惑星ルモイ激戦(後編)
前線は予想以上に混沌としていた。
無傷のアームドキャリバー《ディランジェ》は一機もいない。全員が装甲を弾痕まみれにしており、片腕が無い機体もそこかしこにいる。屈強を誇る第119陸戦隊もネシオンの物量の前に厳しい戦いを強いられていた。
「六十谷隊長!」
「《アンカレッジ》の《ハイフェリオン》か!」
飛んできたツカサ達に六十谷は疲れた笑顔を返した。その愛機もまた肩のキャノンを失い、大型シールドも半分に削られてしまっている。
「健在か、流石だな」
「囮をしていただけですからね」
「謙遜するな。なんとかここは押し抜いて見せる。要塞砲の護衛に回ってくれるか?」
「要塞砲の方はヒビキ達で守れます。私達三機は前線の援護に」
「……すまないな」
六十谷にも大人としてのメンツもあるが、流石にそれを任務と天秤に掛けるような事はしなかった。空中戦力である《ハイフェリオン》が三機いるだけで戦局のコントロールはぐっと楽になるのは確かなのだ。
目論見通り、ツカサ達の上空からの攪乱攻撃でネシオンの足並みは乱れ陸戦隊のラインは大きく前進した。
「大した子供達だ」
「ああ、オレの息子も《アンカレッジ》に入学させっかな」
「オマエのとこのお坊ちゃんにあんなの乗りこなせるのか?」
余裕が出てきたのか陸戦隊員からは軽口も出始める。それをオープンチャンネルで聞きながらケンがボヤいた。
「リンコおばさんのシゴキを知らないからあんな気楽な事が言えるんだよ」
「良いじゃないか。《フェリオン》パイロットはまだまだ足りないからな」
「無駄口叩いてないで掃除に集中しな」
ツカサがリーダーらしく注意したところで地上の六十谷から通信が入った。
「助かった迅矢准尉。このまま要塞砲が着くまで戦線を維持したい」
「了解です。後方も落ち着いたようなので何機か前線に回します」
そんな会話をしている所に補給を終えたヒビキとプリムラが飛んできた。《ゼルヴィード》の手には予備のバッテリーパックとレールガンのマガジンを抱えている。
「補給持ってきましたよー」
「サンキュープリムラ、これでも少し頑張れそう……何だ?」
ゴゴゴゴゴ……と、穏やかでない地響きが彼らの会話を止めた。
「火山の噴火か?」
「いや、震動は規則的に……姐さん、工場が!」
ツカサ達の前方、緩やかな火山地帯に跨がる工場群の一際大きい建物が左右に開く。中から巨大な……バウレリス要塞砲にも匹敵する程の何かが姿を現した。
「な、何だよコイツは!?」
出現したのは、巨大な灰色の戦闘兵器であった。しかし、今まで人類が遭遇した物とは大きく異なるシルエット。
長い四脚の上に胴があり、そして首のようなパーツが長く伸びている。
「キリンさんみたいですね」
「キリン?」
ヒビキは知らなかったが、確かにそれはかつて地球に生息していた哺乳動物に似たシルエットを持っていた。
一方で全身にはミサイルランチャーに対空砲、ロケットランチャーがふんだんに盛り付けられ、まるでロボットアニメの好きな子供が自由にデコレートしたような雰囲気である。
(コイツが防衛の切り札ってワケか)
満を持して、という事なのだろう。巨大兵器と共に残されたネシオンの兵器達が一斉に工場から這い出して来た。奴等に取ってもここが正念場なのだろう。
「各員、総力戦だ!要塞砲が射撃地点に到達する前にこの《グレイジラフ》を叩き潰すぞ!」
六十谷隊長の激が飛ぶ。陸戦隊は包囲陣形を取り護衛のネシオン機を潰しながら《グレイジラフ》を周囲から射撃できるように動いた。
対する《グレイジラフ》もその全身の火器を持って反撃に転じた。胴体の背部からは短距離ミサイルさえ飛んでくる。見かけ倒しではない火力がまるでスコールの如く陸戦隊のアームドキャリバーに容赦なく打ち付ける。
「ぐおおおおおお!」
「怯むな!撃ち続けろ!」
六十谷隊長とその直近の部隊が《グレイジラフ》に集中攻撃をするが、華奢な見た目とは裏腹に頑強な装甲に包まれているのか、ダメージが通らない。上空から援護するリュウジが珍しく舌打ちする。
「そもそも細い脚だと命中させるのも手間だな」
「だからあんな形にしたってのかい?」
「のんびりコメントしてる場合じゃねえ!プリムラ、オーバーシュートだ!」
「了解ですマスター!」
《ゼルヴィード》がレイ・ライフルを両手に構える。砲身が開き、露出した加速器が過剰なプラズマを散らしながら最大まで稼働した。
「チャージ完了です!」
「食らえ!」
ギャァァァァァァ……ン!!
エレキギターを滅茶苦茶に掻き鳴らすような残響と共に高圧エネルギーの光条が一直線に伸びた。並のネシオンなら一瞬で蒸発する必殺のビームが《グレイジラフ》の胴体を貫き……。
「何だ……ッ!?」
貫いた、全員がと思ったところで光条は《グレイジラフ》の直前からあさっての方向へひん曲がった。
「湾曲フィールド!?」
「うそだろ!あのサイズでか!?」
《グレイジラフ》の胸部の装甲が僅かに開き、そしてその前の空間が、まるで水でできたレンズでも浮かんでいるかのように歪んでいる。
湾曲フィールド。重力波で空間を歪ませてエネルギー兵器の直撃を防ぐ防御兵器。連合軍でもまだ試作段階で、ごく一部の戦艦等にテスト配備されているようなレベルのモノだ。ネシオンならば実用化していても不思議では無いかもしれないが、この土壇場で見せられるとはヒビキも夢にも思わなかった。
レイ・ライフルが排熱用ガスを噴き出して冷却モードに入る。ヒビキは無数の対空砲火から機体を守るために高空へ逃げた。最大の武器を封じられ、二人の心を焦燥が押し潰すように締め付ける。
「ど、どうしますかマスター!?」
「どうするってお前……あれじゃレイ・ライフルは通用しねぇ。ミサイルとか爆発系の武器で削るか……」
「メーザーソードで接近戦をかけるか、だな」
苦い顔でリュウジが続ける。あの大量の武器を持つ大型兵器に接近をかける事自体自殺行為に近い。多少ビビるチームメイトにツカサがこの上なく冷たい口調で問いかけた。
「じゃあ尻尾撒いて逃げるか?」
目の前で《グレイジラフ》の頭部から紅蓮の炎が吐き出された。強力な火炎放射器に焼かれ陸戦隊のアームドキャリバーが黒焦げになる。
脱出装置も作動する暇さえなく。
「冗談……!」
レールガンを乱射して対空砲を潰しにかかるケン。
「ンなのを見せられて逃げ帰れるかよ!姐さん、アレやるぞ!」
「良く言った!ヒビキ、もう一度チャージだ」
「マジでやるのかよ!」
ツカサ、リュウジ、ケンの三機の《ハイフェリオン》がフォーメーションを取り直した。
「マスター、ツカサさん達何を」
「わからん。が、アイツらはああなったらもう止まらない。プリムラ、冷却は!?」
「あと28秒!要塞砲射程まであと三分です!」
「やるしかないか!」
ヒビキも《ゼルヴィード》を一旦から離脱させた。安全にチャージ時間を稼ぐためだ。急に動き始めた四人に六十谷隊長が慌てて呼び掛ける。
「おい、無理するな!ここは退却という手も……」
「まだ諦めるには早いですよ。それに、119隊はここまでやられて退却するような部隊でしたか?」
「……ガキども、責任の取り方わかってンだろうな!」
ツカサの煽りに六十谷の目が据わる。それは隊長というより一人の戦士のそれであった。
「野郎共、子供隊が仕掛けるぞ!全弾ぶちこめ!」
「ウオオオオオオ!!」
押されていた半死半生の陸戦隊が隊長の激で息を吹き返す。周りのネシオン護衛機には目もくれず、残されたマシンガンとキャノンが《グレイジラフ》の脚部目掛けて放たれた。
陸戦隊の受けるダメージが急激に増加していく中、《グレイジラフ》も集中放火を受けて流石に姿勢を崩した。そこに背後に回ったツカサ達が一気に接近する。迎撃を受けながら先頭のツカサ機の背部にあるブースターが大きく展開状態になった。
「食らいな!スマッシュビーム・フルパワァァァァァァ!!」
ブースターの粒子解放装置から、《ハイフェリオン》を包み隠す位の大量のプラズマ粒子が放出された。眩いグリーンの光が《グレイジラフ》の全身の火器を撃ち抜く!
「行くぜリュウジ!」
「パワー制御、見誤るなよケン!」
ツカサ機の背後から飛び出したリュウジとケンが残る対空砲の隙間を縫うように前に回り込み、同じタイミングでブースターを展開した。
「粒子解……」
「スマッシュビームだっつの!」
ツカサのツッコミと共に二機から再びプラズマ粒子が放出された。ツカサの攻撃程ではないが二機分の粒子は湾曲フィールドを展開させる間も無くその発生装置を破壊する。
《グレイジラフ》は胸部を焦がされてグラリ、と傾いた。ある程度放出量をセーブしていたリュウジとケンが残り少ないエネルギーで至近距離からの反撃で穴だらけにされたツカサの《ハイフェリオン》を担ぎ上げて離脱した。
「ヒビキ!」
チャージは完了している。ライフルを構えた《ゼルヴィード》を最大加速で前進させるヒビキとプリムラ。
「ターゲット、ロックです!」
「オーバーシュート!」
鈍重な動きの《グレイジラフ》は超音速で迫るエネルギー波を避けられない。その胴体が極太の光条に貫かれ、断末魔代わりの目くら砲撃を撒き散らしながら地に横たわった。
「やった……!」
「やりやがったぞあの子供達!」
「隊長、要塞砲が砲撃位置に着きました!」
「ぶっぱなせ!!」
小高い丘の上に屹立したバウレリス要塞砲が、その太い砲身から巨大な弾を発射した。砲丸投げのようにゆっくりと弧を描いた不恰好な弾頭はネシオン達の攻撃もものともせずに工場へ命中(どちらかというと“落下”に近い感じで)した。
ド……ォォォォォォォォォォ!!
工場内にめり込んだ弾頭の爆発が激しい地響きと衝撃波を巻き起こす。
「総員、伏せろ!」
アームドキャリバーさえも吹き飛ばしてしまうような激しいソニックウェーブ。ネシオン機が次々を飛ばされていく中お互いに手を繋ぎながらヒビキ達、陸戦隊員が必死に耐え凌ぐ。
10秒か20秒か……もしくはそれ以上の時間が過ぎた。砂だらけになった機体をゆっくりと起こし、ヒビキ達は工場、否、工場のあった方を見やる。
「マスター……」
「ああ」
それだけしか言葉が返せない。工場が跡形も無く消失しているどころか、建っていた地帯はクレーターとなって陥没していた。まるで隕石でも落下したかのような有り様だ。
ギシギシ、と間接を軋ませてどうにか歩いてきた六十谷隊長の《ディランジェ》が《ゼルヴィード》の肩を叩いた。
「やってくれたな、准尉」
「全員が全力を出したからですよ」
「そういう謙虚さが長生きに繋がるんだ。忘れるなよ」
ハッ!とコクピットで敬礼するヒビキを置いて六十谷は部下達を土と砂の中から掘り起こしにかかった。レーダーを見るとツカサ達もなんとか無事のようで二人は胸を撫で下ろした。




