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70話 ホノウにさよなら

 ペギラヴァを倒した翌朝のことだ。

 ホノウはふらりと私達の所にやって来て「修行の旅に出る」と言った。

 つき合いの長いモミジと、そして彼と半ば恋人だったユクハちゃんは複雑な思いを巡らせ、彼の見送りに行った。ついでに私も。


 王都に戻って来る人もまだまばらな正門前にホノウはただ一人、前に見たようなでっかい荷物を背負ってそこにいた。

 彼に駆け寄るユクハちゃんとモミジを見ると、三人の仲が良く分かるよ。

 ああ。私はユクハちゃんとモミジを手に入れたけど、二人はホノウを失くしたんだな。


 「ホノウくん、本当に行っちゃうの?」


 「ああ。前々から王都にいたんじゃ成長は頭打ちだと感じていたんでな。いい機会だ。おやっさんが若い頃修行した場所を訪ねてみるつもりだ」


 「でも急ぎすぎや。せめて祝勝会が終わった後でもええんやないか? アンタも王都守って踏ん張ったんやから、王様からええもんくれるで」


 「興味ないな。それよりすっかりお前らに置いていかれちまったからな。自分の修行を急がないとな」


 「それは……」


 二人はとまどった様子を見せた。その気持ちはよく分かる。

 私もホノウといると、どうしようもなく自分のチートスキルが恥ずかしく感じる時がある。

 きっと二人は、私以上にチートで手にした『英雄』なんて称号が嫌でしょうがないんだろうな。


 「ユクハ。俺には何も出来なかったな。お前を守る事も一人前の召喚士にしてやる事も。みんなサクヤが簡単にやっちまった。おやっさんとの約束、俺には役者不足だったみたいだ」


 「そ、そんな事ないよ。わたしが今こうしているのはホノウくんのお陰だよ。ホノウくんはずっとわたしを支えてくれた!」


 「ああ。だが、これからはサクヤがいる。女同士ってことでいろいろ言われるかもしれんが、気にするな。お前らはもう王国を救った英雄なんだから」


 「そんなの……本当はホノウくんがふさわしいのに……死ぬかもしれない防衛戦に真っ先に参加して……」


 「それも力がなきゃ無意味さ。だから修行に行くんだよ」


 「でもっ、わたし達のレベルは……ッ!」


 「ユクハ、やめいや。男が強くなるために旅立とうとしとんのや。ウチらに止めることなんて出来ん。インチキで高レベルになったウチらにはな」


 ユクハちゃんは泣き出した。

 王都に住む人達の命と生活は、君のその涙より重いけれど。

 それでも、その涙は私に突き刺さる。

 ゴメンね。


 「ユクハ、お前がペギラヴァを送り返したお陰で王都に住む多くの人間が助かった。それだけは揺るぎない事実だ。それだけは覚えておくんだ」


 ホノウはユクハちゃんの涙に胸を貸さない。それは彼なりのケジメか。


 「うん……ありがとう。ごめんなさい……」


 「じゃあな、もう行くぜ。モミジ、ユクハを頼んだ。高レベルの召喚術士でも、お前と違ってどっか危ういからな。いつまでも親友でいてやってくれ」


 「餞別や。この魔力ランプ持っていき。アンタのは使えんのやろ。ユクハを助けに行った時に貸したモンや」


 「ありがたく貰っておく。じゃあなユクハ、モミジ。さよならだ。それとサクヤ」


 ふいに蚊帳の外にいた私の名前を呼ばれた。

 やっぱり恨んでいるだろうな。

 いいさ、どんな罵詈雑言でも受け止めてやる。

 半ばそのために、気まずいこの場所へ来たんだから。


 「アンタには世話になった。吹雪の中からユクハを助けてくれたことは一生忘れない。じゃあな」


 ホノウ。やっぱりあんたカッコイイよ。 

 結局ゲームと同じになっちゃったな。

 だったら最後も、ゲームのNTR野郎と同じセリフで締めてやる。


 「おう。ユクハちゃんとモミジのことは心配しないで。私がちゃんと幸せにしてやるから。ハハハハ」


 ホノウは何も言わず背を向ける。

 門から流れる人の波に逆らうように進んでいく。

 遠くなる大きな荷物が見えなくなるまで、私達はいつまでも見送った。

 チートってさ……何か悲しいよね……




 それでも次の試練はやって来る。


 「これで五人。残るはセリア王女とシャラーンか。でもお兄ちゃんが言うには、この二人の攻略には、立ちはだかる最大最強の強敵がいる。二人をオトすには、私がそいつに勝たなきゃならない……らしいけど」


 と、その時だ。

 街の方向からラムスはじめノエル、アーシェラが駆け寄ってきた。


 「おーいサクヤ! ホノウが旅に出るって本当? ホノウはどこ?」


 「ごめん。もう出ちゃったよ。『見送りとかいらない。すぐに立つ』って言うから、みんなを呼ぶ暇もなかったし」


 「大方、サクヤに女を取られた事が恥ずかしくて居られなくなったのだろうな。尻尾を巻いて出て行くとは悲しい奴だ。ガハハハハハ」


 「むうっラムスさん、そんな言い方は酷いです。まぁ結局サクヤ様、ユクハさんとモミジさんも自分のものにしてしまいましたしね。それはどうかと思いますけど」


 二人の攻略に立ちはだかる最大の強敵。

 それは外でもない、このバカ笑いしている男。ラムスなのだ。

 ゲームではほとんど大したイベントもなしにオチてラムスの女になったセリアとシャラーン。

 お兄ちゃんが言うには、実際もそんな感じで仲間になったそうな。

 つまり二人にとって、ラムスはドストライクに好みな相手。

 ゲームではチョロインだった二人も、私がオトさなきゃならないとなると、それは逆に難易度に変わってしまう。

 果たして私は、この最大最強のライバルを超えて、セリア王女とシャラーンをオトせるのだろうか?


 

 


 二章はこれで終わりです。

 ラムスは元々七人のうちのどれかにすごく惚れられて、それを主人公が何とかしようとする予定だったのを思い出しました。だから残り二人を惚れさせちゃえ。

 果たしてサクヤはラムスに勝てるか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 残り二人先にラムスに惚れてしまう? つまりそこからサクヤがNTRするわけ? かなり複雑な様相になりそうですね。 そもそも、ラムスはサクヤのこと、相棒としか思っていないんだろうが……。
[一言] 二章お疲れ様です 次の章も楽しみにしてます!
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