07話 冒険者ギルド
というわけで、私はラムスについて行き、メフトクリルという街の冒険者ギルドへたどり着いた。
いやメチャクチャ遠くて、しかも徒歩だから死の行軍かと思ったよ。
途中、狼を倒したポイントでスキル【体力増強】をとって、やっとここまで来た。
おかげで、もう夕方である。
「さてと……サクヤ、剣はいつでも抜いておけるようにしておけよ」
「え? やっぱり、裏切った連中に復讐するつもりですか? 今ここで?」
「荒事はせん。だが、奴らが逆恨みして襲い掛かってくる可能性はあるな」
ラムスに続いてギルドに入ると、ものすごい酒の臭いがした。
「臭っ! 冒険者ギルドって酒場にあるんですか!?」
「そうだな。冒険者は仕事をしない時は酒を飲む。面倒がないんで、そうなっているんだろう。さて、奴らは……いたな」
ラムスは人相の悪い四人のゴロツキ集団が飲んでいるテーブルへズカズカと歩いていった。
「おい、テメーら。よくもやってくれたな!」
「ゲッ、ラムス、生きてやがったのかよ! これじゃ見舞金がパーだぜ」
「やっぱり見舞金目当てでオレをハメやがったな! ロクな作戦も考えねえで、狼どもの巣にノコノコ出向きやがったんで、おかしいとは思ったがな。決定的なのは、逃げた途端オレをすッ転ばせたことだ!」
これはあとで聞いた話だけど。
領主のクエストで、モンスター退治に出向いて死人が出た場合、そのパーティーには見舞金が出るんだってさ。
で、コイツらはタチが悪いことに、真面目な討伐なんかはしないで、その見舞金目当てに新入りを入れては犠牲者にしてたんだって。
悪どい奴らだね。
「テメェらとは縁切りだ! 二度と近づくんじゃねぇぞ」
「あーあ、いいぜ。しかし、そんなタンカ切るよりかかって来たらどうだい? 相手してやるぜ」
「よせよ、この『口だけラムス』にそんな度胸あるわけねぇぜ。威勢よく吠えてンのがせいぜいってやつだ」
男達は下品にゲラゲラ笑いまくる。
あーあ。酔っ払いゴロツキおじさんの集団って本当イヤなモンだよね。
こんな連中と手を切ってくれて良かったよ。
しかし、どうしてこの程度のタンカで臨戦態勢なんか指示したんだろ?
ラムスはギルド中に笑われているのも構わず、真っすぐギルド受付に向かった。
そこには強面の初老のおじさんがドッカリ座っていた。
彼はギルドマスターのギーヴ。
彼も元は冒険者だったそうだが、引退してマスターになったそうだ。
「ギーヴ、聞いての通りだ。オレは奴らのパーティーからは脱退してこのサクヤと組んで新しいパーティーを立ち上げる。登録たのむ」
「おいおい、冗談言っちゃいけねぇよラムス。パーティーリーダーになれるのは実績ある奴だけだ。おまえさん、まだ一体もモンスターなんて倒したことねぇじゃねえか。それにそんな娘っ子が冒険者ってのもいただけねぇ。おままごとじゃねぇんだぜ、冒険者稼業ってのは」
ギルドからはいっそう大きな笑い声がとんだ。
見知らぬ男達に、こうも笑われるっていうのは嫌なもんだね。
早く出ていきたいよ。
「なら、オレを【魔物絶対殲滅旅団】から外してくれ。殺されかけたんだ。それはオレの一存でいいだろう?」
なんという名前倒れなパーティー名!
実態はセコく見舞金をかすめ取ろうとするだけのゴロツキ集団だってのに。
「ああ。連中のことは疑っていたが、やっぱりやらかしてやがったか。ラムス。お前さん、いいとこの坊だろう。この機会に実家で仕事もらった方が良くねぇか?」
「余計なお世話だ。もう登録は外したな? よし、ならばこれを見ろ!」
リュックから出して並べたのは、獲物の討伐証明部位であるグレイウルフと虎ゴーンの鼻。
それを出した瞬間、ギルド中の笑い声が消えた。
「虎ゴーン三頭にグレイウルフ十匹! きっちり退治してきてやったぜ。報奨金出せ、ギーヴ」
「……間違いねぇ。たしかに、それだ。だが、十匹ものグレイウルフをどうやってお前さん一人で始末できたんだ? それに虎ゴーンの硬さは、その上物の剣でも通らねぇはずだ。専用の武器もなしに、どうやって倒した」
いや倒したのは私一人でなんですけど。
もっとも、こんな男達に目立ちたくないから、いいけどさ。
「言う必要はあるのか?」
「ああ。ギルドマスターとしては不正防止のため、ぜひお聞かせ願いたいね」
「フン、つまらん権力をふりかざしおって。サクヤ、その剣を見せてやれ」
「スラリ」とメガデスを引き抜き、ギーヴさんの目の前にかざして見せた。
「この剣で両断だ。納得したか?」
「…………信じられねぇ。こりゃ聖剣の類かもしれねぇな。こんなモン、どこで手に入れた」
「そこまで言う必要はないだろう。それより納得したなら、さっさと報奨金出せ。いつまでも年寄りの話し相手に付き合ってられん」
「…………わかったよ。今後、お前さんを腕利きとして扱うぜ。こっちから依頼を出すこともあるかもしれん。いいな?」
そう言ってギルドマスターは、「ジャラリ」と大金らしい幾つもの硬貨を金庫から出してラムスの前に置いた。
「グレイウルフ十匹および虎ゴーン三頭、しめて千パルーだ。確認しとけ」
「おおっ、さすが、銀貨の輝きはちがうな!」
その時だ。
さきほどやりあったラムスの元のパーティー【魔物絶対殲滅旅団】が声を荒げて出てきた。
「おいおいちょっと待て! ラムス、いくら何でもひとり占めはねぇだろう? 依頼を受けたのは俺だぜ。ちっとは俺らにもよこすのが仁義ってもんだろうが!」
はぁ? コイツら、何言ってんだ?
ラムスを殺して見舞金せしめようとしたうえに、さっきまでゲラゲラ笑ってたくせに?
「うるさい。テメーらとは縁を切った。1パルーもくれてやらん!」
「ああ、そうだ。ラムスはさっき、お前さんらから抜けたし、討伐もラムス一人でやったみたいだから、お前らに請求する権利はねぇ。しかしな、いいのかラムス。コイツら、間違いなく逆恨みするぜ」
「かまわん。裏切って殺されかけた奴らに金までやったら、それこそ舐められまくりだ。奴らの逆恨みなど知らん」
「ラムス、テメー!!」
うわっ、連中がラムスに掴みかかろうとしている!
「うるさい奴らだ。金が数えられん。サクヤ、おさえとけ」
無茶言いますね。
こんなゴツくて凶悪そうなオジサン連中を私一人でおさえろだなんて。
仕方なく私はメガデスを「スラリ」抜く。
そして水平に男達の前にかざして”通せんぼ”をした。
「それ以上近づかないでください。ここは通しません」
「おいおい姉ちゃんよ、無理すんなって。それよりアンタからも、ラムスに頼んでくれよ。俺達、仲良くやろうってよ」
男の一人がニヤニヤ笑いながら私の肩に手をかけてきやがった!
気持ち悪いっ!
思わず私はメガデスを男達に押しやり、手を放してしまった。
ズズゥーーン
男二人がメガデスの下敷きになった。
「ぐわああああっ!? 重え!!! 何で出きてんだこりゃあ!?」
「潰れるう! 早くどけろ、てめぇら!!」
残り二人が左右に分かれてメガデスを持ち上げようとするも、わずかに持ち上がるだけで、腕がプルプル震えていた。
メガデスって、こんなに重かったのか。
「よし。うるさいが、まぁいいだろう。ギルドを出るまでそのままにしておけ」
と、ラムスは銀貨をもくもくと袋に詰める作業を続けている。
この男も大物だね。さすが主人公。
この作品を『面白い』と思った方は、ブクマや下の評価欄から高評価をお願いします。
高評価をつけてくれたら、モチベーションが思いっきり上がりますので。




