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セクシャル異文化交流(未遂)

「やっと正規軍が到着するんだって?」


《アンカレッジ》のレーダー室は程よく広い割に平時は二人しか常駐していない。そのためレーダー科や親しい生徒達の談話室と化す傾向がある。


この日も当直のアカリの所にヒビキやプリムラ、それにミユキまでもが集まって(それぞれ自前のフローティングスツールまで持参して)来ていた。


「あと11時間かな」


アカリの開いた大型モニターに《アンカレッジ》と惑星ルモイを中心とした宇宙海図が広げられた。画面ギリギリの所から《アンカレッジ》に向け大きな光点の集団がゆっくりと近づいて来ているのが見える。


「あれですかマスター」


「そうだ。しかし結構な大部隊だな」


「ネシオン討伐隊と本格的な採掘隊ですから……《アンカレッジ》の設備だけでは受け入れられませんね。ターミナル船も同行しているでしょう」


ミユキは自分の端末で軍のデータを呼び出してモニターに追加表示させた。艦長権限を持つミユキには一兵卒クラスより詳細な情報が渡されている。


「第119陸戦隊106名、第7採掘大隊205名に後方支援の大型ターミナル船か……《アンカレッジ》の三倍以上の人員だな」


「ルモイがそれだけ期待されているという事ですか?」


「そうでしょうね。ここ数年鉱石資源の豊富な星は見つかってないと聞いていますし。地球圏の復興と防衛設備の為にはまだまだ資源が必要ですから」


「グレートアース計画の終わりはまだまだ遠いって訳ね」


その最前線にいながら、若さのせいかどこか遠い国の話をしているような雰囲気に単調なコール音が割り込んできた。


「ハイ、レーダー管制室、桜野で……はい、ヒビキくんですか?います、はい替わります……ヒビキくん、杜若主任から」


渡された受話器を嫌そうに少し遠めに耳に当てるヒビキ。


「あい、仙崎ですが」


「いつもいつもレーダー室で油売りすぎなんじゃないか?」


「仕事はちゃんとやってますよ」


「まぁいい。お前に会って話したいって奴がいるらしい」


わざわざパイロット科の主任教官づてにわざわざコンタクトを取る相手に心当たりがない。ヒビキは怪訝そうに訊いた。


「誰です?」


「例の鬼娘だよ」


電話の向こうで答える杜若リンコの声は、どこか面白そうであった。










「イザって時は、コレで」


下級生の警護科の生徒から渡された水色のスタンピストルは、手触りといいデザインといい、まるで玩具のように見えた。


「効くのかコレ」


「相手が地球人なら一発で気絶させられます」


「地球人なら、な」


苦笑いで肩をすくめるヒビキにお気をつけてと言って、下級生はドアのロックを解除した。


暗く狭い室内に、安いパイプ椅子に座らされている小柄な人物が一人。ヒビキはスタンスピストルを見せるようにしてゆっくりとその前に進んだ。


ドアを開けるボタンの近くに立ち、慎重に相手を観察する。


「アンナ戦いをする割に、意外とビビりなのか?」


ドスは効いているが幼げもある女の声。


「……ずいぶん流暢に話せるようになったじゃないか」


「メシも意外にウマイしな。暫く厄介になるつもりサ」


椅子に座らされているのは、先日捕縛した海賊娘だ。確か名前はパラナ=ナとか言ったか。


(確かに、な)


ピンク色の肌、整えられてない伸ばし放題の金髪、目立つ八重歯は杜若リンコが言った通り鬼娘という表現が似合うかもしれない。


(捕まえてから、もう48時間が経ったか)


ヒビキはパラナ=ナの両手首にしっかり手錠が嵌められているのを確認してから口を開いた。


「何で俺を呼び出したんだ?」


「初めてアタシに勝った奴を見てみたかったからさ」


「初めてって……何年海賊やってんだ?」


ヒビキの問いに海賊娘がキョトンとした。


「ナンネン?」


「何年……年の概念が無いのかもしかして」


「よくわからんがこちとら生まれた時から海賊よ」


よくわからないままよくわからない自慢をするパラナ=ナ。反らした胸がぷるんと主張するように揺れるのを見るに、それなりの歳なのかもしれない。


「オヤジの代から海賊稼業サ。オヤジはもう引退したケド……アタシが《デュマッザ》に乗ってからは敗け知らずだったから、結構ショックだな」


「そいつは悪かったな」


フン、と鼻息を鳴らすパラナ=ナのアクアマリンの瞳が暗い部屋の小さな照明に煌めいて、海賊には不似合いなほど綺麗だなとヒビキは思った。


「海賊ってのはみんな船暮らしなのか?星とかに住んでたりしないのか?」


「星なんか持ってたら海賊なんかしないだろ。バカか」


海賊にバカ扱いされて少ししょげる。


「ナマエは?」


そう問われて、ヒビキは自分がまだ名乗っていないことにようやく気付いた。


「ヒビキだ。仙崎ヒビキ」


「ヒビキか。お前がここで一番強いのか?」


「まぁ……異論を言う奴は何人かいるだろうけどな」


「なるほどな」


納得したように眼を閉じてそう言うと、パラナ=ナは、ツ……と音もなく立ち上がった。


(縛ってあるのは手だけかよ)


警護科の生徒に胸中で文句を言いながらスタンピストルを持つ手に力を入れる。が、パラナ=ナの眼には敵意や殺意のようなものは無い。どちらかと言えばこちらを何か推し測るような目付きでぐいぐい近付いて来る。


遂にパラナ=ナの小さな鼻先がヒビキの顎にくっつきそうな程の距離になった。撃つか撃つまいか迷いはきっとパラナ=ナにも感づかれてしまっているだろう。


「な、なんだよ」


「ヒビキ、アタシと子作りしようぜ」


「!?」


予想外過ぎる言葉に人生でかつてないほど瞳孔が開き呼吸が止まる。


「な……な、おま、何言ってんだ!」


「ンだよイイダロ。アタシとヒビキの子供ならすげえ強いガキができるぜアタシも一族の為にそういうのもしなきゃだからよ」


パラナ=ナに取って“子作り”とは文字通り子孫繁栄という意味でしか無いらしい。それでもヒビキはそんな風に割り切る程オトコの器量は無かった。情けない程膝を震わせて後ずさる。


「い、いや、ちょっと待てよ」


「何ビビっテンだよ。まさか“ハジメテ”か?アタシもだから気にするな。なんとかなんだろ」


「おかしいだろその理論待てムリムリムリ……」


「大丈夫だってアタシに任せて……」


理解が追い付かない。しかしパラナ=ナの眼は本気だ。興奮で爛々と光っている。それが未経験の体験を前にしてなのか肉欲に対してなのかは当然ヒビキにもわからず……。


シャァッ。


「ダメですぅぅぅぅ!!」


「うわぁぁぁぁっ!?」


絡みつく二人の横のドアが開かれ、二人の人影が銃を構えながら突入してきた。


「仙崎先輩から離れなさい!」


「そそそそうです!撃ちますよ!死んじゃいますよ!」


入ってきたのは《ハーベルティア》艦長の神宮寺ミユキ、そしてプリムラだ。二人とも両手に一丁ずつ、マシンガンだのライフルだの物騒な武器を構えていた。よく見るとミユキの肩からは携帯用ロケットランチャーもぶら下がっている。そんなもんをこの独房でぶっぱなせば四人全員即死は免れない。(いや、もしかしたらプリムラは無事かもだが)


「なんなんだお前ら!」


「マスター、離れて下さい!」


「そうです!こんな野蛮な未開人に先輩の貞操を汚させる訳にはいきません!」


「なんだよ今イイ感じだったのに」


「いいから離れなさい今すぐ!百歩!」


ヒステリー気味に銃を振り回す二人にすっかり毒気も抜かれたのか、やれやれと大人しくヒビキから体を離すパラナ=ナ。


「マタ今度ナ」


と別れ際に耳元で囁く声にヒビキの体がビクリと震える。動けないヒビキをプリムラとミユキが光速の動きで独房から引きずり出してドアを閉めた。


「大丈夫でしたか先輩!」


「お、おう……」


「危ないところでしたね、神宮寺さん!」


「まったくです!あんなところで先輩がひんむかれてあの野蛮な海賊にいいようにいたぶられるなど……ああおぞましい!」


「……何でお前ら中の様子がわかったんだ?」


恐る恐る問いかけてみる。


「ああ、それはプリムラさんが」


「私にかかれば500メートル圏内の盗聴など容易い事ですよ!」


最新鋭ですから!と小さな体に不釣り合いな大きな胸を張るプリムラ。


「カーボニックだぜ……」


「何か仰いましたか?」


コイツにはコンプライアンスというものを教えなきゃならんなと思いながらもヒビキは一応礼を言っておく事にした。


「いや、おかげで助かったよ」


「良かったです。一応消毒室に行きましょう。その後お昼も用意しておきますから」


「今日の学食はビーフカレーですよ!」


ヒビキは二人に手を取られ疲れた体で歩き出した。少しだけ勿体なかったなという気持ちを自覚しながら。



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