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79話 式典作法

 私達【栄光の剣王】は勢ぞろいで王城の中にある大部屋に集められた。

 ふて腐れたラムスを筆頭に、ノエル、アーシェラ、ユクハちゃん、モミジ。

 そしてロミアちゃんもいる。

 彼女は教師をしてくれるセリア王女様の手伝いをするらしい。


 「【栄光の剣王】のみなさん。初めての人もいるから自己紹介するけど、リーレット領領主のロミア・リーレット伯爵です。【栄光の剣王】はウチの領で活躍したパーティーで、我が家とも縁が深いです」


 相変わらず天使のような素敵な笑顔。

 で、私達の恰好なんだけど、ラムスは貴族公子の正装(何度見ても笑っちゃいそう)。

 そして女性陣は、簡素だけど高級な白色のドレスに揃って身をつつんでいる。


 「ロミアちゃん。私達って冒険者だけど、こんな格好で叙勲とかされていいのかな?」


 「さすがに冒険者の恰好で陛下の前には出れないよ。女性はフォーマルドレスが無難だし、作法もこれを着た事が前提だからね。作法はこれからも必要になるから、しっかり覚えてね」


 うーん、しかしこんな女らしい恰好だと筋肉が気になっちゃうな。

 ま、アーシェラよりはマシかな? 


 「ボクってドルトラル帝国の人間だったけど良いのかな?」


 「アーシェラさんは私の方でリーレットの領民にしといたよ。王女姫殿下にも伝えといたから大丈夫」


 「ドレスなんて初めて着ます。奴隷なのに良いんでしょうか?」


 「私もだよ。多分、ロミアちゃん以外はみんな初めてじゃないかな?」


 「モミジちゃん、王女様が直々に作法をお教えくださるなんて、ドキドキするね。失礼な事言って怒らせちゃったりしないかな?」


 「大丈夫やろ。あの王女さん、けっこう下の人間とも付き合いがあるらしいよ。ウチも話したことあるし」


 やがて王宮侍女さんが式典会場への移動を促しに来た。

 彼女の先導で来た場所は、幾つものテーブルが置いてある大広間であった。当日はここにテーブルクロスをかけて料理が並べられるんだね。

 壁には高級そうな絵画や陶芸品が幾つも並んでいたけれど、その中にただ一つだけ見覚えのある物が飾られていた。

 それは王宮兵士が着る正式のものでない、冒険者が着るようなフルプレート。

 私はこれを身にまとった事がある。


 「これって、ペギラヴァ戦の時に使った奴だよね? たしかあの後ギルド長が買い戻してくれたはずだけど、どうしてこれがここに?」


 ――「ええ、出遅れたために、そうとう吹っ掛けられましたね。ジェイクもなかなか手放そうとしませんでしたし。もっとも、これの価値からすれば当然ですが」


 唐突に横合いからかけられた声の主は――


 「セリア王女姫殿下!」


 私達が会場を見ている間に来ていたらしい。

 宝石のようなプラチナブロンドを綺麗にまとめ、私達と同じような簡素なドレスを着ているが、やはり役者が違う。

 優雅に着こなし、女神のような雰囲気を醸し出している。

 思わぬ彼女の登場に私達は一斉に控えたが、「かしこまる事は不要です」と、気さくにほほ笑んだ。


 「それで、どういう事です? これって、あの一回の戦闘でそうとう傷めたものなのに、どうして大事そうに飾ってあるんです? トドメの大技で壊しちゃった部分とか修復してないし」


 「ふふっ、サクヤ様はこういった事にうといのですね。このフルプレートは装備として価値があるのではありません。ペギラヴァとの戦いに使用され、その戦いを物語る物として価値があるのです。この壊れた部分も、凍結で傷んだ箇所も、その戦いを語る大事なものなのです」


 そういうものか。

 ま、これを高値で買ってくれたおかげで、みんなに報酬を払う事ができたから、ありがたかったけどね。

 セリア王女様はロミアちゃんと共に教師然として私達の前に立ち、にこやかに作法勉強会を始める。


 「今日のみは会場の雰囲気を知っていただくため、本番のこの場所に来ていただきました。ですが明日以降は、ここは準備のために立ち入ることが出来なくなります。故に控える場所などは今日しっかり覚えておいてください」


 わざわざ私達のために準備中の会場を借りてくれるとは、優しい王女様だ。

 彼女をハメようとしてる自分が悲しくなるよ。


 「それでは【栄光の剣王】の皆さん、さっそく式典作法をお教えいたします。ですが、作法は男女で大きく違ったものになっております。両方を一人で教えるには時間がありません。なので男性の作法はわたくしが、女性の方はこのリーレット領領主のロミア様が教えることとします」


 「うん、ほとんど私だね。ひどい王女姫殿下だ」


 そうだね。男はラムス一人だけだね。

 この建前で上手くラムスを自分のテリトリーに引き込んだことといい、セリア王女様って、かなりの策士かもしれないね。


 「ええい、まったく面倒な。作法なぞガキの頃に習ったもので十分だというのに。さっさと軽く教えろ。式典作法なぞ軽く流すだけで十分だ」


 「いけませんよラムス様。この祝勝会の式典こそ、ラムス様の英雄としての名を披露する場。ここで堂々たる英雄の姿を見せねば、英雄として認知されない場合もあるのですよ」


 「……むっ、仕方ない。少しは真面目にやってやるか」


 セリア王女様は、ラムスを楽しそうに指導している。

 最初ふて腐れていたラムスも、少しずつ王女様に態度を軟化させている。

 しかしこのままラムスと王女様がくっついてしまうと、私としては難しくなってしまうな。

 ラムスと本番まで会えない事で、シャラーンは諦めたりしないかな。


 と、作法の勉強に熱が入ってきた頃だ。

 侍女らしき人が入ってきてセリア王女様に駆け寄った。


 「王女姫殿下、たったいまオルバーン侯の使いの者がいらっしゃいました」


 侍女さんは何やらセリア王女様にささやいている。

 そして王女様はだんだんと表情を曇らせていく。

 何か政治的な難しい事でもあったかな?


 「……わかりました、仕方ありません。勝負の事もあるし、彼女の同行も認めましょう。ただ、あまり長い時間はとれません。ほんの挨拶程度の時間と伝えなさい」


 侍女さんは一礼し、また出ていった。

 そしてセリア王女様はラムスにさっきの言伝の内容を話した。


 「ラムス様。明日、兄君のカールス様が会いに来るそうです」


 「なんだと、あのスケベ兄が? まったく何をしに来るのだ。くだらん」


 「……酒場で踊っていた女性も連れていくので、楽しみに待っているようにと」


 「おおっサーリアをか!? あのスケベ兄も気がきくではないか! よし、特別に会ってやろう。ガハハハッ」


 シャラーンはまだ諦めてないみたいだね。良かった。

 上機嫌なラムスを悲しそうな目で見ている王女様は可哀そうだけど、私の思惑通りの展開になりそうだ。

 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] このラムスは普通にシャラーンを気に入っているみたいだけど、どの程度かな。元のラムス(サクヤの兄)となぜこんなに女好きの程度が違うんだ?
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