65話 ギルドマスターに報告
無事に三人の賢者たちを救出して地上に戻った私達。
やはりと言うか、地上はかなり気温が低くなっていた。
三人を王立医療施設へ届けたついでにペギラヴァの侵攻具合を聞くと、モミジちゃんのゴーレムが抑えこむことに成功したらしい。
もっともペギラヴァ自体をどう始末つけるのかは未だ不明。王城中の識者が調査中とのことだ。
私とラムスは街中へ移動したギルド仮設本部へ行き、マスターのジェイクさんにクエスト達成の報告をした。
「よく三人とも救助できたな。ペギラヴァがダンジョンの入り口を塞いでいやがるってのに、こうも鮮やかにクエスト達成とは恐れ入ったぜ」
「フハハハハハハもっともっと恐れ入るがいい。我が【栄光の剣王】の前では、達成不可能なクエストなど存在しないのだ!」
お星さまに届きそうなくらい調子にのっているねぇラムス。
「よし、報酬だ。しっかり受け取りな」
「ジャラリ」と私達の前に出されたのは、黄金色に輝く特別な貨幣の塊。
「おおおっ金貨だ金貨だ、わははははっ」
凄いねぇ。家畜数十頭とかの大きな取り引きで使われる金貨が、冒険者の仕事で出てくるなんて。
「それでだ。お前さん方の活躍を聞きつけ、早くも山のように指名依頼が来ているぜ。大荷物抱えた金持ち共の王都脱出手助けってのがほとんどだな。稼ぎ時だ。しっかりやんな」
「いや待て。悪いが、これからの依頼はしばらく断らせてもらおう。オレ様達には、これから大仕事が控えているのでな」
金貨を袋につめて、まだバカ笑いしているラムスがキッパリ言った。
「ははあ、貴族様の方から指名でも入ったか。ったく、使える奴らから上が順に持っていっちまうんで、やってられねぇぜ」
「そうではない。オレ様達はこれから独自に動くのだ。誰の依頼でもなく、な」
「あん? 何をしでかそうってんだ?」
「決まっておろう。この王都を氷河に沈めんとする巨悪。ペギラヴァを討ちに行くのだ!!」
絶句のギルマス。
強面じいさんのこうも仰天した顔は、すごく貴重かもしれない。
「……………おい待て。さすがに冗談だよな? お前さん方は頭ヤバイ連中とかじゃないよな? サクヤさん、俺はアンタの正気を信じていいんだよな?」
「私は正気です。正気で冷静で……」
言葉を続けようとしたが、またまた調子にのりまくったラムスのバカ声が響く。
「フハハハハ愚かなギルドマスターよ、聞くがいい! このサクヤはな、なんと神に選ばれた冒険者なのだ! 神の世界へ行き帰ってきた者であるのだ!!」
やめろォォォラムスゥゥゥ!!!
たしかにある意味本当だけど、完全に頭ヤバイ奴の与太話だよ!
ほら、ギルマスがものすごいびっくりした顔で私達を交互に見ている!
「お、お前らそういう集団だったのか!?」
「フハハハ、きさまも、オレ様達のあまりの偉大さに度肝を抜かれたようだなあムゴゴッ」
ラムスに話をさせておくことが危険水域にまで達したので、全力で口を塞いだ。
そりゃギルマスも度肝抜かれたよね。
当の私ですら抜かれまくって抜け殻だもん!
「いえいえ! このバカヤローのたわ言は聞き流してください。大きいクエスト成功させたばかりで、気が大きくなって、変になってるだけですから!」
「そ、そうか。まぁ若いヤツラにゃ、そういった事はよくあらあな。相棒お大事にな」
「ありがとうございます。で、頼みたいんですが、今すぐ強力な耐寒冷術式の施された防具とか入手できませんか? ペギラヴァの吹雪の領域に少しでも長く居たいんで」
「げはぁっ! そう言うお前さんもイカレてんじゃねぇか! まともそうな顔して同類じゃねぇか!」
「アタマおかしくてごめんなさい。それで防具の方は……」
「ねぇな。そんなモンはみんな軍に徴発されちまってる。悪いが力にゃなれねぇ」
「そうですか。ま、手持ちで何とかしてみます」
「……なぁ、こんな説教臭えことは言いたくねぇが、言うぜ。冒険者ってのは仕事だ。クエストこなして金を稼ぐ。それだけだ。『英雄の道』なんて勘違いした若ぇのが無茶な依頼受けて潰れてくのを、俺は数多見てきたぜ」
「言いたい事はわかります。『自分の力量以上のことに手を出すな』ってことでしょう」
「モガッモガァァッ」
ラムスの口はまだ解放しない。この男こそまさに、その勘違いの権化みたいな奴だから。
「分かってんなら、何でそんなことに手を出す? ましてや依頼でもねぇ。冒険者は自分の命と体を元手に稼ぐ商売だ。てめえらは、それを無駄に使い潰そうってんだぞ。てめぇらなら無難な仕事だけでも一財産つくれるだろうによ」
「この王都がなくなったら悲しいからです。みんなが生きているこの場所。守れる力があるから惜しみなく使いたいんです」
これってゲーム中のユクハちゃんのセリフなんだよね。
残念ながら、私は王都にそこまでの思い入れはないけれど。
ここのユクハちゃんも、そう思っているのかな。
「…………そうか。待ってろ」
ギルマスは席を外して奥へと行った。
そして再び戻ってきた時には大型の盾と防具一式を持ってきた。
「お望みの寒冷耐性一級術式を入れた特製モンだ。これをさっきの報酬全部で売ってやるよ」
「いいんですか? この状況下で軍に渡さないで持ってたってことは、それだけの価値とかあるんじゃないですか?」
「なぁに。いよいよ王都を離れにゃならん時がきたら、売り払って路銀にしようと思ってただけだ。ここでお前らに売っても同じだろうよ」
「そうですか、助かります。これで精いっぱい戦ってみせます」
「俺は止めてぇんだがな。つい、さっきの言葉にほだされちまった。正直、俺もここを離れんのが悲しくてよ」
あ、いやさっきのは借り物のセリフであって、私のじゃないんだけどね。
いいのかなぁ。ゲームのセリフのパクリなんかで、ギルマスの人情動かしちゃって。
とはいえ、今、これだけのものを買わない選択肢なんてない。
せっかくの高額報酬だったが、それはそのままおお返ししてこの一級防具を買った。
みんなゴメン。
「うーむ、せっかくの豪遊資金が。まぁこれも真なる英雄へ至る道。がまんだ」
しぶしぶラムスは、さっきの金貨を袋から出して戻した。
みんなもラムスみたいに考えてくれればいいなぁ。
ああ、そうだ。
次の彼女のフラグも立てておかなきゃ。
「ギルドマスター、ついでがあったらセリア王女姫殿下にお伝えください。『祝勝会で会いましょう』と」
「はっ、祝勝会ときたか。そんなモンがあったら目出てぇな。いいぜ、伝えておく。社交界の笑いネタ一つくらいにゃなるだろうよ」
そうだね。終わったら、みんなが笑って武勇伝とか語れたらいいよね。
そんな願いをかけて私達はギルドを出た。




