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94話 姫将軍セリア王女

 ドルトラル帝国辺境より、私たちはゲートをくぐり帰還した。

 シャラーンとゼイアードも、とりあえずゼナス王国にとどまることになった。

 さて、帰還する早々コルディア卿が話しかけてきた。

    

「だいぶ時間をつぶしたが、行った意味はあった。何より魔人王が動き出すまで間がない事がわかった。事は急がねばならないようだな、サクヤ殿」


 「ええ、急がないといけません」


 急いでシャラーンをオトさないと。


 「ここからいかに短期間で軍事編成を行うかが問題だ。やはりセリア姫殿下が鍵となるだろう」


 「はい? セリア王女様?」


 彼女はもう終わったはずだけど?


 「どうした? 姫殿下を中心とした全王国軍の一元的な編成を行うという話だったろう。早く謁見の段取りをつけてくれ」


 「あっ! そうでしたね。セリア王女様に近い人物を知っています。その人に頼んでみましょう」


 シャラーンをオトすことで頭がいっぱいだった。

 けど、たしかに軍事編成の方も今からやらないと間に合わないよね。

 仕方ないな。まずはセリア王女様を王国のトップにする方から片づけよう。


 というわけで、話を持っていったのはロミアちゃん。

 周知のとおりロミアちゃんはセリア王女様と仲が良いし。

 それに彼女には”演技”とか”演出”とか”演説”なんかのスキルを上げていたせいで、宮廷方の人気はすごいことになっている。つまり政治活動にはうってつけなのだ。


 「そっかぁ。やっぱり、アレってただの夢じゃなかったんだ」


 「経験したはずのない記憶がいきなり頭の中に生まれたから、みんな夢だと思ってるみたいだけどね。でも、それはもう一つの世界にあった本当のことなんだよ。そしてその世界は、昨夜この世界に出現した」


 「そうなんだ」


 「もちろん魔人王ザルバドネグザルも」


 「……うん」


 「そんなわけで、セリア王女様を中心にした中央主権的な軍事体制にして、魔物軍を迎えうちたいんだけど。できるかな?」


 「軍事中央集権は対ドルトラルのためにセリア姫殿下が進めてきたことだから、その流れに乗ればいいんだけど。でも、ホルガー殿下を差し置いて姫殿下をトップにするのはどうかな?」


 「ロミアちゃんは反対?」


 「姫殿下自身が自分がトップになる気はないと思うよ。お家騒動になるし。それに姫殿下がなりたいのは、ラムス様の良妻賢母だからね」


 「でも、そのホルガー殿下が指揮をとったらどうなるかも知っているよね?」


 「……ホントだ、知っている。わかったよ、とにかくセリア姫殿下に話してみる。でも本当に姫殿下、夢にあったみたいに毅然とできるかなぁ」


 まぁ、状況が彼女を指導者として成長させたって面はあるよね。

 まだそこまで追い詰められていない今だと、彼女もそれほど周囲を納得させるだけの才覚とか見せられないかもね。

 しかし、セリア王女様がなるのは良妻賢母ではない。

 最強の姫将軍だ! スマホがそれを成す!!



  ◇ ◇ ◇


 というわけで、ロミアちゃんの伝手のおかげで、コルディア卿はじめ人間同盟の幹部数人をセリア王女様に謁見させることに成功した。


 「お話はわかりましたコルディア卿。あなたはこれまでの彼と違い、未来より来たお方なのですね」


 「左様です。そして未来を知っているからこそ申し上げます。ホルガー殿下ではこの危機を乗り切れない。どうかセリア姫殿下こそが、王国軍のトップにお立ちください」


 「それはなりません。兄上をさしおいて、わたくしが立とうとするなら、王国を割ることになります。わたくし自身、皆の期待するような器などありませんし。どうか兄上を中心とした体制にご協力ください」


 やはり、セリア王女様はコルディア卿の提案には難色を示している。

 私はというと、白熱している会話には参加せず、後ろでスマホのカメラ機能でセリア王女様を見てステータスチェック。

 セリア王女の職業は【女王】だった。

 なんだ。あんなに断っているくせに、もうすでに即位しているじゃない。

 そして覚えられるスキルを見てみると、やはり統率なんかの政治関係がズラリそろっていた。

 もちろん軍事関係スキルもいっぱいあったので、【戦略眼】【軍団統率】【作戦立案】なんかを選んでセリア王女様につけた。これで最強の姫将軍の誕生だ。

 さて一方、話し合いはコルディア卿が根負けした形になっていた。


 「わかりました。セリア殿下はホルガー殿下の協力という形にいたしましょう。では次に諸侯からの兵供出の件ですが、編成はどのように……」


 「いえ、これまでの通りに諸侯から軍の協力を要請するという形では間に合いません。これを機に国軍の編成を一気に進めましょう」


 セリア王女様とも思えぬ積極策に皆は驚く。


 「は? いえ、さすがにそれは。諸侯の説得が不十分な今現在では、それを進めるのは難しいかと。徴兵される場所の地元民は、そこの領主にしか従いませんし」


 「その意識を変えることも軍事訓練の一環です。領主は徴兵のみ。兵は配属された部隊に指揮官に従ってもらいます。また、軍事の有識者を集めて将軍および指揮官の選定を行いましょう」


 いきなりセリア王女様は、軍編成の諸問題に対する支持をキビキビ出しはじめた。

 居並ぶ人達は面くらい、やがて話題は途端に軍事編成の会議へと変わっていった。

 中心になっているのはもちろんセリア王女様だ。

 私の隣で成り行きを見守っていたロミアちゃんも困惑顔。


 「あれれ? 姫殿下どうしちゃったんだろう。さっきまであんなに嫌がってたのに、率先して指示を出しているなんて」


 「やる気になったんだろうね。この調子なら、セリア王女様がトップになるのは時間の問題だね」


 「……そうだね。私も魔人王に対抗できるのは、セリア姫殿下しかいないって気になってきたよ。なんか夢の中のセリア姫殿下よりすごいかも」


 この数日後。

 国軍の編成はセリア王女様の元で驚くべきスピードで進められ、完全に新体制へと移行した。

 国軍のトップは、もちろんセリア王女様だ。

 なにしろ編成案と戦略を次々にうち出し、軍の専門家もうならせるほどに軍事に通じていたのだから。

 もっとも本人は、「どうしてこうなってしまったのでしょう?」としきりに不思議がっていたそうだけど。

 セリア王女様、ごめんなさい。

 良妻賢母は、戦いが終わったら目指してください。

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