃すらもその分厚い装甲を貫けない。
「主砲攻撃による損傷、認められません!」
「同一箇所に攻撃を重ねて!接近する護衛機はアームドキャリバー部隊で迎撃を!」
《ステンバンブー》から発進したネシオンの戦闘メカ部隊は地上で戦う《ナーヴ》系機体よりも速い。ヨシノ達もフォーメーションを組みながら必死に立ち向かう。
「《コスモダガー》じゃ追い付けない……!」
コクピットの中で加速Gと緊張に息が詰まるヨシノにツカサが通信を繋ぐ。
「追い回すのは《フェリオン》に任せるんだ。《コスモダガー》は待ち伏せをしろ!」
「ハッ、ハイ!」
少し前までは実戦経験も少ない《ハーベルティア》隊も海賊との戦闘以来メキメキと実力をつけていた。2ヶ月前のヨシノ達なら《ハーベルティア》を守りきれなかったに違いない。
(でも、このままじゃ……)
ミユキは冷静に、努めて冷静に戦況を予測する。《ハーベルティア》はなんとか沈まずにすむかもしれない。しかしいかにヒビキ達が優秀でも三機で《ステンバンブー》は止められない。このままの加速度では一時間を待たずに《アンカレッジ》に激突される。
(諦めるな、《アンカレッジ》を守りきる方法は……)
必死に脳をフル回転させるミユキを通信士が振り替える。
「艦長、輸送艦DD4(ディーディーフォー)から通信です!」
「こんな時に!後にしなさい!」
今周辺は激戦空域だ。輸送艦がノコノコやってきていい所ではない。いきなりやって来たそのタイミングに違和感を覚えながらもそう伝えるミユキに通信士も困惑の表情のまま答える。
「それが……総合火力統括ユニットがどうとかこうとか……」
「……?」
「とりあえず《ハーベルティア》は大丈夫そうか」
インフォメーションパネルで友軍の戦況を確認しながら《ステンバンブー》の砲塔を潰していくヒビキ達だが、攻撃は順調とは言えなかった。とにかく砲塔が多い。大小合わせて100以上はあるようだ。そしてその一つ一つが硬い装甲板に覆われている。
「マスター、また《ステンバンブー》が加速しました!」
「ンだと!?」
鈍足の《アンカレッジ》に接近戦からの体当たりを敢行するつもりか。リュウジが《ゼルヴィード》の二人に叫ぶ。
「このままじゃ守りきれん!オーバーシュートでコイツに穴開けられないのか!?」
「期待するなよ!」
《ハーベルティア》の主砲攻撃にも耐える外殻を持つ相手だ。超火力のオーバーシュートでも抜けるとは到底思えない。
とはいえ、やる前から諦めるのはヒビキの性分ではない。
「至近距離からぶっぱなす!オーバーシュート、用意だ!」
「了解です!」
《ステンバンブー》の激しい対空砲火をくぐり抜けながらレイ・ライフルのチャージを行う。砲身カバーが展開し、銃の中心部にある粒子加速器が唸りを上げながら最大稼働に入った。
《ステンバンブー》の先端側、《ハーベルティア》の主砲攻撃を受けて多少傷ついている部分にターゲットマーカーを合わせる。
「チャージ完了、どうぞ!」
「行けェ!!」
怒号と共に解き放たれる極太のエネルギー砲。モニターが真っ白に焼き付くほどの光量に二人が呻く。
ドォゥン!
「うぉっ!?」
エネルギーを発射しつくしたライフルが耐えかねてスパークを弾かせながら爆発した。対する《ステンバンブー》はさらにその装甲をいびつに歪ませているが、内部にまでダメージは達していないようだ。変わらず《アンカレッジ》に向けて前進を続けている。
「マジかよ……」
「こうなったら、アームドキャリバー全機で押し返すか」
「護衛の奴らに背中から撃たれて終わるぞそれ」
三人が打つ手無く茫然と仕掛けた時。
「男が三人もいて諦めてんじゃネェェェ!!」
聞き慣れた激怒の声。三機のコクピットにパイロットスーツを着たツカサから通信が飛び込んで来る。
「ツカサ、お前何してんだ!?」
「いいからヒビキはさっさとこっち来い!コイツ、直進性がイカれてやがる……!」
「プリムラ!」
状況がわからずヒビキはプリムラにレーダーを確認させた。
「ツカサさん、《ハーベルティア》から出てこちらに向かっています!でもこれ……アームドキャリバーじゃない?」
「一体何に乗ってんだ」
「いいから来いってんだよ!リュウジとケンはとにかく弾全部ぶっぱなせ!」
「わかったよ!」
何かはわからないが、“何か”の手は残されているようだ。ヒビキは二人を残し《ハーベルティア》から出たツカサの方へ向かう。
ほどなく、ツカサが乗ってきた“何か”が見えてきた。
「何だ……コイツは……!」
視界に入ってきたのは白い巨大な物体であった。雑に例えるなら白い巨大な角柱が二本、横並びにくっついている。《ハーベルティア》の主砲に匹敵する大砲が四問、他にも大聖の対空レーザーがあちこちに装備されていた。大きさは《ゼルヴィード》の5倍近い。後方から推進剤の炎を撒き散らし、暴れ馬のようにジグザグに接近してきている。
「これは……《フォルツァード》、完成したの?」
「知っているのかプリムラ?」
不思議そうに呟くプリムラ。
「話が早いな。プリムラ、早く“合体”してくれ。急造のコクピットじゃ操縦がめんどくせえんだ」
「はっ、ハイ!マスター、アレとドッキングします!」
「ドッキングってお前……うわっ!」
操縦を預かったプリムラがその巨大兵器の後ろに《ゼルヴィード》をつける。バーニアの無い中央部に窪みがあり、《ゼルヴィード》は両腕を前に伸ばしながらその窪みに収まった。
コクピット内の各モニターが武装モード変換表示になる。
「フォル……ツァード?」
「はい。《ゼルヴィード》用の強化パーツ、総合火力統括ユニット《フォルツァード》です」
「強化パーツってレベルかよ……」
ちょっとした小型艦をまるごとくっつけているような状態の《ゼルヴィード》にヒビキは呆れた。完全にアームドキャリバーの範疇からは外れている。
「お父様の趣味みたいなモノで……すみません」
「まぁ今は逆にありがたいわな。じゃあ後は任せるぜヒビキ。しっかりやっつけて来てくれよ!」
ボン、と炸裂ボルトを点火させてツカサの乗った簡易コクピットが分離する。
ツカサの言う通りこの状況では火力はどれだけあっても困らない。プリムラからコントロールを返してもらったヒビキが指を鳴らす。
「プリムラ、聞きたいのは一つだけだ……コイツの火力はどうなんだ?」
教官の真意を掴んだプリムラはアンドロイドらしくシンプルに答えた。
「最大火力でレイ・ライフルのオーバーシュートの517%の破壊力が出せます」
「今はコイツを信じるしかないか」
降ってわいた予想外の超火力武装。ヒビキ達の望みを繋ぐには充分だ。グリップを握り直すヒビキをプリムラが振り返る。
「《ハーベルティア》隊が護衛機に囲まれています!」
「わかった!」
巨大ユニット《フォルツァード》と合体した《ゼルヴィード》を戦闘宙域へ急がせる。《フォルツァード》の大型バーニアのおかげで《ゼルヴィード》単体の時より速力は上だ。
「操縦は……難しいけどな!」
「見えました、マスター!」
ヨシノ達を取り囲むネシオン機は二十以上。だいぶ追い込まれているようだ。
「任せる、ぶっ放せ!」
直進を保つのに精一杯のヒビキの代わりにプリムラの細い指がトリガーを引く。《フォルツァード》に装備された中型ビーム砲が一斉に火を吹いた。
何本ものピンク色の光条が暗い宇宙を彩るように突き進み、小型ネシオン機を蹂躙する。全ての敵機を破壊するのに十秒とかからなかった。
「す、すごい……」
「ヒビキ先輩、ありがとうございます!」
「後は任せろ!《ハーベルティア》の護衛に回れ!」
「了解です!」
ヨシノ達をおいて更に前進をするヒビキとプリムラに、《ステンバンブー》から発進した護衛機が一斉に群がってきた。《フォルツァード》が規格外の重武装とはいえ砲門は多数が前方を向いている。全周囲を囲まれると流石にキツい。
「クソ、チョロチョロと!」
元々機動力を活かした戦闘スタイルを得意とするヒビキには、鈍重な《フォルツァード》は扱いにくい。正面からの火力戦ならともかく、この状態で回避しながらの戦闘は無理がある。
まとわりつく護衛機にヒビキ達の前進が阻まれてしまった。リュウジとケンは《ステンバンブー》の方から離れられないでいる。このままでは《アンカレッジ》を守りきれない。
その時。
「マスター!《アンカレッジ》の外壁が!」
「何!?」
回避運動中の《アンカレッジ》の外壁で爆発が起きた。別動隊による攻撃か、と思ったがそうではない。爆発は“内部から”のものだった。
「ヒャッハーーーー!」
その爆発した部分から、喜声と共に三つのマシンが飛び出して来る。ダークグリーンの“三本脚”。海賊達の機体だ。
「アイツら!」
《アンカレッジ》の混乱に乗じたのであろう。最悪のタイミングで脱走を許したようだ。しかし“三本脚”は手に持ったマシンガン(ちゃっかり《ジークダガー》の物を奪っている)でネシオン機達を攻撃した。
鮮やかな機動でヒビキとプリムラを囲む敵機を排除していく“三本脚”から通信が入った。
「おう、またゴツいのに乗ってるなヒビキ」
「パラナ=ナ!?」
相手は宇宙海賊の美少女ボス、パラナ=ナだった。三機のコクピットにそれぞれメンバーを押し込んで脱出してきたらしい。
「メシの礼にここは助けてやるよ!」
「お、おう……」
礼を言っていいのかわからないでいるヒビキの周囲を縦横無尽に飛びながら“三本脚”はあっさりと掃除を終えた。
「今日はここまでだ。縁があったらまた会おうぜ!その時はアタシと子作りして貰うかんな!」
じゃあな!と止める間もなくいずこへともなく飛んでいく宇宙海賊一行。僅かに茫然と見送るヒビキの太ももをプリムラがキツくつねる。
「いってえ!」
「えっちな顔してないで早く行きますよ!」
「何も言ってねーじゃねーか!」
ともあれ、パラナ=ナ達のおかげでまだギリギリタイムリミットには間に合いそうだ。バーニアを目一杯に噴かせてヒビキは射程内に《ステンバンブー》を捉えた。《アンカレッジ》に体当たりするのはもう数分先の事だろう。
「よし、火力全開だ!」
「ラジャーです!」
プリムラがコンパネを叩きロックを解除する。《フォルツァード》の先端部のカバーがスライドし、その後ろから左右五問ずつ、計十門の巨大な砲口が姿を見せた。
「行きます!ガトリングミサーイル!!」
「ガトリング……ミサイル?」
あまりに変な単語の組み合わせに一瞬ヒビキの思考が止まるが、それとは無関係に《フォルツァード》の前方から巨大なミサイルが次々と発射した。
まさにそれはガトリングだ。アームドキャリバーの脚一本に匹敵するようなサイズのミサイルが秒間40発以上のスピードで乱射される。その全てが精密誘導にて一点に集中した。強靭な装甲を誇る《ステンバンブー》もこの攻撃を耐えることはできず、グラリと進路を曲げられてしまう。
「まだだ!全弾ぶちこめ!」
「ハイ、マスター!!」
嵐のような大型ミサイルの連打に、遂に《ステンバンブー》の装甲に穴が開いた。しかしそれは直径20メートル程で、未だ《ステンバンブー》を活動停止させる程では無い。
「残弾ゼロです!」
「中からぶっ壊すしか無いか……」
弾が無ければ《フォルツァード》とてただの巨大な荷物に過ぎない。《ゼルヴィード》を分離させたヒビキにリュウジが電磁ライフルを渡す。
「頼んだぜ、エース」
「リュウジからそういう風に言われるの、初めてだな」
「いいからさっさと行ってこい!」
「外は頼んだぜ!」
穴から内部に飛び込むヒビキ達。その中は巨大な通路が迷路のように繋がる構造になっていた。
「どこかに制御ユニットがあるはずだ」
「レーダーとセンサーを最大にします。内部の電流反応の強い部分が中央部だと思いますが……」
「探せるか?」
「やってみます」
進路はズラせたが、まだ《ステンバンブー》が体当たりを敢行する可能性は残っている。二人は急ぎ制御ユニットを探し始めた。




