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81話 王女対踊り子

 ――――?!!!!!!


 大胆な恰好で華麗に舞い踊るシャラーンに、みんなと見惚れていた私。

 だがふいに、『サーリア』の本当の名を呟く者がいたことで、一気に血の気が引いた。


 「やっぱり……あれってシャラーン? 間違いないよね。あれ? でもたしかサーリアって……ムグッ!?」


 私は大慌てで彼女の口を塞いだ。

 ここでシャラーンの本当の名前と素性がバレるのはマズイ!!!

 しかし……君もドルトラル帝国の人間だったとはいえ、知り合いだったの?

 ねぇアーシェラ。


 「なんだよサクヤ。何するんだよ」


 「あ、いや、声が大きかったよ。みんなが鑑賞しているし、声を出すのはダメだよ」


 「あ、そっか。昔の友達だって分かっちゃったから、つい」


 そしてアーシェラから小声でシャラーンとの関係を聞いた。

 なんでも昔、修行していた森によく来ていた友達だったらしい。

 踊りが大好きな娘で、よく嬉しそうに自慢の舞を見せていたとか。


 しかし……シャラーンは、本当にアーシェラのことを友達だと思っていたのか?

 まさか剣術修行をしているアーシェラのことを男の子だと勘違いして、幼い恋心を抱いてたりなんかして?

 恐ろしい想像だが、アーシェラの語る当時の彼女はそうだとしか思えない。


 なにしろ鎧を纏い剣を腰に差したアーシェラは、凛々しいイケメン少年剣士そのもの。

 今は倒錯女装イケメン少年のドレス姿だから、分からないだろうけど……って、どっちにしろイケメンじゃねぇか!


 

 ―――ワーワーワー

 パチパチパチパチパチパチパチッ


 やがてシャラーンの舞は終わる。

 華麗にフィニッシュをきめている彼女に、皆は惜しみない拍手と喝采を送る。


 「ねぇ、シャラーンに声をかけちゃダメかな?」


 「やめなよ。彼女は今『サーリア』って名乗ってるんだよ。何か事情があるっぽいし、私達も式典作法を学んでいる最中で時間はとれないし」


 「そう……だね。今、話すのは良くないね」


 「でも祝勝会の日に彼女が来てたなら、話せるんじゃない? 叙勲の儀が終わったら自由だし」


 「そうか! だったら、その日に二人っきりになって話せばいいね。シャラーンと話せるよう協力してくれるかな?」


 「う、うん。もちろん……顔を伏せて!」


 シャラーンの目がこちらに向いたので、アーシェラを隠すように前に立った。

 そして私に目が向くように大げさに拍手をする。

 彼女は微笑んで私に手を振った。

 よし、後ろのアーシェラはまったく目に入っていない。



 ―――ザワッ……


 と、一斉に歓声がやみ拍手の音が消えた。

 シャラーンに相対するように、セリア王女様が向かい側に立ったのだ。


 その無表情な面差しは、何を言おうとしているのか分からない。

 しかしやはりシャラーンのやり過ぎを咎めるのだろうか。


 そりゃ、こんな王家の敷地内であんなエロな踊りなんかされたら、王女様の立場じゃ文句を言うだろう。

 そう思っていたのだが……


 ――ザワザワ……

 またしても皆はざわめいた。


 セリア王女様はお辞儀をしたのだ。

 しかも腰をかがめ、ドレスの裾を両手でつまんで広げ、頭を深く下げる淑女の敬愛を示す礼だ!


 それは奇妙な光景だった。

 この国最高ともいえる淑女が、半裸(ほぼ全裸)の女に頭を下げ最高位の礼を示しているのだ。

 シャラーンもドレスを着ようとしていた手を止め、半裸のままショーの終わりの会釈で返した。

 やがて二人の女は頭を上げ、剣呑な雰囲気で目を合わせる。


 「踊り子のわざ、見事でした。たったひと時の間に、ラムス様の心は貴女に大きく傾きました」


 「あら、それを姫殿下のお口からおっしゃいます?」


 「ですが、わたくしは必ず巻き返します。勝つのはわたくしです」


 「祝勝会前にアタシに出来る事は、すべて終わりました。後は……」


 「ええ、祝勝会ほんばんで会いましょう。決着のために」


 さっきのセリア王女様の最高位の礼、あれは絶妙だった。

 あのタイミングで完璧な淑女を見せる事で、あの場のシャラーンへ傾く流れを阻んだ。

 多分だけど、あれがなければ勝負は決まっていたと思う。


 この勝負、まだまだわからない……って、何を考えてるんだ私は。

 これは私が彼女らを手にする勝負。勝つのは私だ……あれ?


 ドレスを着たシャラーンは、何故か私の所へ来た。

 間近で彼女を見ると、顔もスタイルもこれ以上の者はいないくらい女らしく、どうにも気圧されてしまう。

 女の身で、これだけの女をオトせるのだろうか。不安だ。


 「サクヤ様、どうでしたアタシの踊りは?」


 「う、うん。素晴らしかったよ。あんな恥ずかしい恰好だったのに格好良くて」


 「ありがとう英雄様。これからもよろしくね」


 チュッ


 ―――!!?


 い、いまキスされた? 小鳥がついばむような軽めのキスだけど。

 なるほど。ラムスには王女様の前だから、直接触れることは出来ない。

 だから代わりに私にキスをして、女同士の妖しい雰囲気を見せつけたのか。

 『出来ることはすべて終わった』とか言っておきながら、まだ追撃を仕掛けるとは、大した策士ぶりだ。


 しかし、これはマズかったかもね。

 私のエロテクレベル10は、こんな軽めのキスでも快感を呼ばずにはいられない。

 だから……


 「う……あっ?」


 シャラーンは顔を真っ赤にして私から後ずさった。


 「どうしたの? 顔が赤いよ」


 「な、なんでもない! あ、アタシ、ちょっとお花摘みに行くわ!」


 「おおっ? サーリア、どこへ行くううううっ?」


 シャラーンは猛烈な勢いで去っていき、それをカールスさんが追いかける。

 『まさかここのトイレで発散とかしないだろうな』と心配になりながら、二人の後姿を見送った。


 「うぷっ?」


 突然、私の口にハンカチが当てられた。

 それはやけに圧のある笑顔のロミアちゃんだった。

 さらに腰にはふくれた顔のノエルがすがりついた。


 ゴシゴシゴシ……


 「……ロミアちゃん? どうして私の口をそんなに吹くの?」


 「サクヤ様の顔、すごく汚れているよ。ちゃんと綺麗にしないと王女姫殿下に失礼だからね」


 「い、いや、さっきまで何ともなかったよ。そんな急に汚れるわけ……」


 「汚れているの。ノエルちゃん、そうだよね?」


 「そうです! サクヤ様、いっぱい吹かれてください!」


 ううっ、二人とも何かコワイ。

 ゴシゴシゴシ………


 ともかくセリア王女様とシャラーン。

 二人は程よくぶつかって、良い感じに煮詰まっている。

 後は決戦の祝勝会。

 その日勝負に出る二人に合わせて、私も仕掛けるとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりあの「少年」はアーシェラで、性別を間違えていたか。シャラーンが事実を知った時の反応が楽しみ。 このキスがどんな影響を及ぼすかな? ロミアとノエルの反応が良いね。 そしてサクヤは何…
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