第四十話(ミア視点)
本日二度目の投稿です。
「オェェェェェ! がはっ……! がはっ……! い、医者を呼べい! 早う! 医者だ! 毒キノコを食べてしまったァァァァ!!」
さっきまであれ程、毒キノコなどあり得ないと豪語していたユリウスは見苦しく叫び出すものだから、パーティーの参加者たちも騒然となる。
両親など真っ白になった顔をお互いに見合わせて一歩も動かない。
「僕を殺そうとした報いだ。なぜ、僕の暗殺など企んだのだ?」
「黙れ! 引きこもりの能無しのくせに! 僕が王になるべきなんだ! それが国の繁栄の為なんだ! その邪魔者を消そうとして、何が悪い!」
ユリウス殿下は恨みを込めて、フェルナンド殿下を殺そうとしたことを認める。
周りの貴族たちもユリウス殿下が暗殺計画を立てていたと知り、ざわついていた。
「いや、自業自得じゃないか? フェルナンド殿下を殺そうとしたんだろ?」
「うん。ユリウス殿下がまさかそこまで何も考えてないとは思わなかった」
「むしろ、こんな計画立てたら死罪が適当じゃないか……」
中立派の貴族たちはこぞってユリウス殿下の非難をする。
ユリウスはそれを聞いて顔を真っ赤にした――。
「自業自得だと! 貴様らまで僕を愚弄するか! この男は害悪なんだ! アデナウアー侯爵! 僕を助けろ! フェルナンドを殺せぇぇぇぇ!」
ユリウス殿下を非難する声に彼はキレる。父に無茶振りをするも、父は口をパクパクするだけで、動いてはくれない。
ていうか、そろそろ気付いてもいい頃なのに……。ユリウス殿下が毒キノコを食べた割にはやたら元気なことに。
普通は呼吸困難になって、喋る余裕なんて生まれないわよ。まぁ、仕方ないか。そうだと、思い込んでいるんだし……。
「殿下、ご安心ください。毒キノコなど殿下は召し上がっていません」
「……ミア? そ、そういえば体の熱さが消えたような……」
ユリウス殿下は私に声をかけられて、自分の体温の上昇が収まったことに気が付いた。
状況が読み込めてないようね。じゃあ、教えて差し上げるわ……。
「治癒術式の応用で、体内の温度を僅かに上昇させました。2~3度上げれば体の異変を感じるには十分ですからね」
「い、いつの間に……そんなこと……」
「お忘れですか? 私は歴代聖女の中で術式の発動スピードが最速と言われております。誰にも気付かれずに術を使うくらい造作もありませんわ」
種明かしをしたときのユリウス殿下の顔と言ったら傑作であった。
ただ、ひたすら呆然として怒りも悲しみもなく完全に「無」の表情をしていたのだから。
「ユリウス殿下……。あなたは第一王子フェルナンド殿下の暗殺を首謀した大罪人です。ジルトニア国法に基づき、私はあなたに一方的に婚約破棄を言い渡すことが出来ます」
「こ、婚約破棄……? お、お前は……お前は、愛する僕を裏切ろうと言うのか!?」
婚約破棄を告げた私にすがりつく様に、ユリウス殿下は気持ち悪いことを言ってきた。
お、驚いたわね……。この人は私に愛されてると思ってたの……?
「おめでたいですわね。殿下……。私が……、私が……、敬愛する姉を売った男を愛するだなんて。おぞましいことを仰せになるのは止めてくださいませんか?」
「ミア! そ、そんな! ミア……! 僕は君を愛して……! 君のためにこの国の王に……」
ユリウス殿下はヘナヘナと地面に座り込んだ。ようやく自分の立場を理解したようね……。
「ミア! お前、どういうつもりだ! ワシを、殿下を、なぜ……!」
「そうですよ。ミア……。あなたらしくもない。あなたはそのような目をする子じゃなかったではありませんか。一体なぜ……!」
両親はお飾りだと思ってた私がユリウス殿下に引導を渡してやったことに驚いてるみたいだ。
当たり前かもしれないわね。だって、あなたたちはこれから――。
「続きは後で話しましょう。お父様、お母様、監獄に入ってしまわれるのは残念でなりませんわ」
「「――っ!?」」
もちろん、両親も投獄される。死罪もやむを得ないだろう。
私はそれを知っていて、実の親を罠に嵌めたのだ。世間がそれを聞くと私は大層な悪女になるのかもしれない。
両親が意気消沈してる中、ユリウス殿下は急に立ち上がり……大声で笑い出した。
「ふははははっ! ミア! まんまと騙されたよ! しかし、監獄に行くのは君だ! 僕を罠に嵌めようとしたのだからな!」
「ユリウス殿下、見苦しい真似は止めてください。多くの貴族たちがあなたの愚行を目撃しております。罪は逃れられません」
「愚か者は君だ! 僕は王子なんだ! この中で一番偉いんだ! 貴様らの証言など全て握り潰してやる!」
いや、フェルナンド殿下も王子だから。それは無理でしょう。
でも、この人にとって一番怖いのは――。
そう、私が思ったとき……給仕服を着ていた男が一人……ユリウス殿下の前に立つ。
「これ以上、恥を晒すマネは止すのだ。ユリウスよ!」
「ジジイ! 口の利き方に気を付けろ! 僕を誰だと心得る!」
「貴様こそ、ワシを誰だと心得る! よもや、この声を聞き忘れるとは! 情けない!」
男は帽子を取り、付け髭を外した――。
すると、威勢が良くなっていたユリウス殿下の顔色が再び青くなる。
そう、この男は……。変装してパーティーに紛れていた――。
「「こ、国王陛下!」」
会場内は再び騒然とする。病に伏しているジルトニア国王その人が公の場に現れたからだ……。
「ミア、お主の姉の薬は実に素晴らしい。それだけに、彼女を失った損失は計り知れないがのう」
フィリア姉さんは陛下の病気を完治させる薬を完成させていた。
つまり、陛下の病状は既にほとんど回復しているのだ。もちろん、まだまだ無理は禁物だが……。
彼の希望で……こうしてパーティーの現場に来てもらった。自分の目でユリウス殿下を見極めたかったらしい。
「この大馬鹿者を放置したワシの責任も大きい。まったく、フェルナンドを手にかけようとするとは……」
「ち、父上……。違うんです!」
「陛下! 陛下の影武者に狼藉を働こうとした者たちを捕縛しました!」
ユリウス殿下の弁解と同時に陛下の側近が彼に報告をする。
どうやら、国王陛下直属の親衛隊が目を光らせてくれたおかげでユリウス殿下からの刺客も捕まったみたいだ。
それを聞いてユリウス殿下は言い訳すら出なくなったらしい。彼は黙って、膝をついてしまった……。
「ユリウス、そしてアデナウアー侯爵とその夫人及び、今回の騒動の協力者たちを地下牢に投獄せよ!」
「「――っ!?」」
毅然とした表情で有無を言わせぬ陛下の立ち振る舞い。
彼も本当は辛いのでしょうが……責務を果たそうとしている。
こうして、ユリウス殿下は完全に失脚した……。彼は断罪から逃れられないだろう。
しかし、これは準備に過ぎない。魔物たちの勢力はこうしている内にも強まっているのだから――。




