74話 鬼畜軍師 悪魔の策略
まるで炎が舞うように踊る彼女に、いつしか観客は称賛の声援を送り踊り出す青年まで出てくる。
私も彼女のちょっとした仕草一つ一つにどうしようもなく魅せられる。
いつしか私は彼女に見惚れ、彼女も私に露骨に微笑みや指先を送ってくる。
彼女のためにオタ芸したくなったけど、知らないしなぁ。
「どうやら気に入っていただけたようですな。その食い入るが如きまなざし! わかりますぞ、躍動する肢体に釘付けですな、ハッハッハー」
シ、ショックだ!
私はこのチョビ髭オヤジと同類のような目をしていたのか!?
「あ、うん。とっても素敵な舞だね。ところであの女性はどこで……」
「いや、あの子は素晴らしボディをしていながらガードが堅牢なる城塞が如くでですな。悲願成就いずれと思って、サクヤ殿の前に出すのも少々ためらってしまったのですよ。ですが、この際サクヤ殿に献上しても惜しくない! どうかワガハイの衷心お受けください。グフフ……」
ああ、オヤジ臭い会話だなぁ。
女にえちえちボディお姉ちゃんのプレゼントとか嬉しくて泣けてくるよ。
貰うけど。
「とっても素敵なお方だと思うよ。でもセリア殿下と秤にかけるとなると、いささか迷ってしまうな。少し考えさせて……」
「でしたらお食事でもしながら考えらしては。あの子に給仕をさせましょう。じつは……下履きを履かせずにさせようと思うのですよ! 肉料理などすすみますぞ。ウヒヒ……」
パイオツカイデーなチャンネェがノーパンでお肉サービス?
この世界でパンしゃぶの発想に到達するとは恐るべきオヤジ。接待の天才か?
しかしこのチョビ髭、完全に私の性別忘れているよね。
「いや食事はさっきしたばかりだよ。さすがにお肉は……」
しかし、こんなオヤジ臭い会話を打ち切らねばならない事が起こった。
私のスマホが振動でコールしてきたのだ。
そしてこのスマホで連絡してくる相手はただ一人しかいない。
―――お兄ちゃん?
私はお花を摘みに行くと言って中座。裏手にまわって通話ボタンを押した。
このスマホで本来の使い方をしたのは初めてだよ。
「お兄ちゃん、どうしたの? 連絡よこすのは、七人全員の攻略が終わった時じゃなかったの? この連絡にもリソースとかが、かかるんでしょ?」
お兄ちゃんはこの世界を安定させるために、元の世界で『鬼畜勇者ラムスクエスト』を販売し、ユーザーからの認識力をリソースに変えて維持しているそうな。
エロゲという媒体を選んだのも、男の人のリビドーすらもリソースに変えているからだ。そしてそれは私達のスキル獲得にも使われているのだ。
エロテクのスキルに使用するポイントが異様に低いのは、変換する手間がかからないためだね。
『その予定だったが、そちらの方で厄介な事が起こったようだな。まさかシャラーンがもう来てしまうとはな』
「そうだね。ザルバドネグザルと別れてからまだ五日。なのにもうシャラーンを送ってくるなんて、とんでもない奴だよ」
『人間だった頃の奴はよく知らなかったが……とんでもなく有能な奴だったのだな。それで? お前はこれからどうするつもりだ』
「ちょっと迷ったけど、セリア王女を優先して王家の方につくよ。シャラーンは対立陣営にいるとはいえ、あちら側の人間じゃないし。目的は私なんだから、ここで切ってもいずれ向こうから接触してくるだろうしね」
『考える事が普通だな。凡人め』
なにこの兄。アンタの代理人として奮闘している妹に、何の上から目線?
「いや、女なのに女をどうオトすか考えている時点で普通じゃないんだけど? セリア王女とシャラーンをベッドでどう攻めようか考えてる私は、絶対普通じゃないよ」
まったく己が憎しみのために、妹をとんだ変態に変えた復讐鬼め。
『そんな事は前世のオレもいつも考えてた普通だ。それよりもだ。せっかくシャラーンが現れたのだ。セリアと同時攻略してしまえ』
「はぁ? たしかに考える事が普通じゃないね。二人は対立する陣営にそれぞれ居るんだよ。この状態で二人同時攻略なんてしたら、コウモリ女になって信用失っちゃうよ」
『フッでは天才の発想というものを教えてやろう。貴族派の連中どもにこのように提案するのだ』
―――二人の女を地獄で躍らせるが如くの悪魔的策略ささやき中―――
「ひッ……ひどい! そんなことを考えるなんて人間じゃない! 前世じゃ二人ともお兄ちゃんの女だったんでしょ。しかも妹に実行させようだなんて!」
『甘いぞ妹。二人とも、お前がこれまでにオトしてきた半人前共とは格が違う。それぞれが一流の仕事をこなしている女傑どもだ。このくらいしなければ、お前如きにオトす事は出来ん』
たしかに、片や王族というだけでなく国政の一端を担っている才女。
片やその美貌と芸妓で数多の男達を誑してきた悪女。
こんな凄い女二人を私にオトせるか不安だったけど、この策略なら確実に上手くいく。
「すべてはこの世界を救うため、か。わかった、やるよ」
オトしたあとはエロテクフルパワーで二人を慰めてあげよう。
それだけが私の誠意だ。
『頼んだぞ。二人を攻略したら、間髪入れずそっちの世界の維持をやめる。融合が始まるから覚悟と準備はしておけ』
「早いね。こっちじゃ連続して異変が起こることになるよ」
『アニメ企画が爆死して見込んだリソースが入らねぇから仕方ねぇんだよ。まったく有名クリエイターってのは糞ッタレでな。余計な演出入れてワケわかんねぇもん作りやがってだな』
「そのグチ聞くのに余計なリソース使っちゃったら、さらに追い打ちでしょ。とにかくやるよ。こっちの準備はまかせて」
『頼んだぞ。あの二人をソクオチさせる攻め方はこれこれこうだ』
貴重な情報ありがとう。役立てるよ。
私はスマホを切り、ため息と共に宴の間へと戻った。
「はじめまして、サーリアと申します。当代最高の英雄殿に舞を披露できて光栄の極みですわ」
私の前にかしずき微笑むシャラーンは、艶やかな花そのもの。
昔、芸能活動してるっていう女の子を見てその可愛さに圧倒されたけど、その時とはくらべものにならないくらい圧倒される美貌だ。
「とっても素敵な舞でした。カールスさん。たしかにこの娘がいるなら、あなた方に力を貸しても良いのかもしれないね」
「おおっ! いや感激です。これからよろしくお願いいたしますぞ!」
「待ってください、まだ決定じゃないです。王家の誘いを断るというのは、平民である私には大変な事だから」
「それはこちらにお任せを。なぁに、どうせ諫言申し上げるのです。少々のご勘気を被るくらい何ほどのこともありません」
「だから、まだそちらにつくと決めてないから。どちらにつくかは、ちょっとしたゲームで決めたいと思うんだよ。サーリアさん、プレイヤーはあなただよ」
「あら、何をさせられるのかしら。ドキドキしますわ」
花のように微笑む彼女を見て心が痛んだ。
ごめんシャラーン。私の心は泣いているよ。
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