87話 二つの急変
「セリア、愛している。ずっとお前の事が好きだった。この先何があろうとも、お前を一生をかけて愛し守りぬく。それを、ここに誓ってやる」
「嬉しい。ラムス様、わたくし今夜の事を一生忘れません……」
セリア王女様は幸せに泣きながら、私を抱きしめて果てた。
私はセリア王女様が完全に深く眠っている事を確認すると、彼女の腕を外してベッドから起き上がる。
「ふうっパーフェクト。さて、これで本当に良いのかな?……よしっオーケー」
スマホを確認すると、セリア王女様の名前の後ろにはちゃんとクリアマークがついていた。
要するに、えっちした時に相手が私に気持ちが向いていればクリアらしい。
肉体と精神が私とつながる事で、お兄ちゃんがスキルの力を与える事が出来るようになるそうな。
作戦名に『今さら気がついてももう遅い』とかあったけど、あれは嘘だ。
私だと最後まで一切気がつかれる事なくクリアだ!
「ラムスになりきってのセリア王女様とのえっち、いつもと勝手が違って緊張したなぁ」
リビングに出てみると、私とセリア王女様とのエッチを聞いていた二人は何とも複雑な顔をしていた。
「どうだったユクハちゃん、ノエル。ラムスになってのセリア王女様との愛の営み。言葉と愛撫で優しく快感で果てさせる。まさに完璧なメイクラヴだったでしょう」
「相手が本物のラムスさんで、言った言葉が本当だったら、すごく感動的な愛の営みでしたね。女の子が夢見るような」
私のラムスの変身を解きながらユクハちゃんは答えた。
「ふっふーん、そうでしょうそうでしょう。私も女の子との経験はかなりだからね。やろうと思えば、こんな風に女の子をお姫様にする形も出来るのだよ」
お兄ちゃんからこの作戦を聞かされた時は『何て鬼畜な作戦!』とか思ったけど。
やってみたら王女様も幸せ私も幸せ。やって良かった。ホクホク。
「……本当にこれで良いんでしょうか。ニセモノが言っちゃいけないセリフとか大分言ってましたけど」
「何が? セリア王女様も私も幸せになって、すごく良い展開じゃない」
「朝になってラムスさんが戻ってきたらどうするんです? あんなプロポーズ同然の事を言った事になってしまって」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとラムスがセリア王女様に会う前に説明しとくから。『私がラムスに化けて、王女様にプロポーズしといたから上手くやってね』ってね」
「そ、それでラムスさんが納得して責任とるとは思えませんけど」
「その後の事は二人にまかせるとしよう。……いや、三人かな? これからもう一人ともやらなきゃならないしね。ノエル、私の部屋にゲートを開けて。部屋の前には王女様の従者とかがいるから直接行けないからね」
「ええっ! サクヤ様、まさかサーリアさんにも同じ事を!?」
「そ、それだけは! ラムスさんが帰ってきたら、どんな修羅場になるか!」
そうは言っても、世界のために女の子クエストは急がなきゃなんないんだよね。
この素晴らしき世界のため、あえて私は修羅場をつくる!
と、修羅場を作る修羅になる決心をした私。だが……
チャッチャーン チャラリラチャッチャーン
突然スマホのコール音が鳴りだした。
くっ、お兄ちゃんめ。ノエルとユクハちゃんがいる時に電話なんかして!
仕方なくドア口へ行って通話ボタンを押した。
「お兄ちゃん、どうしたの? こんな時に電話なんかして」
『緊急事態だ。どうやら、そっちの世界でもザルバドネグザルが魔人王になっちまったらしい』
―――?!!!!!
「ええええっ!!!? ど、どういう事!? なんでそんな事が!?」
『俺の方からは、お前の周辺しか見る事は出来ん。だから詳しい事は分からん。おそらく奴はドルトラルのゴタゴタに乗じて上手くやったんだろう』
「それでどうして魔人王の出現なんて分かるのよ」
『大きな事象なんかは分かるんだよ。大きめの地震や津波とかな。で、ドルトラル帝国中心部の方から強い魔界の瘴気が生まれた。この気配はよく覚えがある。紛れもなくヤツだ』
「ラスボス降臨か……これからどうしよう?」
『落ち着け。そっちの世界でもヤツが魔人王になったのは想定外だが、やる事は変わらん。ヤツを倒す。そのためにも七人目の攻略を急げ』
「前世でお兄ちゃんと縁の深かった七人の女性に力を送り込めるようになれば、創造神の力を完全にこちらに出現させられる……そうだったよね?」
『そうだ。それとそっちにも魔人王が出現した以上、そちらの世界を維持する必要は無くなったからやめる。夜明けあたりに世界の融合が始まるから気をつけろ。とくに気象の激変や建造物の変化、人の記憶の混乱なんかにはな』
この異世界のオリジナルとの融合か。
この世界はオリジナルのコピーの世界で、お兄ちゃんが存在を維持する事によって独立している。けどそれには大きなリソースが必要であり、それをやめたならオリジナルと融合して一つになるそうな。
オリジナルの世界は、魔人王となったザルバドネグザルが人類を蹂躙し支配している世界。それがとうとう出現してしまうのか。
「うん……わかった。あとはシャラーンだけだし、今夜で女の子クエストは終わらせるよ」
『ああ。だがもし今夜シャラーンの攻略に失敗したなら、お前、こっちに避難する事も考えろ』
「ええ? 行かないよ。私が戻ったら、みんな殺されちゃうよ」
『自分自身の危機は分かっているか? ザルバドネグザルが何より興味あるのはお前なんだぞ。絶大な力を手にした今、狙ってこない理由はないぞ』
思わず背筋が寒くなった。
そうか。シャラーンの攻略は、私にとってそんなにも命懸けなのか。
「大丈夫、ぜったい攻略するから。女の子クエストは今夜できっと終わらせる」
『いいだろう。ならばその後は、英雄の名声をいかして王国内を上手くまとめろ。おそらくはドルトラル方面から魔物があふれて襲ってくるぞ』
となると、最初に被害にあうのは帝国に隣接しているリーレットか。
あそこは私にとって、この世界の故郷も同然の場所。
知り合いなんかも多く居るし、急いで戻らないと。
私はお兄ちゃんとの会話を終えてリビングに戻った。
すると魔導通信機から何やら連絡を受けていたユクハちゃんが言った。
「サクヤさん、モミジちゃんから連絡がきました。何でも緊急事態だそうです」
緊急事態がこっちも? なんか良くない感じの展開だね。
魔導通信機を受け取りモミジと通話する。
『サクヤ、緊急事態や。ヤバイで』
「どうしたの? 外の方で何かあった?」
『ラムスさんが王女さんとサーリアさんの両方に約束した事がバレて問題になってな。王族関係者やら貴族の方々がえらい剣幕起こしとる』
「ええっ!? マ、マズイ!」
もうバレたの!? 後で問題になるだろうけど、今夜は大丈夫だと思ったのに!
『んで、代表でロミアさんがそっちに向かっとる。せいぜい怒られるんやな』
くううっ世界の危機と修羅場の危機。
危機が二つ同時に起こってしまうなんて、まさに絶体絶命!
「とにかく、シャラーンの攻略は急がないと……いや!」
ダメだ!
フタマタがバレた以上、シャラーンが約束通り私の部屋に来るハズがない。
今夜中にシャラーン攻略なんて、出来るわけないじゃないかぁ!!
絶望はさらに続く。やがてドア口の方から呼び出しのチャイムが鳴った。
ノエルに対応させると、戻ってきて言った。
「サクヤ様、ロミアさんが来ました。何でも偉い方々から中の様子を見てくるよう仰せつかったので、至急中に入れるようにと」
「ヒィッ! ママママズイ!!!」
セリア王女様とやったのが私とバレれば、今夜は確実に動けなくなる!
シャラーンの攻略も見通しが立たないし、魔人王は出現しちゃうし!
うわああああっ、どうすれば良いんだあああっ!!!!




