63話 神に会ってきた少女
私はお兄ちゃんの転移術で、またこっちの世界の元の場所に送られた。
そこでは雪の上でノエルが三人の賢者たちを看ていた。
「サクヤ様!? いきなり現れた!?」
「ノエル、ただいま。ラムスとアーシェラは?」
「あ、それはサクヤ様を探しに出ていまして」
やがて遠くからアーシェラとラムスが駆けて来た。
「サクヤあ! いったいどこに行ってたんだよ! すごく心配したよお!」
「サクヤ! お前、どこから出てきた!? この辺りは全部探したんだぞ!」
ラムス、ノエル、アーシェラ。
みんなの顔を改めて見回す。
やっぱり見捨てられないよね。
みんなの命がかかっているなら、ここでやるやるしかないよね。
私を勝手に異世界に送ってレズを強要したお兄ちゃんには腹がたつけど。
でも、みんなを失い続ける悲しみを経験をしたお兄ちゃんに、少しだけ同情はしている。
とは言え、やることは、残り三人の子の攻略かぁ。
ユクハちゃんは気が重いなぁ。
いったいそれが、魔人王のザルバドネグザルを倒すのにどう関係してくるんだか。
―――「サクヤ、戻ったか」
突如聞こえた老人の声に、私達は驚いてそこを見る。
ああ、私の帰還を歓迎してくれるのはアンタもか。
いつの間にやらザルバドネグザルが私達のすぐ側にいた。
魔法隠形だったか。やっかいな術だよ。
「てめぇ!? 何の用だ!」
剣呑な雰囲気になる皆を、手振りで黙るよう指示。
代表して私が話す。
「アンタはさっさと帰されたんだったね。いいザマだね」
「じゃが、アレはお主には用があったようじゃの。あの高位存在は何者じゃ? あそこはどこで、いったい何をしていた?」
なるほど、たしかに知識欲旺盛な奴だ。
いずれ戦わねばならない奴だけど、それは今じゃない。
そして今は情報戦の期間。
「言う必要なんかないね。休戦は終わりだし。ただアンタに構っている暇なんかないから、このまま立ち去るなら見逃すよ」
「ほほう、あのペギラヴァを送り返すことが出来る唯一の術士であるこのワシに用がないと? お主にあれをどうにか出来るのかのう?」
やっぱりそれを交渉材料にしてきたか。
それを聞いた皆の顔には動揺が浮かぶ。
でも、私は動揺しない。
「アンタの手は借りない。高くつきそうだしね。ペギラヴァの始末は私がつける」
ザワリ……
皆は驚いて一斉に私の顔を見る。
なんか謎の強キャラ感出してるね、私。
「正気か? 精霊獣最強の力を持つアレを、お主がどうにかすると」
「そうだよ」
「……ふむ。上位世界へ行って、ずいぶんな自身をつけたのう。高位存在に何か力でももらったか?」
「さぁね。それを汚いじいさんになんか言う気はないよ。きれいなお姉さんとかなら、ともかく」
「ほほう、さすが女好きでも有名なサクヤじゃのう。言っていることが、どこぞの娼婦にいれこむチンピラそのものじゃ」
ぐはっ! 本気で傷ついた。
酒場の姉ちゃんに『やれやれ俺ちゃんて、女に優しすぎていっぱい貢いじゃうからなぁ。だから分かってるね(ビンビン)』とか言うおっさんと、私は同レベルに見えるのか?
ともかく多大な私の尊厳の犠牲を払って、シャラーン登場のフラグは立てた。
うまく彼女を送り込んでくれるかな?
「まぁいい。予定は狂ったが、面白いものを見れそうじゃ。やってみせるがいい」
ザルバドネグザルはまたも、気配さえ消失したように姿を消した。
今度相まみえる時までに、この消失魔法を見破るスキルを身に着けとかないとね。もっとも今度は魔人王になってるかもだけど。
「サクヤ、本当にお前はどこへ行ってたんだ? それに高位存在ってのは?」
もう一人の君だよ、ラムス。
「ごめん、そのことは話せない。ただ、ちょっと厄介な事を押しつけられた。でもその代わり、ペギラヴァの件はどうにかするよ」
「なんだって! まさかサクヤは、高位存在とやらにペギラヴァをどうにかする方法を聞きに行ったのか!?」
「いや、まぁ……ウン、ソウダヨ」
そうだね。そういうことにしておけば、この先やり易いかな。
――「ほおサクヤさん。アンタ、なにか神様みたいな人に、何やらえらい事を頼まれたらしいな」
そう言ったのは、目を覚ましたバニングさん。
「え? あ、まぁそうです。神様に試練をあたえられました」
エロテクで女の子をオトすことですが。
「そうかい、そういうことなら、俺らがアンタからメガデスをいただく訳にはいかんなぁ。上で起こっとる災害も何とかしてくれるそうやし。な、ワードラーじいさんよ」
隣で同じように目を覚ました最年長の錬金の賢者ワードラー・ルルペイアに話しかける。
彼は私と背中のメガデスを交互に見て、重々しく語りかけた。
「お前がサクヤか。そのメガデス、我が工房から如何に盗んだ?」
「気がついたら私の側にあったんだよ。悪いけど、これは渡すわけにはいかないよ。この先の試練に使わなきゃならないからね」
「……やむを得んのう。まだ誰にも使えぬはずのそれを自在に扱っていることといい、どうやら儂の知らぬ所でメガデスは何者かの手が入っているらしいの。いずれそれが何者なのか聞かせてもらうぞ」
「簡単に話せる者じゃないんだよね。ま、ともかくメガデスは、ちゃんと世の中のためになるよう使うよ。他に使える者もいないんだし、私にまかせなよ。それじゃみんな、地上へ戻ろうか。……みんな?」
ラムス、ノエル、アーシェラはやけにキラキラした目で私を見ていた。
「すごい……サクヤ様、神様から使命を与えられた!」
「神様に選ばれた剣王? なんかすごい事になっている!」
「ううむ、神に選ばれたのがオレ様でないのは残念だが……」
「いや神様ってわけじゃ……あ、創造神だっけ」
この先もこんな目で見られたら、やりにくいなぁ。
ともかく地上に戻ったら、まずはユクハちゃん攻略。ついでにペギラヴァ退治だ。
優先順位がおかしい気もするけど、これで正しいんだからしょうがない。




