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95話 あの人に届け

 失敗した。どうしようヤバイ。

 セリア王女様を最強の姫将軍にするのは、シャラーンをオトしてからにするべきだったよ。

 セリア王女主導のもと、あれから国軍の編成は驚くべきスピードで進み、魔人王と魔物軍団を迎えうつ体制はととのいつつあった。

 それに伴い、私も会議なんかに出席しなきゃならない事が増えて時間がとれなくなった。

 そしてそこで、ドルトラルからリーレットに流れてくる魔物が増大して被害の拡大が報告された。

 どうやらザルバドネグザルは、もう情報を出さない必要がなくなったため、魔物を送り込んで混乱させる方針に切り替えたようだ。

 そこで私たち【栄光の剣王】はリーレット領に戻って、そこの防衛にあたることになった。

 つまりもう、シャラーンをオトす事も出来なくなるということだ。


 「というわけで、シャラーンは無理になっちゃったよ。どうしよう、お兄ちゃん」


 リーレットに帰る前日の夜。

 私は部屋でひとり、お兄ちゃんにスマホで相談した。


 『ううむ、アイツは女とはとことん相性が悪いな。チョロインなアイツしか知らんオレには、どうしたら女のお前が、アイツと気軽にセックスできるほど 仲良くなれるのかまったく分からん』


 本当にこれ、兄妹の会話なんだろうか。


 「時間もないし、スキルの力だけでどうにかするしかないかな。みんなのスキルを最高レベルまで上げれば何とかなるんじゃない? そこまでのリソースとか大丈夫?」


 『ああ。コピー世界の維持に使っていたリソースをそっちにまわせるようになったから、それの心配はしなくていい。しかしな、魔人王は人間レベルの魔法やスキルで倒せるか分からんぞ』


 「私もいちおう剣王とか言われてるんだけど。やっぱり難しい?」


 『うむ。オレが戦ったとき、アイツの体に致命傷になるような傷を何度か入れたのだがな。そのたびに瞬時に回復してしまうのだ。あれは不死身に等しいな』


 だよねぇ。元創造神のお兄ちゃんがここまで手間をかけなきゃならない相手だし。簡単なハズないよね。


 「でもシャラーンはもう無理だし、スキルだけで何とかするしかないよ」


 『……いいだろう。オレも金と地位を使って、こっちでリソースを集めるだけ集めてやる。レベルをガンガン上げて、人外のスキルレベルとなって、奴を倒してこい』


 「うん、お互いがんばろうね」


 そうしてスマホを切ってお兄ちゃんとの会話を終えたときだ。

 部屋の外に誰かが来た気配がした。

 

 「おーいサクヤ、入っていいかい」


 「アーシェラか。いいよ。で、もう一人は誰?」


 「さすがの気配察知だね。じつは用があるのはボクじゃなくて彼女なんだ。シャラーンだよ」


 「シャラーン!?」


 はからずも、ギリギリになって向こうからチャンスがやって来た。

 私はもちろん寝室に迎え入れて、ベッドに座りながら話を聞く。

 あわよくば会話で気分を盛りあげてベッドに押し倒そう。

 女の子を前にこんな企みを瞬時にするあたり、私ってもうすっかり男だね。

 そしてシャラーンが切り出したのは、少し意外な話だった。


 「アタシね、リーレットに行こうと思っているの」


 「どうして? リーレットは魔物との戦争の最前線になるんだよ。危険だよ」


 「うん。アーシェラにもゼイアードにもとめられた。でもアンタがいいって言ったら、行かせてくれるって」


 なんてこった。厄介なことを押しつけられたな。

 しかし女の子クエスト継続のチャンスでもあるし悩み所だね。


 「理由は? 魔物に殺された記憶はあるんでしょ。そんな風に死んでもいいの?」


 「もちろん嫌。死ぬのは怖いし、魔物も怖い。夢であったような目になんかあいたくない。でも……」


 ふいに彼女は私を真っ直ぐ見た。


 「知りたい事があるの。答えがわかったら、死んでもいいと思っている」


 「何なのよ、それ。死んでもいいって思えるくらいの事って何?」


 何だか友達から悩みを相談されている気分になってきた。

 実際内容も恋バナだった。


 「もうひとりのアタシはね、誰かにすごく恋してたんだ。その人のために魔物に殺されたんだけど。でも後悔とかはなくて……最期までその人のことを想って死んだの」


 「恋する乙女か。ちょっと憧れるかも」


 女同士のただれた関係におぼれている私には、男の人との純愛なんて遠くに思える。

 くそっ、妹をとんだ変態に変えたお兄ちゃんめ。


 「サクヤ、アンタはその人とどっかで繋がっている気がする。あの剣を振るって戦っていたアンタをみて、そう思ったんだ」


 スルドイね。たしかに繋がっているよ。さっきも電話で話とかしてたし。

 でも、このことは教えられない。この世界の人達には衝撃的すぎる話だからね。

 ふいにシャラーンは立ち上がった。


 「そういや、まだ助けてくれたお礼をしてなかったね。こんなもの、女が喜ぶかわかんないけど。アンタ、女が好きっていうし」


 「え? ち、ちょっと何を?」


 そして服を脱ぎはじめた。

 形の良い胸も、しなやかにくびれた腰も、大きなお尻も隠さず露にしていく。

 ヤバッ。女の体なんて見慣れているはずなのに、妙に恥ずかしい。

 ここまで女らしい体は見たことはなかったし。

 彼女の大人な雰囲気が、どうにも私を恥ずかしくさせるのだ。


 「嫌ならやめる。突き飛ばしていいよ」


 私はベッドに押し倒された。

 隙あらば彼女を押し倒そうと考えていたのに、逆に私が押し倒されるとは。


 「知りたいの。もうひとつの世界のアタシは誰を想っていたのか」


 彼女の真剣な顔が上から間近になったとき。

 なぜか初体験のような気分になった。


 「どうしてアンタの剣を見ると、こんなに切ない気持ちになるのか」


 彼女にキスされた。

 妙に心のこもった熱いキスだった。

 そこからはもう、いつもの展開だった。


 「どうして……こんなに知らない誰かを求めて、追いかけたいのか……アン」


 彼女は私に抱かれながらも、私の向こうにいるお兄ちゃんを見ている。

 実際、その思い人も【神の目】とやらでこの様子を見ているだろうしね。

 せいぜい見せつけてあげようか。


 「お願い。あの人に届けて……」


 果てる寸前、シャラーンはまた私にキスをした。

 まるで彼女の心そのもののような、胸の切なくなるようなキスだった。

 体は無理でも、せめて心ぐらいは届けばいいね―――





 

 眠るシャラーンの隣でスマホを確認すると、クエスト欄の彼女の名前の後ろに”クリア”の文字がついていた。


 「愛の力かな。良かったねシャラーン。きっとお兄ちゃんも喜んでいるよ」


 とにかくこれで、魔人王を倒すすべては揃った。あとは戦うだけだ。

 彼女の無邪気な寝顔に呟いた。


 「シャラーン。いっしょにリーレットへ行こう。きっとそこでお兄ちゃんに会えるよ」




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― 新着の感想 ―
[一言] シャラーンは恋する女だったんだね。 ついに七人をオトすクエスト完了。 物語的には新しい段階に入った。 魔人王との戦いはどう展開するかな。
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