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妖怪ネットワークどっとあや  作者: あずさ
有馬秀の日常(仮)その2
28/36

01「妖怪の仕業だろう」

「秀殿ーっ!」


「んは!?」


 某夏の日。

 講義のレポートを書いている途中で寝落ちていたらしいオレは、いきなりの大声に反射的に跳ね起きた。

 ビビった。不整脈にでもなった気がした。


 どぎまぎしながら声の方を振り向けば、そこには息を切らしたイケメン天狗のテンさんの姿。

 イケメンって息を切らしてても様になるんだよな。スゲェ。

 どうでもいいケド、ここ、オレの部屋。

 セキュリティーも何もあったもんじゃねぇ。

 いやほんと今更だケド。


「テンさん、はよっす。何なに、スゲービビったんだケド」


「秀殿!」


「うぃっす」


「電源を貸していただけないだろうかっ」


「……うん?」


 スゲー勢いで迫られるもんだから、ちょいと仰け反っちまう。

 テンさんデケェし、近くに来られると見上げなきゃなんねーのはどうにかならんもんだろうか。

 オレだって百七十以上はあるんすケド?

 普通に大きい方なんすケド?

 なんか周りの野郎はデケーのが多くて時々感覚が麻痺しそうになるんだケド、何なんだろうなこのインフレ具合。

 まあ? それでも? オレは?

 割と高い方ですケドね!


「店でネトゲをしていたのだが、どうにもパソコンの調子がおかしくてな」


「ぶは、テンさんブレねぇな!? だからってオレんとこ来なくても」


「いや、厳密にはパソコンというより、どうも店全体がおかしいのだ」


「へえ?」


 答えながら、くぁ、と一つ欠伸。

 中途半端な睡眠時間でどうにも眠いんだから許してほしい。

 つーか首痛えぇ……今度はちゃんとベッドで寝よう。

 つっても、時計を見たらまだ夜の八時だったケド。


 ちなみに、っつーか、まあ、テンさんの言う通りなんだケド、テンさんは今ではネットゲームにハマっている。

 元はテレビゲームだったんだケド、いやあ、技術の進歩ってすごいよね。

 そんでもってそれに確実についてってるテンさんの柔軟性もスゲーと思うんだわ。

 最近はVRだっけ? 確かバーチャル・リアリティ。

 テンさんはそれにも手を出し始めたらしい。

 吸収力ハンパねぇなこの天狗。


 まあ、それはさておき。


「店全体が変ってどーゆう……ん?」


 言いながら机の上のノートパソコンを引き寄せたオレは、真っ暗な画面に瞬いた。

 レポートはキリのいいところまでは書いてたはずだし、とりあえず保存だけして――でもマウスを動かしても相変わらず画面が暗――暗い?

 はっ?


「え、あれ、パソコン落ちっ……うああああ落ちてる――!?」


 嘘だろ何で!?

 待ってオレの数時間!


 とっさに確認してみたらコンセントは抜けてなかった。

 普通に電源が落ちてるだけみたいだ。

 慌ててボタンを押せば、ゆっくりと画面に光が入る。

 だけど……ああ、うん、デスヨネ。

 保存する前に寝落ちてたんだからデータなんて残ってるはずがないわな。

 知ってた。秀知ってた。

 でもわずかな希望に縋りたかった。

 嘘だろー……。


「……ん?」


 うなだれていたら、また電源が落ちた。


「……え」


 オレ、今何もしてないんだケド。

 首を傾げつつ、もう一度電源をオン。

 画面にほのかな光が灯って――そのまま、また消える。

 んん?


「秀殿のところもか……」


「なになに、どゆこと」


「店でもそうだったのだ。すぐに電源が落ちる。これはどうやら……」


 神妙に呟いたテンさんは、真っ直ぐにオレを見て厳かに呟いた。


「妖怪の仕業だろう」


 ……えーと。


「パソコンの電源を落としまくるのが? そんな妖怪いたっけ?」


 つーか、そんなことに何の意味があるってんだ。

 いやまあ、妖怪ってケッコーそーゆうトコあんだケドさ。意味あんのか分かんないことを延々としてたり。

 でもまあ、その意味はオレらが図るものでもねーんだよな。

 なんて、オレはてきとーに分かったフリをしとくことにしてんだケド。


 それにしても、天狗のテンさんにちょっかい仕掛けるたぁ、肝の据わった妖怪もいたもんだ。

 ネトゲに血眼になってるとはいえ、天狗といえばれっきとした大妖怪様である。


「とりあえずコン姉たちにも相談してみるか……、ん?」


 頭をかいて部屋を出ようとしたら、ドアが開かなかった。

 建て付けが悪いワケじゃない。

 そもそも全然動く気がしない。

 そんでもって一斉に部屋の電気が落ちる。

 真っ暗だ。


「うわ!? 停電!?」


「……いや、違う。秀殿、外を見てみろ」


「……うっわーマジだ。外はいてんな。この部屋だけか」


 ついでにクーラーもテレビも全部落ちたみたいで、ブレーカーごとやられたのかもしれない。

 全部の電源が落ちた部屋は、外から微かな音が聞こえるくらいで不気味なほど静かだ。


「気をつけろ。すでに何者かが侵入してるぞ」


 テンさんがオレを庇うように前に立って、辺りをキョロキョロと窺っている。

 いやマジでどうなってんのオレの部屋のセキュリティ。

 ガバガバにも程があるんじゃねーの。


 顔をひきつらせるオレを後目しりめに、テンさんが火の塊を宙に浮かべる。

 それがぼんやりと周囲を照らした。

 揺らめく炎に照らされたオレの部屋は、ちょっとばかしいつもと違った風に見えてくる。

 ……こんな密室で火とか怖いなー。

 テンさんなら大丈夫だって信じてっケドさ。


 そんなことをつらつら考えていたら、テンさんの火がフゥッと掻き消えた。


「む……」


「ヒヒヒ……」


 テンさんの不服そうな声に、しわがれた声が返ってきた。

 暗さに慣れてきたオレの目にもぼんやりと人の影が見えてくる。

 極端に腰が曲がったソレ。


 よく見ようと、オレはとっさにワイフォン――今じゃ誰もが持っている多機能的携帯電話だ――を取り出す。

 それを起動させてライトを向けようとして――その手首を、そっと掴まれた。

 ガサガサとした骨張った手。

 見ると、いつの間にかオレの隣に立っていた人影がこっちを見ていて。

 ニタァと、めいっぱいに口の端を上げてオレを見上げてきた。

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