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69話 ペギラヴァが来た!

 戦いの理想は、先手をとり初手で深手を負わせ、そのまま相手に何もさせないで倒しきること。

 最上級に格上のコイツには、それを徹底した戦い方をしなければならない。 

 少しでも反撃を許せば、途端に大量の凍死者と共に逆にやられてしまうのだから。


「【征風大切斬】!!!」


 ビュオオオオオオオオッ


 メガデスより放たれた巨大な風の刃。

 それは過たず巨大精霊獣ペギラヴァの腕の片翼を大きく切り裂いた。


 「なぁっ!? あのペギラヴァにダメージを与えおった!!?」

 「ぬうっサクヤめ。悔しいが、メガデスを製作の想定以上に使いこなしておる!」

 「あれは剣技か? なんだあの娘は。何故あの若さであれほどの技を使える?」


 いける!

 耐寒冷術式が入っているこのフルプレートと自身の【寒冷耐性】スキルのおかげで、ペギラヴァの間近だろうといつも通りにメガデスを振るえる。

 しかし手ごたえに喜んで手を緩めてはいけない。

 前回の邂逅では、ここで冷凍波が来たのだから。


 「ノエル、次! 奴の頭上へ転移!」


 「はいっ!」


 ノエルの空間転移は、行った所でない場所は30メートル程度しか移動できない。

 されど戦闘においては大きく有効な能力だ。

 目の前が大きく揺れたかと思うと、私はもうペギラヴァの上空へ来ていた。

 奴は今にも冷凍波を放たんと口を大きく開けている。


 「させるかッ!【稲綱落とし】!!!」


 眼球目がけてメガデスを突き立てる。

 巨大な咆哮が響き渡り、ペギラヴァが大きく怯んだのを感じる。

 このまま奴を大きく裂かんとしたのだが。


 「くっ、メガデスが凍っている。足も凍えかけている。やはりこれだけ近くだと、さしもの二重の寒冷耐性も限界か」


 やはりコイツは雪山のような巨大な冷気の精霊。

 そしてコイツは何度傷つけようと膨大な魔力でいくらでも復活する存在だとも聞いた。

 現に私の傷つけた翼も眼球ももう再生しはじめている。


 だけど、私の攻撃は無意味なんかじゃない。

 その肉体をコントロールする頭を一時的にでも潰されたら、意思は大きく低下するはず。

 ここが勝負所だ!


 「ユクハあああっ、炎だ! ここに最大級の炎をッ!!!」


 「サラマンダー、頭部目がけて灼熱の息吹を!」


 ゴオオオオオオオオウッ


 サラマンダーは大きな火炎をペギラヴァに浴びせた。

 だがペギラヴァとサラマンダーとでは精霊の格が違いすぎる。

 いわば巨大な雪山に火炎放射器をみまうようなもの。


 だけど、それに私の剣技スキルが乗れば話は別だ。

 私は炎に飛びこんだ。

 そしてその炎を存分にメガデスに取り込み解き放つ。


 「【熱風ねっぷう大切斬だいせつざん】!!!」


 炎は私のスキルで赤赤とした熱の刃と化し、ペギラヴァの顎に直撃。


 ボシュウウウウウウウッ


 ペギラヴァの頭部は蒸発した。

 吹雪はやみ、冷気も止まり、再生のためその活動は止まる。

 そして今この瞬間、ペギラヴァの精霊としての格は大きく低下している。


 「ユクハ、今だ! 送り返せ!!」


 ユクハちゃんは聖者の石を両手で頭上に掲げる。


 「冷たき氷の果てに住まう無限の風と雪の賢者よ、通廊を歩みその住処へお帰りなさい。いざその精霊界へ」


 ユクハちゃんが行う召喚精霊の送り返し。

 その術に、頭のないペギラヴァはおとなしく従った。

 地面に巨大な魔法陣が浮かび上がると、ペギラヴァはそこに吸い込まれるように消えていく。

 やがて完全に消え去ると後には何も残らず、ただそれを見守る大勢の静寂だけがあった。


 「やった……」


 戦闘開始からここまで五分程度。予想以上に上手くいった。


 「あなたもありがとう。こんな寒い場所に呼んで、無理をさせてしまったわね」


 ユクハちゃんは働いてくれたサラマンダーに感謝し、それも送り返した。

 その瞬間、大歓声が巻き起こった。


 「やった! やったぞ!! 災厄の大精霊獣が消えた!!!」

 「王都は救われたんだ!! もう逃げなくていいんだ!!」

 「あいつらすごいぞ!! 本当にペギラヴァをやっちまいやがった!!!」 


 喜び合う防衛隊の人達を見てほっこりする私。

 そんな私の元にみんなが集まってもみくちゃにする。


 「やりましたーーっ!! サクヤさま、すごいです!」

 「ボクは感動した! サクヤの剣はまさに英雄の剣だ!!」

 「やったなサクヤさん。お疲れさん」

 「本当にわたしがあの大精霊獣を送り返した……」


 そんな喜び合うみんなにラムスの一喝が響く。


 「ええいお前ら、喜んでいないで有象無象の前に立って並べ! サクヤはオレ様の側でメガデスを掲げろ。今この時こそ【栄光の剣王】は英雄としての名をとどろかせる時であるのだぞッ!!」


 ……ああ、たしかにラムスが私と初めて出会った時に語った夢。

 それが叶った瞬間ではあるよね。

 ま、この後に来るであろうお偉いさんの対応なんかはラムスに任せるつもりだし。ここはラムスを目立たせておく方が良いか。


 「わかったよラムス。【栄光の剣王】を代表してカッコよくキメてくれ」


 「まかせておけ! やはり最後は華のあるオレ様が締めんとな。ガハハハハハ」


 うん、頭の中がお花畑なラムスじゃないと恥ずかしくて出来ないからね。

 こんな大勢の人の注目の中じゃ、私はこうやってメガデスを掲げてポーズをとるだけで精一杯。


 「聞けええい! 王都を脅かす大精霊獣ペギラヴァは我が【栄光の剣王】が討ち取った! この王都は破滅の運命から解き放たれたのだ!!!」


 ウオオオオオオオンッ


 ラムスの言葉でより一層歓声は極まる。

 「うん? あの男は何やったんだ?」みたいな声も聞こえるけど、それは言わないであげて。


 「高らかに告げよ! この団長ラムスと剣王サクヤの名を! この王都すべてに救世主として広めとどろかすのだ!!!」


 ヤメロオオオオッ!!! 広めとどろかすのは自分の名前だけにしてくれえッ!

 しかも称号が剣豪から剣王にレベルアップしてるし!



 ◇ ◇ ◇


 この城門前の戦闘。これを見ていた者はその城壁の上にもいた。

 防寒着に身を包んだ男女二人が人知れずこの戦いを観戦していたのだ。


 「危険をおかして見に来た甲斐があったわね。たかが冒険者パーティーが、本当にあの大精霊獣をやっつけちゃったわ」


 「ああ。ますます調査の重要性は上がったな。んじゃ、王都から退避した連中が戻って来るだろうし、それに紛れ込むぞ」


 「そして大きな剣でペギラヴァを切りまくっていた【サクヤ】って子に近づくと。たしかにとんでもない子ね。あれで男だったら、ちょっと抱かれてみたいけど」


 「女だが抱かれろ。そういう趣味だから、お前をぶつけんだよ」


 「そうだったわね。じゃ、新しい世界を見てきますか」


 二人は人知れず音もなくその場からかけ去り、闇の中へ消えた。



 次回で二章を終わります。

 ペギラヴァを倒した所で区切る予定だったのですが、思ったより長くなってしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと呆気ないくらいだけど、ペギラヴァ召喚の送り返し成功。まあ、条件は整っていたしね。 にしてもラムス君、調子いいったらない。お偉いさんの対応でもやっててもらいましょう。 >剣王サクヤ…
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