92話 記憶のあの人
なんでだあああっ!!!
予定通りシャラーンのピンチに登場して、カッコ良く魔物をなぎ倒して救ったというのに!
シャラーンが抱き着いて感謝してるのは、後からゲートから出てきて驚いているだけのラムスの方!!
私の何が悪い!? 性別か!?
やはり百合属性ゼロのシャラーンは、私には無理なのか!?
こうなったら、このやるせなさを魔物にぶつけてくれる!
と、魔物を斬りまくって無双をしていると、狼獣人のゼイアードという奴が隣に来て、私と同じように剣を振るい魔物を迎撃する。
「サクヤ、どこから来た? それに、なぜオマエが俺たちを助ける?」
「アンタか。運の良い奴だね。アンタには少しばかり恨みはあるけど、今は協力してあげる」
「チッ、運が良けりゃ、こんな目にはあってねえっての」
「いいや、今のドルトラルに足を踏み入れて生きてるんだから、十分運は良いよ。この国に住んでいた人達は魔物で大半は亡くなったろうし。生きてても酷い地獄だろうね」
「なんだと? おい、知っている事を話せ。いったいドルトラルは、どうしてこんな事になっちまったんだ? 仮にも大陸最大の軍事力を持つ国だぞ」
「どうしてって……魔人王だよ。もう一つの世界を滅ぼした最悪の人類の敵の。その恐怖の記憶とか、アンタに宿ったりしてないの?」
「魔人王? 何だそりゃ。そんなもの知らねぇぞ」
魔人王を知らない?
……ああ、オリジナルのコイツは魔人王が生まれる前に死んだのか。
そういやゲームの中では、アーシェラと戦った時に倒していたっけ。
実際にも、その時にラムスだったお兄ちゃんに倒されていたんだろうね。
「何なんだ、いったい。ちっともわからねぇぞ」
「悪いけど、戦いながら話せるような事じゃないよ。その話は終わってからだ」
「チッ、いつ終わんだよ。どこかで逃げなきゃヤバイぜ」
たしかに周辺からも集ってきたのか、魔物の数は減る様子がない。
しかし、こちらもゲートから援軍が次々に来た。
「なるほど。ここの大魔法師ノエルは、この年で空間転移が使えるのか。助太刀しよう、さっさと終わらせて謁見の世話をしてもらわねばな」
コルディア卿の氷雪魔法はたちまちに何体もの魔物を凍らせる。
「シャラーン、助けに来たよ! あ、ゼイアード先輩もいる」
アーシェラも武装をしてきて戦闘に加わる。
「なんや、凄いことになっとるな。ここはどこや」
「わかんないけど、魔物は放っておけないよ。わたしも参加する」
ユクハちゃんの加勢は大きかった。
彼女の召喚した『ヨルムンガルド』という巨大な蛇の精霊獣は、次々に魔物を飲み込んでゆき、あっという間に数を大きく減らしたのだ。
「なんてこった。サクヤのパーティー、いつの間にか凄ぇ奴が入っているな。ドルトラルの人間としちゃ複雑だぜ」
「『ドルトラルの人間』……ねぇ。その陣営、まだあるのかどうか」
みんなの活躍もあって、ここら一帯を埋め尽くさんばかりに居た魔物もやがてすべてが駆逐された。
しかし……
「やっぱり女じゃ無理かなぁ」
シャラーンは私達が戦っている間、ラムスとイチャコラしていたのだ。
任務がなくなったら、私なんか見向きもしない。
かわりにゼイアードがうるさくつきまとう。
「おい、終わったんだから話せ。いったいドルトラルはどうなっちまったんだ? 『ドルトラルの陣営があるのかどうか』ってな、どういう意味だ」
「悪い、アンタと話す気分じゃないよ。アーシェラにでも聞いてくれ」
彼を旧知のアーシェラに押しつけ、私はひとりになって考えた。
シャラーンををオトせなかったら、どうなるんだろうな。
やっぱり正攻法でザルバドネグザルの魔物軍団を迎撃するしかないのかな。
スキルの力もあるし、魔人王の軍勢との戦いに経験豊富なコルディア卿も居る。
少なくとも一方的に負けるようなことはないと思う。
けど、戦いは何年も続くだろうな。
「帰れないかな。私が抜けたら滅亡待ったなしだし」
一度は帰れた現代日本だけど、みんなの命がかかっていると知って、またここに戻ってきた。
多分、今も同じ決断をすると思うんだよね。
でも一度は帰って、日本の親とか友達にちゃんとお別れはしたいな。
なんて考えていた私の隣に座ってきた人がいた。
「サクヤ、久しぶり」
「シャラーン……」
あれ? 何となくだけど、雰囲気が前と変わった気がする。
大人びた雰囲気というか、落ち着いた感じになった感じだ。
「人形をありがとう。女にこんなにやさしくされたのは初めてかもね」
「モテそうだものね、君。男に好かれすぎる子に同性の友達は難しいだろうね」
「そうね……」
彼女はうわの空で返事を返して、私を……いや、背中のメガデスを見つめてる?
「ねぇ。その剣、よく見せてくれない?」
「え? いいけど」
私はメガデスを抜き、剣身をシャラーンの目の前に置いた。
シャラーンはどこか懐かしそうにそれを見た。
「『メガデス』……そんな名前だったかな。この剣、ラムスは使えないの?」
「使えないね。この剣、私以外の人間は重くて持てないそうだよ」
「そっか。やっぱりあの人じゃないんだ。それ以前に、顔は同じでも雰囲気とかまるで違ったけど」
さみしそうに眼を伏せる彼女を見て、何となく察した。
シャラーンはオリジナル世界のラムスを求めている。
つまり、お兄ちゃんだ。
「シャラーン。その人との記憶は君が経験したことじゃない。その記憶は幻みたいなものでしょう? なのに何でそんな顔をするの?」
「わかんない。でも本気で愛した誰かが居た気がして、苦しいの。この剣を振るっていた人にすごく会いたい」
「シャラーン……そんなにお兄ちゃんのことを?」
「お兄ちゃん?」
しまったああああっ!
しんみりした雰囲気に流されて、何漏らしてんだあああ私っ!




