80話 踊り子の戦い【シャラーン視点】
シャラーン視点で書くのはキツイ。
この文章をおっさんが書いているんだぜ。
そして翌日。
アタシはカールス様に付き従い、王城へ足を踏み入れた。
恰好もこの公共の場に適したダサドレス。
「ううむ、おのれ。ラムスのためにわざわざ足を運ぶ事になるとは」
「まだおっしゃいます? あちらはもう英雄殿なのですから、この機会に仲良くされては?」
「奴はとんでもなく性格も口も悪いのだ。温厚で知られオルバーン家の外務を引き受けるワガハイでさえ、奴と仲良く出来んほどにな」
アタシはそんな所も可愛いと思っちゃうんだけどね。
さて、【栄光の剣王】のラムスちゃんサクヤちゃんとその他お嬢ちゃんは、王城の片隅にある中庭で式典作法のお勉強をしているらしい。
侍女に案内されそこへ通されてみると、そこには貴族少女が淑女作法の習いを受けているような光景があった。
お揃いの白いドレスを纏った少女達が、銀髪の少女の指導でドレスの裾を広げたり頭を下げたり、背筋を伸ばしてソロソロ歩いたり。
そしてラムスちゃんは貴族公子の恰好で、やっぱり王女様とよろしく作法の指導を受けていたが、王女様はアタシ達を見ると表情を曇らせる。
カールス様は姿勢を正し貴族然とし、にこやかにラムスちゃんに向かう。
中身のスケベに反して貫禄ある貴族紳士に見えるのは、貴族仕事の賜物か。
先ほどのグチはどこへやら、実に仲の良い兄弟を演出する。
「おおっラムスよ、久しぶりだなぁ。王都を救ったパーティーのリーダーとは出世したではないか!」
「きさまは相変わらず親父やベリアスの雑用係か? 実に出世とは縁のない男だなガハハハッ。オレ様を見習え」
「ぐっ、ぐぎぎぎっ! ……そ、それでだな。この踊り子サーリアだがな。お前の大ファンだそうだ。ぜひ会いたいというので連れてきたぞ。話でもするがいい」
「うむうむサーリアだな。さすが雑用係。英雄になったオレ様にゴマすりとは、目ざとい奴め」
「ぐっ、ぐっ、グギイイイイッ!」
端下の者は、上の者から声をかけられるまでは話せないのが貴人の世界。
カールス様の後ろで控え、二人の話をうつむいたまま黙って聞いていた。
その間「チラリ」と【栄光の剣王】の他メンバーを見てみたが、見事にドレスが似合っていない。着慣れていない。
ドレスって育ちが出ちゃうのよね。
このイモ娘達が、見目麗しい貴婦人を見慣れている王侯貴族の前で表彰されるなんて可哀そうに。
さて、ラムスちゃんもカールス様と話すのに飽きてきたらしい。
カールス様を押しのけアタシに話しかけてきた。
「わははサーリアよ。セリアの講釈も思ったより悪くはなかったが、やはりこの場所は窮屈だ。さっさと終わらせて、お前の踊りを見に行くから待っているがいい」
「チラリ」王女様を見ると、不安そうな顔でラムスちゃんを見ている。
ふふっ王女様、教えてあげます。
男はね、追いかけちゃダメなんですよ。
追いかけさせなきゃ。
「ラムス様。そんな大変な思いをしているお慰めに、舞踊を一刺しお届けいたしましょう。これを記憶に、サーリアをたまに思い出してください」
バサァッ
脱衣着衣を瞬時に出来るのも踊り子の技能。
アタシは纏っている上着を全て脱ぎ捨てた。
その下にあるのは、もっとも過激で最凶なステージ衣装!
「おおおっ!?」
「うっ、ウホおおおおお!? いやサーリア、ここでそれはマズイ!!」
「えええっ! 何あの恰好? ほとんど裸じゃない!」
「あの下着って紐? あんなので隠せているのが不思議すぎ!」
「えっちや! えっちなお姉さんが現れたわぁ!」
「い、いいの? ここって最上級に公共な場所なのに!」
ふふっ、たまにはスケベ親父じゃなく、こんな娘達に見せるのも悪くないわね。
サクヤちゃんに可愛がられているだけあって、目を逸らす娘がいないのも好印象。
伴奏代わりの、鈴のついた腕輪足輪をつける。
アタシはこれで鳴らした音を曲にしながら踊る事が出来るわ。
「サ、サーリアさん! ここは王城ですよ!!」
だから良いのよ。
本番前にラムスちゃんと会えるのは”ここ”しかないんだから、インパクトを残さないとね。
こんな貴族諸侯が揃って礼を糺さなきゃならないこの場所で、こんな格好のお姉さんを見るなんてインパクト最高でしょ?
「わはは、まぁいいではないかセリア。面白い。サーリア、お前の舞を見せてもらうぞ」
「ええ、ご覧あれ」
シャラン……シャンシャンシャン……
小さな動きからしだいしだいに大きな動きへ。
ターン、ステップは緩急をつけ、一つの物語になるように。
ジャンプは文字通り舞う。
体を広げ、手足を伸ばし、全てから解放された表情で。
着地もフワリ重さを感じさせず。
「うわあ。あんなエッチな恰好なのに、何かカッコいい!」
そう。女はエロいだけじゃ、実は大したことないのよ。
エロくてカッコいい女こそが危険!
アタシは踊る恍惚のまま、ますますヒートアップしていく。
ラムスちゃんもカールス様もあどけない顔の娘達も王女様でさえ、もうアタシをいやらしい物を見る目で見ていない。
アタシの踊りを、ただ魅入られたように見つめている。
あの日の彼のように―――
なんか……今日はやけに昔を思い出しちゃうな。
騎士を目指す彼に、何度もあの森へ通って、こうやって踊ってみせたっけ。
自分が少しでも綺麗に見えるように。
踊るたびに気持ちは高まって、夢を見ていた。
あどけないあの顔に「私を見て!!」って懇願した。
渾身の願いをこめ、胸を高鳴らせながら踊ったわ。
―――「あ、あれ? この踊ってる姿って……もしかしてシャラーン?」




