82話 祝勝会の天使
仕事が忙しいのと、祝勝会のイベントを書くのが難しくて筆が進みません。更新がゆっくりになります。ごめんなさい。
そして祝勝会当日。
式典会場の場所は王城の中央広間【国王光輝坐の間】。
その正面にある玉座へ続く階段の壇の真下に私達は控えている。
何でも平民がこんな玉座近くへ来るのは前代未聞だそうな。
やがて時間になり、侍従が国王陛下来室を告げ、諸侯は一斉に姿勢をただす。
王様が入り、王都の無事を祝うその言葉で、セレモニーは始まった。
やがて一連の前座は終わり、いよいよ叙勲の儀。
「悪しき精霊獣を打倒した勇者達に名誉を送る!」
その言葉とともに私達は玉座の下へ出ていき、腰をかがめ膝をつき、スカートの裾をつまんで頭を下げて控える。
その間を貴公子然としたラムスが静かに歩み、騎士のように王様の前で控える。
何だか私達はラムスを引き立てるエキストラみたいだが、そこは宮廷世界。王族貴族様が主役でなければ済まない仕様なのだ。
「オルバーン侯爵家第三公子ラムス・オルバーンよ。汝と汝率いる【栄光の剣王】はよく戦い、悪しき精霊獣を倒し王都を救った。その大いなる功績を称え、名誉と栄誉を授けよう。立つがよい」
「ははっ」
ラムスは立ち上がり、王様は近従が運んできた勲章を手ずからラムスの胸につける。
するとまたラムスは膝をつき頭を垂れ、感極まったように叫ぶ。
「我が身命は永遠に王家へ捧ぐ事を誓いたもう。王自ら与えられし栄誉を一族の誉とし、我子々孫々王家への忠誠に励む者なり!」
ラムスがこんなセリフを言えるなんて成長したね。
万雷の拍手は鳴り響き、ここにラムスは念願の勇者と国中から認められた。
ちなみに栄誉はラムスが代表でまとめていただき、私達は叙勲が終わるまで頭を下げたまま。
もっとも平民が、国家元首である王様の近くにここまで来れるだけでもの凄い名誉らしいけど。
さて、その後は私達が一人ずつ名を呼ばれ、壇上に上がり、諸侯の前で紹介される。
しかし本当に叙勲されるってのは作法が多いな。
その作法も、貴族に生まれた娘はロミアちゃんみたいに優雅に出来るらしいけど、私達じゃまったくなってないしなぁ。
田舎者を見る視線が痛くて、もう帰りたくなってきた。
叙勲の儀は終わり、ようやく私達は解放された。
すると今度はセリア王女様とロミアちゃんが壇上に出てきた。
あの二人、仲良いなぁ。
「貴族諸兄のみなさま、ここでもう一人わが故国ゼナス王国を守り抜いた英雄をご紹介させていただきます。故リーレット領領主キンバリー様の意思を受け継ぎ、父君と弟君の喪失にも折れることなく、ドルトラル帝国軍の故国侵入を阻み撃退したリーレット領領主ロミア・リーレット様です」
「……あれ?」
ロミアちゃんの着ているドレス。
それは私達が着ているのとそっくり同じものだった。
私達の白のドレスは、貴族様であるラムスを引き立たせるため、目立った所のない飾り気のないもの。場違いなほど悪くはないが、地味すぎて貴族のお嬢様が好んで着るようなものではないのだ。
しかも裸足だ! まさかロミアちゃんがこんなロックだなんて!!
ザワザワ……
ロミアちゃんは観客の戸惑いをよそに、片手でスカートの裾をつまみ片手で胸に手を当て深々と会釈をする。
そのあまりに幼く無邪気で悪戯で……美しい姿に、観客はみな息をのんだ。
着る物に頼らなくとも、ロミアちゃんはその存在だけで光輝いていた。
「こんな格好でゴメンなさい。私、【栄光の剣王】のみなさんと同じ姿でいたかったんです」
その微笑みだけで式典中の人間をみな虜にした。
じつはロミアちゃんの”役者”の職業の力を使って【栄光の剣王】の宣伝もしておこうと、”演技力”と”演出”のレベルを上げておいたんだけど……ちょっと上げすぎたかもしれない。可愛いすぎる!
ロミアちゃんは語る。
ドルトラル帝国の大軍がリーレット領を蹂躙したあの日を。
降伏に行ったフリをしながら私が切り込み多大な戦果を上げた事を、臨場感たっぷりに一人芝居する。
表情や手の動き視線一つで登場人物を見事描写し、観客をあの日の戦場へと見事引き込んだ。
語り終わると、割れんばかりに万雷の拍手が鳴り響く。
観客は誰もが、この裸足の女の子に恋をした。
「ロミアさまぁ!」「素敵ですロミアさまぁ!」「お若いのに何と勇敢な!」「感動しましたぞ、ご家族を亡くされながら、気丈に敵に立ち向かうその勇気!」
興奮に沸き立つ観客を前に、ロミアちゃんはただ静かに会釈で返す。
ううっ、素敵すぎるよロミアちゃん。よーし、今夜の相手は君に決定だ!
君のその天使な笑顔を、えっちなアヘ顔に変えてあげるから……
――って、血迷うな私!
今夜はターゲット最後の二人をオトす本番じゃないか!!
今夜ロミアちゃんと励んだりしたら、翌朝にはFXで全財産溶かした人の気持ちが味わえるぞ!!
私の方が、まったく可愛くないアヘ顔さらしてるよ!!!
鷹揚な王様のお言葉とともに、式典は終了した。
ここから式典会場だったこの間は、大きく様相を変える。
侍従、女官が忙しくテーブルや椅子をセッティングし、テーブルにクロスをかけると、豪華な料理がそこに運ばれる。
飾りも華やかなものになり楽団が登場し演奏を始めると、そこは貴族の社交場となった。
若い貴公子達がご令嬢達をさそい、あちこちで楽し気にダンスを踊りはじめる。
「ここからが本番だ。ターゲット二人に集中しろ」
このダンスタイムこそ、最終ラウンド祝勝会の最大の攻防。
ここでラムスの心を射止めた者こそ、決着のベッドタイムへと繋ぐことができるのだ。
そしてラムスが最初にダンスを申し込んだ者が、現時点でリードしていると見ていいだろう。遅れている者は、かなりの力技を駆使しないと逆転できない。
そしてその結果で、私も仕掛けを合わせないといけないから重要だ。
ラムスが胸元をゆるめノッシノッシと歩む姿を見つけた。
そんなラムスの行く先には、彼の誘いを待つ二輪の大輪の華。
セリア王女様とシャラーンが、これ以上ない位に綺麗に着飾り、ドレスの裾を広げ待っていた。
二人は時折視線を合わせては激しく火花を散らせている。
これぞ女の戦いの臨界点!
さて、セリア王女様とシャラーン。
ラムスはどちらに行くのか……
……あれ? 二人を無視して、こっちに来るぞ?
ってか、私の方に向かってきてないか?
「サクヤ、ダンスを申し込む。踊るぞ」
え、ええええええッ! まさかの私!?
この場合、どう仕掛けを合わせればいいんだ?!!!




