その19 これが自分でチュ
その後に投稿された映像には、マンチカンきゅんが1人で出てた。
『葦原英。君はあれから、冒険者ギルドにも姿を現してないそうだね。自信喪失かな? ざまぁ団としては構わないよ、実質倒したようなものだからね』
むぎゅぎゅ……うるちゃいでチュ。
『だが、僕個人としては、決着をハッキリつけたい。場所は新宿御苑、時間はこないだ戦った日から2週間後の、1月24日午後11時。――冒険者として活動していた時間帯だからね。来る気があれば来られるハズだ』
マンきゅんは、肉球の手をフリフリした。
『君の本気を見せてほしいね。じゃあ、待ってるよ』
1分ちょっとの映像は、すんごく話題になってたみたい。
フクダさんにも呼ばれた。
「葦原。その猫は強いのか?」
「はい」
「――お前よりもか?」
「今のままなら」
「はぁ……参ったな」
フクダさんは頭をかいた。
「いずれ、こういう日が来るとは思っていたが……。格闘技のプロが殴り込んできたか」
「呪文の扱いにも長けてます」
「スキがねえな、クソッ」
最強だったから英雄と呼ばれたのが、いつしか、英雄だから最強であらねばならないという、逆転現象を引き起こしていた。
では、それより強い相手が出てきたら?
「フクダさん。もう終わりですね。英雄を引退しますよ」
「あー、待ってくれ。今の流れでそんな宣言されたら、英雄が負けたって吹聴されちまう。冒険者の士気はガタ落ちだ」
たしかに。
「だから葦原。辞めるにしても、うやむやにフェードアウトだ。そののち、別アバターで活動してくれ」
「猫に関しては?」
「無視してほしい」
フクダさんを見据えた。
「戦えませんかね」
「勝算はあるのか」
英雄アバターを脱ぎ捨てて、他のアバターに入ったあとを考えてみた。
変えてから数日は、その体に慣れる時間がいる。それから戦闘できるまでに仕上げるには、日数が足りない。
苦笑したフクダさんは、葦原の肩を叩いた。
「運営からの『お願い』だ。葦原、今までありがとう。静かに英雄は消滅だ」
「――はい」
ぎゅっと、手を握りしめた。
ネズミのボクは、あわっこに入り浸ったでチュ~。きゃほ~。
「いぇ~い、クロエたん!」
「ランペルさま、ようこそ」
黒エルフたん、ニッコリ。んでも、念話では心配そうでチュ。
(英雄さま……。本日は、ムリしない方がよろしいですよ?)
(ほえ? だいじょびでプよ?)
な~んか妙な感じでチたけど、今日はモーモーたんとのあわっこでチュからね。紳士は燃えるでチュ! ンモ~♪
テテ~ッと待合室に行ったら、理由が分かった。
「あっ!」
そこには、おパンツを被ったショタきゅんが。
「マ、マンきゅん……え!?」
「おや。また会ったね、甥っ子くん」
映像と変わらない肉球をフリフリしてくれる。
「ああ、なんだか巷には、僕に似た猫がいるらしいね。名前は『マンチカソ』とか」
「ほえ?」
「僕は、最後が『ン』だからね。きっと真似たんだ」
「あ、あはは……」
――違うでチュ。絶対本人でチュ。
マンきゅんは、クスリと笑った。
「ランペルくんは、本館でもよく遊ぶの?」
「マンきゅんもでチュか?」
「最近はそうだね」
「――んねえ、マンきゅん?」
ピョンコっと、となりに座った。
「マンきゅんは、ここが好きでチュか?」
「ああ、紳士だからね」
「そしたらなんで、ツブそうとするんでプか?」
「うーん」
マンきゅんは、おパンツごしに、ほほをポリポリかいた。
「僕は別に、映像の彼じゃないけどさ。もし彼にゲーム好きの弟がいて、その弟が、『マホロバ・リアル』でトラウマを負ったとしたら、ざまぁ団に協力するかもね」
あうう……やっぱり重かったでチュ。
「昨年末に『マホロバ・ライト』も出来たからさ。さっさとココを閉鎖しろって思ってても、当然かな」
「んでも……ライトの方は、リアリティが安っぽいでチュ」
「死ぬよりはいいさ」
「魂は、マホロバ・リアルを求めてるでチュよ?」
「おや、ネズミ君はエゴ丸出しだね」
マンきゅんに流し目を送られる。ちょっとドキドキ。
「だけど、正直な気持ちは好きだよ。正義のためとか言われるより、断然いい」
「ん~ん」
ボクはフルフルとネズ耳を揺らした。
「マンきゅんも、でチュ。マンきゅんの魂も、ここで救われたんでチュよ」
猫目をぱちくりしたマンきゅんは、寂しそうに笑った。
「そう見えるかい?」
「おパンツ被ってるでチュから」
「ははは」
軽く笑ったマンきゅんは……んでも、やっぱり寂しそうだった。
「そのワガママは、脳死するゲームを残していい理由にはならないよ」
マンきゅんは立ち上がって、「呼ばれた。じゃあね」と言い残し、風のように去っていった。
ボクもそのあと、モーモーたんとあわっこを楽しんだ。
◇
「んねえ、モーモーたん」
「なあに?」
プレイ後は、モーモーたんに膝枕してもらってたでチュ。
「英雄が、マンきゅんに呼び出されてるってコト、知ってるでチュか?」
「ええ」
あったかいお手々で、頭を優しくなでなでしてくれる。
「ランペルくんは、行くの?」
「行ったほうがいいでチュよね」
「あら、なんで?」
「みんなが期待してるでチュ。運営さんは『行くな』って言ってくれたでチュけど、倒せるなら倒した方がいいに決まってるでチュよ」
モーモーたんは、ネズ耳を優しくもにゅもにゅしてくれた。
「ランペルくんは、とってもよく頑張ったと思うわ」
「モーモーたん……」
「ね。逃げちゃおっか」
「ほえ?」
ひょいとボクを起こして、むぎゅっと抱きしめてくれる。ミルキ~な、甘い匂いでチュ。
「私もね。前に狙われたとき、怖かったの。私が1位になっちゃって、悪かったのかなって」
「あれは、モーモーたんのせいじゃないでプよ!」
フンスッと鼻息を出した。
「悪いプンスコがいたからでチュ。相手はズルいヤツだったでチュからね。あーゆーふうに、怖かったり、アブなかったりしたら、逃げちゃっていいんでプ」
「ありがとう」
スッゴク優しくほほ笑んでくれる。エヘヘ……。
「でもね、ランペルくん」
「んみゅ?」
「私にはそう言ってくれるのに、なんで自分はそうしないの?」
「――はうっ」
頭を抱えたら、クスクス笑われた。うみゅ~、弱いでチュ。
ネズ耳をカキカキした。
「ボクは……仲間の紳士を助けたいでチュ。彼は……ボクなんでチュ」
「ランペルくんがそう思ったら、それが一番よ」
「あぃがとでプ」
色々と、よけーなコトを考えすぎてたでプね。
困ってる。だから助ける。
んみゅ、シンプルでチュ。
「モーモーたん。もしかしたら、お別れかもしれないでチュ。紳士を助けるには、ボクも全力でブツかるしかないでチュから」
「大丈夫よ、ランペルくん。いつでも待ってるわ」
「――あぃがとでチュ」
きゅっと、握手をした。
夜11時のちょっと前に着いたら、新宿御苑は人であふれてた。ただの野次馬がい~っぱいなんだろうけど、その中には冒険者や「ざまぁ団」の別アバターもいると思う。
ピクニックが出来そうな原っぱには、マンきゅんが1人で立ってた。おパンツは被ってない。
「おや」
あ、気付いたでプ。
「ランペルくん。君も見物かい?」
「違うでプ」
【武具作成】で槍を出して構える。
「英雄として、紳士の暴走を止めるでプ」
「へぇ……。冗談ってワケじゃあないみたいだね」
マンきゅんも、同じく槍を出した。
「そうか。君が英雄だったのか」
「でチュ」
「君のことは、紳士として気に入ってたよ」
「ボクもでチュ」
11時になり、お互いにダッシュで近寄った。まずはマンきゅんの連続突きをかわして、同じようにお返し。んでも、軽くいなされる。
(なるほど、認めよう。今の動きは本人だとね)
(あぃがとでチュ!)
マンきゅんが激しく《神業》のオンオフを切り替えてアタックしてきた。タイミングをぴったり合わせて《神業》を発動。連続のナイフ投げはバク転でかわす。
「ネズミくん、そこだ!」
勢いよく投げられた槍を弾くと、マンきゅんがいない。
――後ろ!?
その途端、ガシィッと羽交い締めにされた。
「むぎぎ……!」
「捕まえたよ。チョコマカ動かれると困るんでね」
「あ……甘いでチュ~!」
一瞬で拘束をハジき飛ばすと、すかさず【武具作成】で槍を構え直す。
「なっ!?」
マンきゅんのスキをついて、槍で足を切る!
「ぐっ……〖脱出2〗……!」
「入れてたでチュよ! 便利でプからネ!」
うみゅ、いっつも思ってた。
正義の味方ってヴァ、ワルモンのヒキョーな手をポコポコ食らうけどサ?
中には、「あれ、コレ使ってもいいんじゃない?」ってワザもあリュの。
なら、使っちゃえばいーじゃんって。
「くっ……よもやランペルくんが、違法呪文を使うとはね……」
「ほえ? マンきゅんだって入れてるよね? それはズッコイと思うな~」
ネズしっぽでほほをポリポリしてる間に、マンきゅんは【再生】で足を治した。
「マホロバは……閉鎖すべきだ!」
「ダメ! ゼッタイ続けるでチュ!」
槍と槍でクリティカルのブツかりあい。ハゲしく火花が飛び散る。
「マンきゅん! ここはネ、使いたい人だけが使えばいーんでチュ! ムリに入る必要はないんでチュよ!」
「人が死んでるんだぞ!?」
「ボクの魂は、ここで救われたんでチュ!」
「分からず屋が!」
「それはマンきゅんでチュ!!」
防げる攻撃は、どっちもクリティカルで止めちゃえる。それは前回と同じ。
違うのは、ボクの方が小さいこと。
つまり……コッチが有利!
「マンきゅんも救われたでチュ! そこを無くすなんて、プンスコでチュー!」
何度も槍で刺して、とうとうマンきゅんの両足を切りつけた。
「う、うぐぐ……」
マンきゅんは仰向けに倒れた。
「くそぉ……!」
マンきゅんは、息も絶え絶えだった。
「なんで、なんでこの世界は……魅力的なんだよぉ……!」
「魂が、解放されたからでチュよ」
槍を持って見下ろした。マンきゅんは、腕で目をこすってる。
「ライトは、違うんだ……。あれは、作り物なんだ……」
「――でチュね」
「だけど……脳死を引き起こした世界が好きとか、人間としてダメだろう……?」
「違うでチュ。――誰になんと言われようと、『これが自分でチュ』ってコトを言えなくなったとき。そのほうが、ダメ人間でチュ」
みんなもいっぱい見てるし、【衛生球】もいっぱい録画してるでプね。
「ボクの英雄としてのお仕事は、たぶんこれで最後でチュね」
「みんなに、バレたからかい……?」
「んみゅ。――んでも、それでもマンきゅんを助けたかったでチュ」
「クソッ……カッコ良すぎるだろ……」
腕をどけて泣き笑い顔を見せたマンきゅんは、可哀想な子ネコきゅんでチた。




