表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏の顔がヤバいイケメン君が狙う美少女を助けてから、気づけば彼のハーレムごとブチ壊して美少女全員オトしていました  作者: 本町かまくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/86

第84話 上手く言えないから


 それから、須藤はパトカーに乗せられ警察署に連行された。

 

 重ねた罪の多さ、重さからおそらく重い処罰が下されるだろう。

 もしかしたら一生刑務所から出てこないかもしれない。


 そして、俺たちはというと。


「すまないね、色々あった後だというのに長い時間話を聞いてしまって」


「いえいえ」


 警察署の入り口で羽生さんが俺たちを見送ってくれる。


「後のことは任せてくれ。と言っても、やることは後処理くらいなんだがね」


 とはいえ、羽生さんはこれからが大変なはずだ。

 なのに俺に気を遣わせまいとそんな素振りを見せない。

 やはりさすがだ。

 俺みたいに周りだけじゃなくて、日本全体を守ろうとしている人は。


「気を付けて帰るんだよ。そこの“お嬢さん”をきちんと送って、ね」


「はい、もちろんです」


 隣に立つ一ノ瀬を見る。

 一ノ瀬は穏やかな表情で俺に視線を返してきた。


 一ノ瀬も須藤に人質に捕られたということで事情聴取を受けていた。

 さすがに顔に疲れが見える。


「じゃあ、また“あの場所”で」


「はい、また」


 羽生さんに手を振り、歩き始める。

 辺りはすっかり夕方の景色に移り変わっていて、その中を俺と一ノ瀬は並んで歩いていた。


「疲れたわね、色々と」


「そうだな」


 色々。

 本当に色々あった。

 この短い、およそ半年の間で。


「でもよかったの? 店の人とか、良介のお母様と帰らなくて」


「瞳さんはまだ色々とやることが残ってるみたいだし、母さんは……まぁ、家にいるんじゃないかな? フラフラしてる人だし」


「ふふっ、そっか」


 なんだか今頃、父さんの写真を見ながら父さんのことを思い出しているような気がする。

 

 俺はまだまだ父さんみたいに強く、気づけば周りに人が集まってるような男にはなれてないけど。

 ……でも、これからそうなりたいと強く思う。

 それはやっぱり――隣にいてほしくて、守りたいって思う人がいるから。


「それにさ、一ノ瀬をちゃんと家に送りたかった。二人で肩を並べて歩いて、話がしたかった」


 立ち止まり、一ノ瀬の方を見る。


「良介?」


 一ノ瀬も立ち止まり、首を傾げる。

 俺は一度息を吸って、吐いて。

 それから話し始めた。


「一ノ瀬にはすごく感謝してるんだ。あの日、空き教室で俺を抱きしめてくれたとき。すごく救われた。正しく前を向いて、もう一度歩き始められた。それは全部、一ノ瀬のおかげなんだ」


「そ、そんなことないわよ。良介が元々強かったから。私はただ一緒にいて、少し話を聞いたくらいで、良介が私にしてくれたくらいのことは全然……」



「それが、俺にとっては信じられないくらい“救い”だったんだよ」



「っ! 良介……」


 言葉が上手くまとまらない。

 話す中でまた気持ちが溢れ出して、これも伝えたい、あれも伝えたいと思ってしまう。

 

 だけど、その一つ一つを言葉にする時間は、きっとこれからいくらでもあるだろうから。

 変に上手く言おうとかは考えない。

 元々言葉が上手いタイプではないし。

 もっと直接的に、俺のやり方で伝えよう。


「一ノ瀬が須藤に攫われて、人質に捕られたとき、正直怖かった。危険な状態にあるのが自分だったら、そうは思わないのに。だから二択を迫られたとき、迷わず俺が死ぬことを選んだんだ。……そのとき、気が付いたんだ。いや、もっと前から気が付いてた。一ノ瀬は俺にとって、自分よりも大切な人なんだって」


 一ノ瀬の目をまっすぐ見る。

 きっと言葉だけじゃ伝わり切らないから。


「一ノ瀬。俺は――」


 そして、俺は言った。










「一ノ瀬が好きだ」










 最もシンプルで、感情のこもった言葉が俺と一ノ瀬の間を満たす。

 一ノ瀬は驚いたように目を見開き、手で口を押える。


「良介が、私を……好き?」


「あぁ、好きだ。これからも守っていきたいし、情けないけど俺を支えてほしい。これからも周りの人を幸せにできるように」


 俺が憧れる――父さんのように。

 

 一ノ瀬が俯き、口を閉ざす。

 やがて、


「…………嬉しい。嬉しいわ」


 一ノ瀬がぽつぽつと涙を地面に落とす。


「一ノ瀬……」


「こんなことってあるのね。自分の好きな人が、自分のことを好きになってくれるなんて」


「っ!」


 一ノ瀬が顔を上げ、俺を見る。

 その目には涙が浮かんでいたが、顔はどこまでも晴れやかで。

 

 ――あぁ、そうか。

 涙は悲しいときに流すんじゃなくて、嬉しいときに流すものなんだ。






「良介っ!」






 一ノ瀬が俺に抱き着いてくる。

 一ノ瀬の体を受け止めると、幸福感が俺と一ノ瀬を一緒に包み込んだ。


「私も好きよ! 良介が好き! ずっと一緒にいたいって、心の底から思う!」


「俺もだよ」


「ふふっ、こんなに嬉しいのね。心が通じ合うっていうのは。不思議な気持ち。だけど……何より嬉しいわ!」


 一ノ瀬を抱きしめる。

 触れるすべてに、好きという感情が宿っている気さえした。


 しばらく一ノ瀬と抱き合う。

 この時間が永遠に続けばいいのにと思う。

 すると……。






「いつまで抱き合ってんの!」






 この声は……。


「ここ普通に道のど真ん中だからね⁉」


「そうだそうだ~!」


 瀬那に花野井、そして葉月がやってくる。

 俺と一ノ瀬は離れると、三人に向かい合った。


「どうしてここに?」


「心配して迎えにきたの」


「そ。事情聴取とかなんか怖いし」


「それにあんなことがあった後だからね~」


「……でも、まさかこんな場面を直接見ることになるとは思ってなかったけど」


「まったくだよ~!」


 ということは、三人にさっきの一ノ瀬と俺の会話を全部聞かれてたってことか。

 でも、ちゃんと話さないといけないよな。

 

「みんな、俺さ……」


「言わなくていいから」


 瀬那が遮り、はぁとため息をつく。


「別にこうなると思ってたから驚きとかないし」


「あはは……そうだね」


 花野井が苦笑いを浮かべる。

 そして俺の隣に並ぶ一ノ瀬に視線を向けた。


「一ノ瀬さん、おめでとう」


「っ! えっと……」


「そういうのいらないから!」


 瀬那がぴしゃりと言う。

 そして不敵な笑みを浮かべた。




「だって、これで終わりじゃないし」




 すると花野井と葉月もニヤリと笑い、


「むしろこれからみたいなところあるよね~」


「わ、私たちのこと舐めないでほしいな! 隙があったらい、いっちゃうんだからね!」


「……全く、競い甲斐があるわね」


 一ノ瀬がふっと笑うと、俺の手を握る。



「でも、絶対に渡したりしないんだから♡」



「「「っ!!!!」」」


 一ノ瀬が俺をじっと見ながら微笑む。

 その目は魅惑的で、小悪魔的で。

 危険な香りがこれでもかというくらいに漂っていた。


 そして、それは一ノ瀬だけでなく……。


「私だって、これで諦めたりしないんだからね? ふふっ、覚悟してよ?♡」


「最終的には私のものだからね~? これからもよろしく、九条くんっ♡」


「あたしが全部もらうんだから。ね、九条?♡」


 四人からの危ない瞳に、思わず顔が引きつってしまう。

 しかし、次第に頬が緩んでいった。



 辺りがすっかり暗くなっていく。

 そして少し経てばまた明るくなり、一日が始まる。

 そうやって重ねていく日々の先にどんな未来が待っているのだろうと、ふと俺は思う。


 でも、きっといい未来が待っているんだろうと俺は確証もなく思ったのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ