76話 二虎競食の計
ほ、本当にこんなアホなゲームに気高い王女様が乗ってきた!
しかも王女様、メッチャ燃えている?
居住い正しく座っているけど、心の内の闘志が見えるよ!
場所は王城の一室。
美しい調度品に囲まれ、テーブルはピカピカ椅子はフカフカ。宝石のような茶器で香り高い紅茶を提供された上品でロイヤルなお茶会。
そして客の私達をもてなすホストは、プラチナブロンドを纏め、高級なドレスを上品に着こなし、姿勢正しく物腰柔らかで優雅な仕草がシビれる素敵な王女様。
それがゲームを了承した途端、一転して別の何かになった!?
対する王女様の燃える視線を受けるシャラーンは、平然と涼しげな顔。
彼女はまだラムスと会っていないが、彼を知れば同じ様に闘志の炎を燃やすのだろうか。
何にせよセリア王女様はお兄ちゃんが授けた策にハマった。虎になった。
策の名は『二虎競食の計』。
三国志の荀彧という人が考案した策だそうな(何か凄そう)。
『二匹の腹をすかせた虎の間に肉を投げ込めば、二匹の虎はどちらかが死ぬまで戦う。残った方も傷つき倒すことは容易くなり、労せずして二匹の虎を狩ることが出来るであろう』
というのが、この策である。
つまり彼女らをラムスという肉を巡って争わせ、女の戦いに傷つき疲れ果てた所を『エロテクでパックリ』という訳なのだ。
悪い男の知恵ってとんでもないね。私も気をつけよう。
荀彧さんも、この知略でたくさんの女の人をパックリしたのかね。
「うっ、うわああああっ!!! こんなん見るために、セリア王女殿下の護衛に上りつめたんとちゃううううっ!」
「ぐおおおおっ! この世に神はいないのかあああっ!!これは夢だ、悪夢だあああっ!」
『どっこい、夢じゃありませーん』とか言いたくなったけど。
しかし護衛二人の慟哭すごいな。
バニングさんとサンダークさんって、セリア王女様のファンだったんだね。
「おのれえラムスめえええっ! どうしてヤツばかりいいいっ!!! 冒険者にまで堕ちた愚か者だというのに、サクヤ殿と出会って英雄になり、セリア王女殿下も、ワガハイが見つけたのにサリーナまでもおおおっ!!!」
チョビ髭も加わってうるささ倍増。
どうしてと言われても『主人公だから』としか言えないな。
とにかく主役な男なんだよ。
しかし、このうるせえ奴ら。どうしようかね。
床にゴロゴロ転がる奴まで出てきて、邪魔でしょうがない。
バタンッ
「どうなさいました! 何か異変でも!?」
男共があまりにわめいているので、外から衛兵が入ってきた。
「何でもありません。三人ともうるさいので、しばらく出しておいてください」
「はっ? あの、カールス・オルバーン様は主賓ですが、よろしいので?」
「はい、かまいません」
『この部屋にわめく男共はいらない。戦う女達だけでいい』
セリア王女様のそんな決意の声が聞こえてくるようだ。
数多の魔獣を狩ってきた私をして、寒気がしてきた。
私にこの虎、狩れるかなぁ。
ともかくカールスさん、バニングさん、サンダークさんは退場。
女三人がテーブルを囲み、火花散らす二人の間に私がレフェリーみたいな立ち位置でいる状態となった。
ここってロイヤルなお茶会だったよね?
何で、こんなデスマッチの開始前みたいになってしまったのだろう。
「ではサクヤ様、ゲームの話の続きをいたしましょう。ラムス様の心を射止めるゲームの」
「ええ、ラムス様争奪ゲームですわね」
いや、私を取り合うための勝負のはずだけど。
二人とも忘れてないよね?
「では、この『ラムス争奪ゲーム』。セリア王女殿下とサーリアさんで行うとして、一つ大事なルールを定めましょう。祝勝会夜まで、ラムスとお肉の関係を結ぶ事は禁止にします」
「あら、どうして?」
あ、いま『当てが外れた』みたいな顔をしたねシャラーン。
やはり速攻を狙っていたか。戦う前に勝敗を決めてしまうのが百戦錬磨の兵だものね。
「あまりにサーリアさんに有利になりすぎるからです。元々この勝負、内容からサーリアさんが有利ですからね。破ったら反則負けです」
「当然ですね。その勝負は祝勝会当日につけましょう」
またしても二人の間に「バチッ」と火花。
本当にさっきからセリア王女様怖いなぁ。
初めて見た時の気品あふれる素敵な王女様はどこへやら。
「まぁいいわ。でも、お肉の関係以外ならいいのよね?」
「はい。五日後までにラムスにガンガンにアプローチをかけて好感度を上げてください。期間は短いですが、ラムスとそういう関係になるまで」
「そういうの、好きよ。楽しくなりそう。ふふふっ」
「楽しませませんよ。ふふふっ」
二人の絶世の美女は、素敵な笑顔で笑い合う。
されどその間には昏く燃ゆる炎の花が咲いている。
さながら百戦百勝の王者の余裕を見せるシャラーン。
対して、状況悪くとも闘志むき出しの挑戦者セリア王女。
一人の男をめぐって血を流さぬ血みどろの戦いが繰り広げられる。
二人とも、この女の戦場で死力を尽くして戦うがいい。
であるからこそ、私如きがこのハイクラスな女二人をオトす隙が生まれるのだ。
そう。私は審判の顔をしながら、二つの美しい獲物を狙う密かな狩人。
あとラムス。
餌である君は、おそらく戦う二人以上に無事ではいられないだろう。
巻き込んでしまって本当にスマン。
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