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リベンジ・アタック(後編)




「敵増援が戦域に到着。本艦の《フェリオン》隊は全機帰艦……迅矢小隊と海賊との戦力差は三倍近いです」


レーダー手の女生徒の報告に大型レーダーを睨むミユキ。


「これ以上の増援は?」


「現在、各レーダーに正体不明の機動体反応はありません」


「結構……《ハーベルティア》艦首90度上げ!急速上昇!」


「了解!艦首90……90!?」


一瞬素に戻り振り返る操舵手。冷たい視線で頷く艦長のガチの視線を見てロボットの如く素早く前を向く。


「艦首90上げ!第一戦速!」


《ハーベルティア》の蒼の艦体が後ろに倒れるように直立方向を向き、急上昇をかけた。主戦場である小惑星帯からは離れる形となる。


「か、艦長……?」


通信士席で震えながら伺い見る女生徒にミユキは16歳とは思えない悪魔じみた冷酷な笑顔を見せた。


「この《ハーベルティア》に二度もケンカを売る輩には、キツくお灸を据えてやりましょう」


その言葉にミユキ以外のブリッジクルーの肩と手がガクガク震え始めた。










「スマッシュゥゥゥ……ビィィィィィィム!!」


《ハイフェリオン》の両肩に備えられた粒子解放装置からライムグリーンに輝くプラズマが放出され、海賊の“三本脚”を二機丸ごと飲み込む。全身無数の穴だらけになった機体が爆発して宇宙の藻屑と化した。


が、代償としてツカサの《ハイフェリオン》もエネルギーを失い機動力が激減した。慌ててリュウジとケンがツカサ機を掴んで敵部隊から引き離す。


「使うなって言ってるだろ!」


「敵が多いんだから仕方ないだろ!」


リュウジに逆ギレするツカサ機を小惑星の陰に隠して、ケンは追手を誘き寄せるために突撃した。


「確かに数も多いし、結構手練れが多いな」


ツカサ隊は今の攻撃で都合六機を撃墜していたが、まだ赤いリーダー機以外に7、8機残っているのを確認している。《アンカレッジ》から増援が見込めない以上、こちらの不利は否めない。


「さっさと片付けてヒビキのとこに行ってやりたいが……っと!」


ミサイルの集中攻撃を避け、反撃。レールガンの弾丸が“三本脚”の右手を吹き飛ばした。一気にトドメと行きたいリュウジに別方向から二機が襲いかかる。


「全く、勘弁してくれよ!」


「姐さん!エネルギーチャージはまだかよ!」


「ンな急かされたってジェネレータは……何だ?」


唐突に鳴るアラートと共に《ハーベルティア》の通信士が半泣きの声で三人に通信を繋いだ。


「迅矢隊の皆さん、散開してくださぁい!」


「!」


状況を確認する前に三人は指示に従った。直後、戦場の中心を太い艦砲のビームが貫く。避ける間もなく二機の“三本脚”が、近くの小惑星ごと蒸発する。


「《ハーベルティア》!?」


見れば直上から《ハーベルティア》が八門の主砲を乱射しつつ超高速で接近してきていた。敵も小惑星も構わずに撃ち抜きながら戦場を突き抜けようとしている。


「何て戦法だよ!」


それは戦法と言うよりも台風や嵐が訪れたといった方が近かった。海賊機は主砲に砕かれ、または破砕した小惑星の岩塊を浴びて哀れにも破壊されていく。


戦場に混乱と破壊だけを残し《ハーベルティア》は暴走寸前の速度で再び離脱していった。


「あれってお嬢様の(フネ)だろ?こんなおっかねぇことすんのかよ」


「無駄口叩いてる場合じゃねーぞ、ケン!」


海賊達よりもツカサ達の立て直しの方が僅かに早かった。混乱している(どんな星の軍隊でも普通は旗艦が突撃してきたりはしないだろう)海賊機を順に撃墜して行く。


「おらッ!」


ツカサが近くの“三本脚”にメーザーソードを突き立て蹴り飛ばす。残った敵機は流石に不利を悟ったか(もしくは付き合いきれないと呆れたか)後退していった。


「冷や汗かかされたが……あのお嬢様には助けられたな」


「あんなのに艦長任せといて大丈夫なのか?」


「ヒビキが気になる。合流するぞ」









小惑星群の間を縫うように逃げるヒビキとプリムラ。しかし赤い“三本脚”は全く遅れずに《ゼルヴィード》を追随している。


「しつこいですー!」


「海賊より借金取りの方が向いてるんじゃないのかアイツ……!」


忌々しく吐き捨てるヒビキの視界に小さな隕石が入り込んだ。


「プリムラ、スパークルだ!」


「は、ハイ!」


スパークル発射。と同時にコントロールグリップを思い切り右に捻る。瞬間的に拡散する白光のゼルヴィードは姿を眩ませた。


(ぶつかりやがれ!)


隕石は《ゼルヴィード》の機体に隠れる大きさで、相手からは見えていなかった筈だ。このスピードで追跡していれば反応できないでぶつかる可能性は高い。


が。


ギュン!


スパークルの閃光の中、赤い“三本脚”はギリギリで進路を変え《ゼルヴィード》の後を追って来た。


「ウソだろ!」


「グラサンでもかけてるんですかね」


「冗談言ってる場合か!」


逃げながら残りのレイ・ライフルを三射するが、退避機動を取りながらの射撃ではこの強敵にはかすりもしない。


「弾切れです!」


「わかってる!」


ヒビキはレイ・ライフルを捨てた。それが相手に有利を悟らせたのだろう。更に加速をして一気に間合いを詰めてくる!


「マスター!?」


プリムラの悲鳴を聞きながらヒビキは唇を噛んだ。しかし、その瞳はむしろ狩人のそれであった。


“三本脚”が振り上げるアックスに《ゼルヴィード》の左拳を突き立てる。ビームアックスの刃が拳の先から手首、そして肘を裂いてコクピットまで迫って……。


「お前の敗けだ!」


ヒビキの雄叫び。


《ゼルヴィード》には“二本”のメーザーソードが装備されている。右腕で抜いた残りの一本、ピンク色の光刃が煌めきながら“三本脚”の腹部を切り裂いた。


「……ンダト!?」


敵機から聴こえた驚愕。ヒビキはそれに気を払う余裕も無く、返す刀でアックスを持つ右腕も斬り落とす。片腕とバーニアを装備する下半身を失った敵機は頼りなく宇宙空間を漂い始めた。


「マスター、流石です!」


「切り札はここぞってトコまで取っておかないとな」


額から流れる大量の冷や汗を拭う。肩から先が痺れて上手く動かせない。久しぶりに命の危機を感じたと思う。プリムラにはそういう心境を素直に話したくは無いので強がって見せたが。


「さて、と……」


グリップをゆっくり倒し、ヒビキは《ゼルヴィード》の右腕で漂う赤い“三本脚”(もはや0本脚だが)を掴み、接触通信をした。


「これから基地に連行する。抵抗はするなよ」


「……ワカッタ」


ノイズ越しに帰ってきた言葉は、確かに地球の言葉であった。通信を切るヒビキをプリムラが怪訝な表情で振り返る。


「地球の人なんでしょうか」


「さぁなぁ……何かアクセントも変だったけど。今は安全に帰る事に集中しよう。とにかく疲れた。プリムラ、悪いけど帰投任せてもいいか?」


「了解です、マスター!」


メインコントロールグリップを受け取り、プリムラは元気に《ゼルヴィード》の操作を始めた。ヒビキとは違う柔らかな機動で《ゼルヴィード》が仲間の方へ進み始める。


「ヒビキ、無事か?」


ツカサからの通信。


「なんとかな」


「良かった、心配したぜ」


「そっちも大変だったみたいだな。大丈夫か?」


「ああ、神宮寺に助けられたよ」


「ほう」


感心している所に、その本人が乗る《ハーベルティア》からも通信が繋がった。


「仙崎先輩!大丈夫ですか!?」


「通信モニターいっぱいに迫るミユキの心配そうな顔にヒビキもプリムラも逆に笑ってしまう」


「ああ、お陰さまでな。ツカサ達を助けてくれたんだって?ありがとうな」


「そんな、連合軍人として当たり前の事ですわ。むしろ仙崎先輩を助けられなくて本当に申し訳ありませんでした!」


「気にすんな。つーか艦長がクルーの前でそんな取り乱す所を見せるんじゃない。ドーンとキャプテンシートに座ってりゃいいんだよ」


「は、ハッ!……とにかく《ハーベルティア》に着艦して下さい。《アンカレッジ》まで送らせて頂きます」


「助かるよ。あと捕虜がいる。もし他の敵機にも生存者がいるなら捕縛して帰りたい」


「了解しました、《フェリオン》隊を出します」


頼む、と伝えてヒビキは通信を切った。


「……軍人さんって、大変なんですね」


「まぁな」









《アンカレッジ》帰還後。アームドキャリバー整備デッキにはかつてない程の緊張感が漂っていた。


ヒビキ達が戦い、捕獲した“三本脚”は五機。その中の赤い機体の前に並ぶスタン小銃を持つ機動歩兵隊、そしてその後ろからめいめいに銃を持ったヒビキ達パイロット、更にレールガンやマシンガンを構える二機の《ジークダガー》。


《アンカレッジ》の他の全クルーもモニター越しに見ている中、完全防備したメカマンが赤い機体のコクピットハッチを強制解放した。


ぷしゅ、と空気の漏れる音と共にゆっくりと胸部のハッチが開く。


「女……の子?」


誰かの静かな漏らし声。その言葉通り、コクピットから両手を上げて不満そうな表情で出てきたのは女の子という形容が相応しい人物だった。


地球人とは違う明るいピンク色の肌。ライオンのたてがみの如き剛毛の金髪。その毛は胸元から肩口にかけてと両腰から太もも横にかけても生えている。


地球で言う下着程度の面積のボディアーマーを着ている以外はほとんど衣服の類いは着けておらず、それはまるで人の形をした獣のような印象だった。


「撃ツナ」


剛毛金髪少女はかなり訛りのある地球の言葉でそう言った。少女は確かに丸腰であるようだった。戦闘教官が手を下げるのに併せ、銃を持った生徒達が僅かに少女から銃口を下げる。


「名前と所属は?」


「パラナ=ナ。《ロギアン》ノ宇宙海賊」


戦闘教官の問いにシンプルに答えると、そのパラナ=ナと名乗った少女はニィッと笑った。艶やかな唇から見える鋭い八重歯が、彼女の獣性を強く印象付けた。


それでいて、大きな青い瞳には愛嬌さもある。


「何故地球の言葉がわかる?」


「昔、オマエラト同ジ言葉ヲ話男ヲ捕マエタ事ガアル。逃ゲラレタガナ」


「なるほどな……お前達は一旦この《アンカレッジ》で拘束し、本隊の検察隊に引き渡す。無駄な反抗や暴動を起こさなければ暫くの間命の保証はするし飯も食わせてやる」


「“ステーキ”ハアルノカ?」


「合成の一番安い奴ならな」


「イイダロウ」


パラナ=ナは左手を上げた。同時に他の四機のコクピットも開く。中からは毛むくじゃらの男達が出てきた。体毛は白や黒、地肌は茶に近い赤だが顔以外はほとんど体毛に覆われていた。


「ごっついな……」


ケンの呻きにヒビキもプリムラも頷いた。筋骨隆々の肉体で背丈は皆二メートル以上。海賊らしい粗暴な顔にニタニタと笑みを浮かべて機体から降りてきた。とても立場を理解しているとは思えない図々しさだ。


「久々ニ肉ガ食エルナ」


「早ク持ッテコイ。大盛リデナ」


好き勝手な事を言い出す海賊達をパラナ=ナが一括する。


「アタシラハ捕虜ナンダゾ!チッタア大人シクシロ!」


「ウス!」


どうやら名実ともにリーダーらしいパラナ=ナに直立不動の気をつけをする海賊一同を見てプリムラがぽかんとしている。


「なんか……色々と予想外な人達ですね」


「ああ」


「あの女リーダー、ツカサを見てる見たいでなんか他人の気がしないな」


「わかる」


「わかる、じゃねーよ!」


呟いたケンの後頭部をぶっ叩くツカサ。《アンカレッジ》の生徒達の前で海賊達はぞろぞろと連行されて行った。


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