惑星ルモイ激戦(前編)
「子供隊に食いついたか」
衛星軌道上。《アンカレッジ》の横に並ぶ大型軍用キャリア艦から地上をモニターしていた六十谷隊長はよし、と腕組みを解いた。
「予定通りだ。強行偵察班発進。続けて第一班、第二班だ」
「了解しました!」
若い女性士官が各隊に発進命令を伝達する。六十谷隊長も頼むぞ、と言い残して自分のアームドキャリバー、《ディランジェ》に向かった。六機収納できる大型突入ポッドにより陸戦隊は続々とルモイに降下していく。
(どの程度出てくるか……そこが肝心だな)
「強行偵察班、降下完了。作戦開始します!」
「おう、死ぬんじゃねぇぞ!」
先行した偵察班はパラシュートを開き急制動をしながらネシオン工場上空を強襲した。
陸戦隊の強行偵察班の仕事は、当然戦闘行動そのものではない。可能な限り敵勢力内にセンサーやレーダーを配置したり、戦力や配置などの情報を入手するのがその主任務である。
当然それが直接戦闘を行うよりも危険であるのは明らかだ。ベテランの陸戦兵で構成された部隊が一気に工場に詰め寄り、地中に潜るドリルセンサーや小型レーダーを撒きまくる。
ドォン!
ネシオン工場から発進した飛行型、そして砲撃型の攻撃が始まった。白煙を引きながら水平射撃で飛んでくるロケット砲の群れに、偵察班の一機が頭部と片手を持っていかれる。
「もう少し踏ん張れ!センサーを撒き終わったら逃げるぞ!」
偵察班長の激励。歴戦の戦士達は攻撃を受けながらも必死に任務をこなし、約80のセンサーを設置した。いくつかは当然破壊されてしまったが生き残った機器は貴重なデータを本隊に送信する。
「配布完了!」
「よし、良くやった!偵察班後退しろ!」
「了解、頼みます!」
満身創痍の強行偵察班が全速力で引き下がる。彼らを守るように六十谷の率いる陸戦隊が工場へ進軍した。全身を重装甲で固め、大型のシールドを構え進むその姿は中性の重装歩兵に酷似していた。
ネシオン工場からはもう百機を越える戦闘メカが這い出して来ている。陸戦隊のキャノンや長距離ビームに仲間を焼かれながらなおその数は増大する一方だ。
「工場のデータはまだか!」
「出ました!地下90メートルまで達しています。非常に大きい構造体です!敵勢力はおそらく倍以上温存している模様!」
「ガッデム!生産中枢ブロックを探せ!バウレリス一発で決めさせる!」
敵は左右に大きく広がり陸戦隊を囲むように陣を形成し始めた。両サイドは第三班とジロウ達のパイロット科が配置されている。彼らの背後には本作戦の要バウレリス要塞砲がゆっくりと前進を続けており、これを射撃位置まで守りきる事が勝利条件となる。
「ヒビキ先輩達が合流するまで、抜かるンじゃないぞ!」
《アンカレッジ》の中にあったありったけのバズーカやミサイルランチャーをバラ撒きながら必死に防衛戦をするジロウ達。作戦完了予定時刻まで、最速であと一時間。
(このペースで守り切れるのか……?)
パイロット科の生徒達はどう背伸びしても実戦経験は少ない。このような大規模戦闘となれば尚更だ。それでも正規軍人を目の前にする者として弱音を吐いて逃げる訳にはいかない。
「やるしかないな、ヨシノ!」
ジロウ機の発射した大型ミサイルが空中で爆散し、接近してきた《ナーヴ》を焼き払った。
「ヒビキ、そろそろ合流しないと!」
「わかってる!」
先行してネシオンを引き付けていたヒビキ達は、追いかけてきた敵を倒しながら工場から離れるルートを取っていた。しかし陸戦隊が本格的に戦闘を開始したとなればヒビキ達ものんびり飛び回っている場合ではない。
ギュゥゥン!
レイ・ライフルの青い光弾が最後の《ナーヴ》を消し炭にした。真っ黒な残骸が地上に墜ちていくのを見てツカサが機体を転回させる。
「よし、急ぐよ。戦況は良くなさそうだ」
「あの要塞砲をゴールラインまで守るってのは大変そうだな」
「だから行くんだよ。飛ばしな!」
四機はネシオン工場へ進路を取りバーニアを最大まで噴かせた。乾いたルモイの空を切り裂いて戦場まで急ぐ。
さして間もなく煙が立ち昇る火山地帯が見えてきた。
「戦況は?」
「良くないな。左右から敵が押し込んできている。ジロウ達は頑張ってるけど、特に《アンカレッジ》隊の方がヤバい」
レーダーをにはネシオンに押し込まれ戦線を歪ませてしまっているパイロット科が映し出されていた。かろうじて線として繋がっているが今にも分断されてしまいそうな防衛ラインだ。そしてそれを抜かれればバウレリス要塞砲を守るアームドキャリバーは一機も無い。
「も少し持ちこたえていろよ!」
リュウジが遠距離ミサイルで敵戦線を後ろから攻撃する。隊列の乱れた所にヒビキやツカサ、ケンがメーザーソードで斬り込んで一気にネシオン達を瓦解させた。
「ヒビキ先輩!」
「良く耐えたな」
「敵はまだ来る。ダメージの大きい機体は下げて防衛ラインを立て直せ」
「了解です!」
ツカサはてきぱきと後輩達に指示を飛ばすと次にヒビキに回線を開いた。
「ヒビキ、まだ行けるか?」
「ああ」
プリムラと顔を見合わせて頷く。推進剤も弾もそこそこに消耗してはいるが、まだしばらくは戦えるだろう。
「少し任せてもいいか?アタシ達は前線を見てくる」
六十谷隊長率いる陸戦隊主力はじわじわとだが工場まで接近を続けていた。しかし、あまりにもそのスピードは遅い。これ以上戦闘が長引けば一気に押し返されてしまう可能性もある。
「わかった、無理するなよ」
「二人もな、油断するなよ」
「ありがとうございます、嶋田さん」
三機の《ハイフェリオン》は噴煙と黒煙の入り雑じる暗い空に再び舞い上がって行った。
「大丈夫でしょうか、マスター」
「無茶は馴れてる三人だ。アウトとセーフのラインの見極めは出来るさ」
プリムラを安心させるために根拠の無い事を言う。正直この物量を相手に正面から戦って全員無傷という訳にはいかないだろう。
(それでも、あの要塞砲を前に進めなけりゃならない……)
ヒビキ達の後方から、不格好な黒い巨大な砲塔がキャタピラに乗って前進を続けている。あまりに重く、巨大すぎるために16連の大型キャタピラでもイライラするほどの低速で。
(砲撃予定地点まであと40km以上か)
「マスター、来ます!」
レーダーを見る。飛行型ネシオンが10機以上の編隊で攻め込んできた。
彼らは死を恐れない。何機破壊されようと敵を殲滅するまで、もしくは全滅するまで、ネシオンは戦いを継続する。
機械故に。
ヒビキは一瞬だけ目の前のピンク色の頭を見た。
「……厄介な連中だ!」
ヒビキもまた《ゼルヴィード》のコントロールレバーを握り直す。
「ジロウ、敵が来るぞ!対空戦用意!」
「了解!」
《アンカレッジ》隊で健在なのは9機まで減らされていた。飛行できるアームドキャリバーはヒビキとプリムラの《ゼルヴィード》だけで、後は陸戦用の《ジークダガー》ばかり。ここは二人が頑張らないと厳しい展開になるだろう。
後輩からレールガンを一挺受け取って機体を浮上させる。
「補給は!?」
「119陸戦隊の補給艦が間もなく大気圏突入するようです!」
「よし、盛大にぶっぱなして行くぞ!」
とにかく要塞砲を破壊されては敗けだ。ヒビキはジロウ達に全力射撃を指示すると敵陣に突っ込んで行った。




