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ネシオン工場見学(前編)



採掘科に対するネシオンの攻撃は日を追って激しさを増してきていた。と言うより、採掘科が調査採掘の範囲を拡げるに従い、発見されて攻撃を受ける確率が増えるのは自明の理であったが。


その採掘科の最上級生であるソウイチから呼び出しを受けてヒビキとプリムラ、それにツカサ達はミーティングルームに集まった。


「廃工場?」


「ああ」


ソウイチがウォールウィンドウにいくつかの写真と地図を出す。ルモイ赤道上のポイント、最近採掘科が掘っていた鉱脈付近から工場のような地下施設が出てきたと言うのだ。


「採掘していたら岩山の中から出てきたんだ。使われなくなってだいぶ経つようなんだが……」


「それがネシオンの工場だと?」


資料を見ながら聞くリュウジにソウイチが頷いた。


「建物内でネシオン機に使われている脚部パーツとかが見つかった。だいぶ古い……測定器によると少なくとも百年以上前の物だったんだが」


「百年ですか!それはすごいですね」


素直に驚くプリムラにヒビキ達も同意した。《アンカレッジ》がルモイに到着したのが三年前。ネシオンはそれ以上昔からこの惑星を防衛していたという事になる。


「とにかくまだ何もわからないが、ここを調査すれば少しはネシオンの事がわかるかも知れない。でも採掘科の装備でこの中に入ってもしネシオンに襲われたら一たまりもないだろ?」


「それでアタシ達に調査してくれっていう訳か」


ツカサはあまり気が進まないようだ。《ハイフェリオン》などの飛行型アームドキャリバーは狭い閉鎖空間の戦闘には向いていない。


「採掘科からパイロット科に調査依頼を出す前に、現場のみんなの意見を聞いておこうと思ってさ」


「あまり潜りたくは無いが……多少は調べておく必要があるだろうな」


「確かにな」


リュウジの意見にヒビキも同意した。どちらにせよ惑星ルモイの開拓のためには排除(もしくは非交戦関係に持ち込むか)しなければならない相手だ。情報が少ない今、彼らの生産工場の情報を分析するのは重要な事だと思える。


「じゃあ、潜ってくれるか?」


「リンコおばさんが行けって言えばな」


パイロット科主任教師の杜若リンコには校長であっても敵わない。じゃあ頼んでくる、とソウイチが部屋を出た18時間後にはリンコからヒビキ達に出撃準備の指令が下った。


「気の早いこって」


「パイロットなんてそんなもんさ」


出撃カウントはあと400を切った。大気圏降下ポッドに機体をいれながらボヤくツカサをリュウジがなだめた。ヒビキもコクピットに入り、プリムラが上から来るのを待つ。


「どうした、早く来いよ」


「い、行きますからあんまりお尻見ないでください」


「人をスケベオヤジみたいに言うな」


足から入ってくるプリムラの腰を支え、前のシートに座らせてやる。一応二人がけのシートになっているがプリムラの方には背もたれもなく、二人の身体はほぼ密着してると言ってもいいくらいの距離だ。


そのプリムラの背がブルッと珍しく震えた。


「なんだ、風邪か?」


「最新鋭の私は風邪なんかひきませんよ」


なぜか唇を尖らせながら答えるプリムラ。ヒビキには彼女の機嫌がおかしい理由に心当たりがない。


「ヒビキ、どうかしたのか?」


「いや。すぐにポッドに入る、ちょっと待っててくれ」


《ゼルヴィード》にレイ・ライフルとフェアリングシールドを持たせてポッド内に固定する。これで四人の出撃準備が整った。主任教師の杜若リンコがそれぞれのコクピットに通信を開く。


「作戦をおさらいするよ」


ピッ。短い電子音がしてインフォパネルに情報が出る。


「今、件の工場周辺には《ナーブ》系ネシオンが何機かうろついている。ツカサ隊はこれを排除しつつ工場を制圧下に置く。ヒビキはその間できるだけ工場内を撮影しながら探索。状況に関わらず三時間後には撤退。いいね」


「もう一人俺と一緒に潜ってくれる奴はいないんですか」


不満そうに言うヒビキのモニターの前で、リンコの表情はいつもの仏頂面のままだ。


「何かあった場合に《ゼルヴィード》なら単機で強行脱出できるだろ。同行機を増やす方が被害が大きくなる」


「パイロットの人権には配慮して貰えないんですか」


「連合宇宙軍人にそんなものは無い」


バチン、とリンコが通信スイッチを切るのを見て全員が溜め息をついた。


「ま、適当にやって早く帰ろうぜ。廃工場って言うならそんな危ない事は無いだろ」


「油断は禁物だよ。……実際潜るのはヒビキだけどさ」


「みんな冷てぇなぁ」


「頑張りましょ、マスター」


カウントゼロ。ツカサの発進合図で並んでいた四個の突入ポッドが順番に射出された。地球よりも強い重力に引かれてヒビキ達は一気に灼熱の大気圏に落ちていく。


(あれか)


岩山の間に目的の廃工場が見えた。円筒系の巨大な構造物が斜めに地面から伸びている。外壁はあちこち崩壊しており確かに朽ちて放棄されたと思われそうな風体だ。


地表500メートルで四機は焦げた突入ポッドの殻を破り、機体を外気にさらした。レーダーとモニターには早くも接近してくるネシオン機が映る。リュウジはすぐにライフルを構えさせた。


「気の早い連中だな」


「もしかしたらまだ工場が生きているのかも知れない。気をつけて行ってきなヒビキ」


「俺が帰るまで、しっかり制空しといてくれよ」


「よろしくお願いしまーす!」


交戦に入ったツカサ達に守られながら、《ゼルヴィード》は地上の入り口前に着陸した。確かにちょうど《ゼルヴィード》が入れそうなゲートが開きっぱなしのままになっており、その奥には真っ暗な空間しかし見えない。


ごくり、とプリムラが喉を鳴らす。


「やっぱり、実際入るとなると怖いですね」


「ここまで来てビビって帰れるかよ。行くぞ」


上空ではツカサ達が戦闘を続けている。のんびりはしていられない。投光器を点けて慎重にヒビキは機体を侵入させた。


まず入った印象は倉庫と言った印象だった。床面には昆虫の脚を機械化したような部品が落ちている。これを見てソウイチ達はネシオン工場だと予想したのだろう。


「確かにネシオンと関わりがありそうだな」


「マスター、奥に通路が続いています」


倉庫のような空間の奥には下に降りるスロープ状の通路があった。これも広さは十分あるが、招かれざる者を拒むような雰囲気が機体の装甲越しでも感じられるようだ。


(実際に何か出た訳でも無いのに、ビビってられるかよ)


もう一度自分に言い聞かせるようにして、レバーを押し込む。ライフルとシールドを構えた《ゼルヴィード》はヒビキの操縦に従ってスロープを下り始めた。


「レーダーとセンサーは?」


「反応無しです」


通路の壁にはパイプやケーブルが埋め込まれており、それは地球人の作る工場と似通っているように見える一方で区画を示すのだろう数字や文字はヒビキの知らない形をしている。ネシオンの機体にはほとんどこういった製造番号や文字は刻印されていないので、彼らを作った文化については何もわかっていないに等しいのだ。


ヒビキはそれらをプリムラに録画させながら機体を更に進めた。スロープの先にはまた小部屋があり、更に二本の通路が並んでいる。


「どーすっかな……左から行くか。マッピングも頼むぞ」


「了解です……!マスター、震動センサに感知。下方向からです」


「何かいるってのか」


レイ・ライフルを床面に向ける。震動原は少し遠いようで、床面をぶち破って何かが襲いかかって来るようではないようだが。


「私たちが侵入したことに気付かれたのでしょうか」


「それを否定できるような要素は何も無いな。慎重に行くぞ」


建物の機能自体は死んでいても、稼働しているネシオンが残っているというのは不思議な話では無い。警戒を続けながら二人は探索を進める。


左側の通路も途中から下がっていった。折り返しを何回か続けた先にドアが行く手を塞いでいた。


「ライフルで吹っ飛ばすか?」


「部屋の中に爆発物があったら、《ゼルヴィード》も危ないですよ」


「確かにな……このスイッチは生きてるのか?」


プリムラの意見に従ってライフルを引っ込めて、替わりに壁にある開閉スイッチのような物を《ゼルヴィード》の指で押す。ギギギ……を重そうな音を立てて金属の大きなドアがスライドした。


「レーダー反応!」


「!」


まだ開いているドアの向こうから“何か”が飛び出してきた。反射的に機体を退かせたヒビキの前に突き出されたのは、大きなカニのハサミのようなパーツだった。


「ななな、何ですかコレ!」


「俺に聞くなよ!」


ドアが開ききり、中から出てきたのは片腕のカニ……と言うか尻尾の無いサソリという表現が似合う機体だった。《ゼルヴィード》の膝くらいまでの大きさで、元は両側にあったのだろうハサミは今は右側しか残っていない。反対側は何か事故かもしくは戦いで千切れてしまったのか。


ブン!と振り回されるハサミをヒビキは冷静にメーザーソードで受けた。ピンク色の光を放つメーザー刃が易々と装甲を分解破壊して切り払う。


唯一残っていた武器を失ってもなおサソリ型ネシオンは戦意を失わず体当たりを仕掛けて来る。この建物の防衛用の機体なのだろうか。


「持って帰って調べたいとこだが……悪く思うなよ」


メーザーソードを逆手に持ち、降り下ろす!胴体の中心部に一撃を受けたサソリはジタバタ暴れる事もなく、すぐにもの言わぬ死骸となった。


「びっくりしましたねマスター」


「流石にな、ああいうのは心臓に悪いわ」


そこにザ……という雑音混じりにツカサの声が聞こえてきた。


「大……丈夫か?ヒビキ」


「ああ、今ネシオンみたいなメカに襲われたとこだ。調べたかったがやっつけちまった」


「無理……するなよ。こっちも戦闘継続して……る」


「了解だ、適当なところで引き返す。ツカサ達も気をつけてくれ」


「了解……」


通信状況はあまり良くないようだ。それに敵にこちらの位置などを把握されるかもしれない。ヒビキは一旦通信を切って周りの状況を確認した。


投光器で照らされるその部屋は、まさに工場といった様相だった。ベルトコンベアに部品のコンテナ、機体を吊るハンガーが並びその中には今倒したサソリと同じ型の機体が組み立て途中のまま放置されている。


「やっぱりネシオン工場なんでしょうか」


「だが、このサソリは初めて見るタイプだ。いつ頃稼働していて、そしてなんで工場が使えなくなったのか……」


あちこち投光器で照らすがやはり詳細な説明が書かれていそうな物は無かった。人間が操作しそうなサイズのレバーやスイッチ等は見当たらず、完全にオートメーションで稼働する工場のようだ。


「奥にまたドアがありますね」


「仕方ない、もう少し進むか」


再びスイッチを押してドアを開ける。そこは今までよりも小さな区画で、資材や組み立て用の機械等は無い。あるのは壁にかけられた金属のプレートだけであった。


「なんだ、コレ」


「文字が……書かれてますね」


プレートは縦横1メートルほどの大きさで、そこに文字……文章と思われる物が刻印されていた。


「プリムラ、コレ翻訳とかできないのか?」


「出来ませんよ。私を何だと思ってるんですか」


「何だとってお前……まぁいいや。撮影して解析部に回そう。それから……!?」


ヒビキが次の行動を決めようとしたところで区画が揺れ始めた。何が起きたのか把握する間もなく《ゼルヴィード》の立っている床面が開く。


「きゃあああああ!?」


「うぉあああああ!?」


二人の悲鳴が《ゼルヴィード》と共に闇の中に飲み込まれていった。







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