88話 絶望からの脱出と賭け
「うわああああっ、どうしよう! このままじゃ怒られる! 世界も最悪の未来を迎えちゃう!!」
ダメだっ、すでにロミアちゃんが扉の前に居る以上、詰んだあああっ!!
しかし、意外な所から救世主が現れた。
「パックル、私をラムスさんの姿に変えてください」
「ユ、ユクハちゃん?」
彼女は召喚した精霊で、自らをラムスの姿に変えた。
「サクヤさん、ここはわたしがロミアさんの相手をします。サクヤさんは行ってください」
「いいの? ユクハちゃんがラムスのフリをするなんて、すごく無謀だと思うけど」
「やります。わたし、ずっとサクヤさんは何かと戦っているんだと感じていました。わたしをホノウくんと別れさせたのも、今晩セリア王女様とサーリアさんを抱くのも、そのためですね?」
「ユクハちゃん……その……そうなんだけど……」
「だったら、ここはわたしに任せて行ってください。どうかサクヤさんの戦いを果たしてください」
そうだ、私には絶望で嘆いている暇なんて無い。
道が出来たなら、進まなきゃならない。
「……ありがとう、ユクハちゃん。ノエル、とにかく私の部屋にゲートを」
「はい。ではサクヤ様、お逃げください。私も残ってユクハさんのフォローをします」
ノエルは素早く私の部屋へ通じるゲートを開き、私はそこへと入る。
「二人とも、あとは頼んだ! 必ずサーリアさんはオトすから!」
「いや、だから何でです?」
思わず涙が出た。
理由なんて何も言ってないのに、わかってくれたユクハちゃんに。
なのにまるでキャラの違うラムスになって、あえてロミアちゃんに怒られてくれるなんて!
こうなったら、無策であろうとやるしかない。
「シャラーン! たとえ私の命に代えても、貴女にエロテクの全てをブチ込んでオトす!!」
ゲートを潜り抜けると、そこは王城にあてがわれた私の部屋。
あらかじめ決めていた、出口のリビングだ。
「さーて。どうやってオトすかよりも、まずはシャラーンの居場所を探さないと……あれ?」
寝室の方から、何やら人の声が聞こえた。
この声は?
『ちょっと、ダメだってぇーー!!』
はっ! 絹を裂くようなイケメン乙女の叫びが!?
『ええっ無い? アーシェラ……あなた、女だったの!? その顔と体で?』
さらにシャラーンの声が? フタマタがバレたのに、ここに来ていたの!?
いや、それどころじゃない。
今まさに、アーシェラがシャラーンに襲われようとしている!
「許せん、変態踊り子め!」
私のヒーローな心に、熱い正義の炎が燃えたぜ!
バアァァンッ
寝室の扉を一気に開け放つと、やはり二人がベッドの上でもつれ合っている姿があった。
「サ、サクヤ!?」
「あら? あなた?」
はっ! アーシェラが貴公子様みたいな恰好をしている?
「おのれ変態踊り子め! いきなり倒錯貴公子様プレイか!! そんなベルばらの裏側でやってそうな事なんて、私だってしたことないのに! 社会正義に代わって貴様を討つ!」
私は服を脱ぎ捨て、一気にベッドにダイビング。
二人にのしかかり、レベル10エロテク全開放!
「きゃああああっ! なに、この指!? 凄すぎる!!」
「うわああああああっ、何でボクまでええっ!」
ごめんアーシェラ。君のその貴公子コスに我慢が出来ない。
ドッギャーーン ギャラリラギャッギャーーン
ズギューーン バッバァァーーン……
「……やっぱりダメか。とにかく満足させれば良いなんて、そんな簡単なものじゃないよね」
クールダウンした賢者タイム。
絶頂でダウンした二人の横で、スマホを見ながらため息をついた。
シャラーンのえっちな体をさんざん嬲ったが(ついでにアーシェラも)、クエスト欄のシャラーンの名前には『クリア』の文字はつかなかったのだ。
エロテクの力技だけじゃダメなのは、アーシェラやユクハちゃんの時に経験した。ここから心をゲットするには、あと一歩何かしなきゃならない。
「……しかたない。賭けに出るか」
ここから短い時間でシャラーンの心をつかむには、これしか思いつかない。
と、もぞりと気絶していたシャラーンが動いた。
「ふうサクヤ様。あなた凄いね。アタシもそれなりに経験はある方だけど、ここまで一方的にやられたのは初めてだよ。あ、いや、女相手は今回が初めてだけどさ」
もう復活したのか。アーシェラは気絶したままだってのに。
けど、好都合だ。
「サーリアさん……いや、本名はシャラーンだね」
「知ってたの。アーシェラから聞いたのかしら?」
「そしてドルトラル帝国軍の諜報専門部隊鳥瞰連隊所属の女スパイ」
「なっ!?」
彼女はもの凄い勢いで私から飛び離れ、窓の側に寄った。
「別に逃げなくて良いよ。捕まえるつもりもないし。それに裸じゃ逃げられないだろ。ほら、服を着なよ」
彼女は投げて寄越した服を着ながらも、私に気を許した様子はない。
「……それで、どこで知ったの? ミスするようなヘマはしてないと思うけど」
ゲーム知識だからね。ちょっと説明しづらい。
「それは言うわけにはいかないな。ただ、それを踏まえて忠告したくてね。ドルトラル帝国に帰っちゃいけない。あそこは今、地獄だからね」
「たしかに前王妃と宰相閣下が権力争いの真っ最中ね。でも地獄ってほどでもないわ。潜っていけるだけのコネも抜け道もあるし」
「そんな温い争いの事を言ってるんじゃないよ。あそこは今、魔界から力を得た魔導師が無数の魔物を率いて人間を蹂躙しているんだ。そこへ行けば地獄を見る」
「はぁ? 何それ。何のおとぎ話?」
「ま、今は信じられないだろうね。でも、朝になる頃にはそれが分かるよ」
「ふうっ、英雄様は予言者様でもあったのかしらね。で、捕まえる気がないなら行っていいかしら? アンタを探るのが任務だったんだけど、これ以上居ても何も分からなそうだしね。セックスがもの凄いって事しかね」
「やっぱり行くのか。なら、せめてこれを持って行って」
私は服の内側からいつも持っているそれを出し、シャラーンに投げて渡した。
彼女はそれを受け取ると、不審そうにそれを見つめた。
「人形? これがどうしたの?」
「お守りだよ。もし、どうしようもない危機におちいったなら、それに助けを求めてよ。きっと君を守ってくれる」
「……ふうん、すごい効果ね。高名な魔法師様の製作かしら?」
「疑うのは分かるけど、絶対手放さないで。少なくともドルトラル帝国の様子が分かるまではね」
「ま、ここを見逃してもらうくらいの義理は通すわ。じゃね」
さすが腕利きの女スパイ、逃げる時も素早い。
あっという間に窓から飛び出し、闇に消えた。
私は未練がましく、いつまでも彼女の消えた闇夜を見ていた。
「さて、これが本当に最後の賭け。この後の道中でシャラーンが人形に助けを求めるのなら、まだ女の子クエストは潰れていない」
ふと、夜の景色がぶれたように感じた。
まるで二つの映像画面が重なっているような感じだ。
「……始まったか。これがオリジナルとコピー二つの世界の融合」、




