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78話 踊り子のプライド【ゼイアード視点】

 俺はゼイアード。ドルトラル帝国の元近衛兵だ。

 最悪な敗戦の責任から逃れるためこのゼナス王国にいたが、どうやら本国のゴタゴタのおかげで帰れる目が出てきたようだ。

 そして帰還前に手土産の情報を収集するため、踊り子諜報員のシャラーンと組んで、遠征旅団を壊滅に追い込んだサクヤの強さの秘密を探っている。しかし…… 


 「サクヤの調査が任務のはずだがな。それが何でラムスって野郎を王女と取り合う勝負になってんだ? まったく意味が分からんぞシャラーン」


 場所はカールスって野郎が借りた高級宿屋の一室。

 目のやり場に困るような恰好でストレッチしているシャラーンから、サクヤ調査の活動内容を聞いている。


 「そのサクヤちゃんが勝負の提案をしたのよ。理由はいろいろ考えられるけど、ま、それはどうでもいいわ。潜っている先の意向もあるし、やらない訳にはいかないでしょ」


 「まぁそうだが……しかしそのラムスは王女が囲っちまったんだろ? いかにも権力者らしいやり方だが、これ以上深入りしても良い事なんてねぇな。その勝負は諦めろ。で、この先どうやってサクヤに近づくかだが……」


 「諦める? バカ言わないで。とっくに手は打ったわよ。カールス様に頼んで、明日【栄光の剣王】の陣中にラムスちゃんのご兄弟として訪問してもらう事になったわ。で、そこにアタシもついて行くってわけ」


 「はぁ、そうかよ。しかしシャラーン、本来の目的を忘れるな。その時にはラムスの野郎よりサクヤに近づく事を優先しろ」


 「はぁ? そんなわけないでしょ。そこでラムスちゃんの心臓をわし掴んでやるわ! そこで勝負を決めてみせる!」


 目的があさっての方向に行っちまってるな。どうでも良い勝負だろ?

 だってのに、やけに勝負に燃えているシャラーンに不安を覚える。

 心なしか顔も女の顔になっている気がする。


 「おいおい。こんな勝負、真面目にやるこたあねぇだろうが。負けてサクヤに慰められながら懐に入れ。その方がサクヤに近づける。むしろ勝っちまう方が、面倒になりそうだろうが」


 「そうね、その通りね。でもこのヤマは、正式なルートで出されていない監視官もナシのイレギュラーな仕事。だからアタシのやり方でやらせてもらうわ」


 「何故だ。まさかラムスって野郎に本気になったって、ふざけた理由じゃねぇだろうな?」


 「そうなの。あのラムスちゃん、可愛くてビビビッってきちゃったのよね。『王女様に渡したくない』って本気で思えてきたわ」


 「このビッチが! しつけてやろうか!!」


 真剣な顔して、くだらねぇ事ほざいてんじゃねぇ!


 「落ち着きなさい。勝負をちゃんと踏み越えた方が懐に深く入れるわ。サクヤちゃんとも仲良くなるから、このやり方でやらせてちょうだい」


 「……チッ、好きにしろ。ま、たった一度顔を合わせるだけじゃ大した事も出来やしねぇだろうがな。俺は負けた後の事でも考えておくぜ」


 「あら、狼ちゃんは『愛には育む時間が必要』なんて考えをしてるの? 恋愛は一目見つめ合っただけで十分に出来るのよ。そして本物の踊り子は、一幕の舞台で一生分の愛を掴むことが出来るものよ」


 シャラーンは立ち上がり、「シャラリ」と軽いステップで一回り。

 簡単な動きだが、一瞬の中の軽やかさ、表情、蠱惑さに思わず引き込まれそうになった。

 ……コイツなら可能かもしれん。


 「何となく分かったけど、あの王女様、本気でラムスちゃんが好きね。でも、だからこそ後悔する。このアタシをわずかな時間でもラムスちゃんに会わせたことをね……フフッ、フフフ……ッ」


 「……おい、権力ある女相手にヤバイ事はやめろ。俺は女じゃないから分からんが、好きな男を目の前でかっさわれたら、相当憎まれるんじゃないか?」


 「ええ、多分あらゆる拷問をして殺したくなるくらいにでしょうね。でもアタシは踊り子。男も女もヤバイ奴になるくらい魅せるのが本能。手を抜くなんて出来ないわ」


 ああ、まったくコイツは。

 頭をガリガリ掻いてイラつきをどうにか抑える。

 魅力的すぎる笑顔と踊りで、破滅的な恋愛モドキのヤバい道を歩もうとする女。

 止めたいが、止められない。ならば見守るしかないか。

 

 「おい、前に『どうしても欲しいスキルがある』って言ってたな。その話でもしてみろ」


 「なぁに、いきなり。アタシに興味あるの?」


 「お前、このヤマで終わりになるかもしれねぇだろ。せめてお前の願望でも俺に聞かせてから逝け」


 「そうね……ま、いっか。アタシの初恋だった人を探すスキルが欲しいのよ」


 「はぁ? いきなり少女趣味な話になったな」


 「ま、実際少女だったしね。幼い頃住んでた街の郊外の森の入り口で、いつも剣を振っていた子供なんだけどね。どうやら騎士の見習いになる子だったらしいけど」


 「そいつを探してどうするつもりだ。まさか告白でもするつもりか?」


 「まさか。スパイなんて仕事してたら、付き合えるわけないわ。ただ、たまにその子のこと、夢に見るのよね。好きで好きでたまらなかった気持ちも甦っちゃうから、どうしても気になっちゃって。どんな男になったのか見たいしね」


 「ああ、くだらねぇ。やっぱり恋愛絡みかよ。剣振り男なんざ、そう変わらねぇだろうが」


 「少なくとも顔は良かったわよ。鍛えた体もカッコ良くて、昔のアタシはクラクラ。今はラムスちゃんみたいな顔の方が好きだけどね」


 「ああ、わかった。とにかく好きにしろ」


 俺は立ち上がり、扉に向かった。


 「あら、どこへ行くの?」


 「万一の逃走経路を、いつでも使えるようにしておく。ただ手ぶらじゃ帰れんからな。情報を忘れるな」


 「ええ、アタシもプロ。目的は忘れないわ」


 疑わしいとは思いつつも、俺に出来ることは少ない。

 明日のシャラーンの訪問で、逃げ出すハメにならない事を祈るぐらいだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 明日のシャラーンは何をやってくれるでしょう。 それにしても少女趣味な話が出てきましたな。この子供はラムスではないのか? この四角関係相当複雑になりそう。
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