62話 また異世界へ
お兄ちゃんの長い話が終わった。
別の世界のノエルの最期なんかは、ちょっと切ない気持ちで聞いた。
「ラムクエの終わりがまさかそんな救いのない話だったとは。そんな鬱なシナリオで、よくエロゲ最高の売り上げとか達成できたよねェ」
「あほう。ラムクエは商品だからな。ラストはちゃんと魔人王を倒したシナリオで締めてるわ。最後まで事実である必要もないわけだしな」
……あれ?
「ねぇ。さっきからラムクエは自分が作って販売しているように話してるけど、あれって『アリサソフト』って会社の商品じゃないの? お兄ちゃんは、その会社にどれくらい関わっているの?」
「大株主だ。あそこの株の五十パーセントはオレが持っている。ラムクエに関しては、企画やらプロデュースもやっているがな」
「はぁああああっ!??? ちょっと待ってえええっ!!! なんでお兄ちゃんがそんな大金持ちなのよ! お兄ちゃんの仕事って、どこぞのブラック企業の社畜じゃなかったの!!?」
「まぁたしかにアリサソフトは何日も家に帰れないレベルでブラックだし、オレもラムクエの開発中は社畜だったがな。本業はデイトレーダー。これでも元神だからな。百億程度の財産作れる能力くらいはある」
「ち、ちっとも知らなかった……そんな大金持ちなのに、いつもそんな汚い恰好してたんだ」
「んで、ラムクエは金にモノを言わせてシナリオもCGも声優もハイクラスの人材を使っている。広告費その他も十億。それにアニメ企画もあって、無論それも有名どころから高額で人材引っ張ってきている」
「ど、どこまで自己顕示欲高いのよ! そんなに自分の前世を世間に知らしめたかったの!?」
業界でどう思われてんだろ。この金満プロデューサー。
「んなワケあるか。ちゃんと理由はある。まぁそこまで話すと長くなるしやめよう。話が脇道だしな。話を戻すぞ。お前をクライマックス前で送ったのも、フィックション部分を本当と思われては困るからだ」
「ああ、そうか。そうだよね。フィックション部分なんか見せられたら、間違った知識でザルバドネグザルと戦うことになってたかもしれないもんね。お兄ちゃんも考えて私を異世界に送ってくれたんだね……って、ゴラアアアアッ!!!!」
なんで、私は自分を異世界送りした鬼畜兄なんかに感謝してんだ!!?
「なん……なん……なんで……ッ」
くううっ、怒りで言葉が出てこない!
「なになに『なんで私を異世界に送ってモンスターと戦わせたり、女の子とえっちさせたりしたの。ぜんぜんその説明してないぞウンコ兄』だと? ウンコとは何だ」
完璧に口の動き読みやがった!
本当に超人だな、この兄。
「そうだ! ちゃんとその説明をしなさい!! あと殴らせろ!!」
「その説明をする前に、今の銀河の状況を理解する必要がある。メチャクチャ長くなるぞ」
「聞いてられるかああっ! どこまで壮大な説明するつもりだ? もっと簡潔に話せ! 銀河とか、いいから!」
「よし、じゃあ簡潔に言うぞ。すべては魔人王ザルバドネグザルを葬るためだ。お前をオレの創造した世界に送ったのも、七人の女を攻略させているのも、こっちの世界でオレの前世譚の『ラムクエ』を販売してんのも。以上!」
「ぜんぜん分かんないよ! ちゃんと説明しなさーい!」
「もう、話すの疲れた。残りはあとでメールでスマホに送っておくから後で読め。そろそろ、あっちにお前を戻すぞ。残り三人しっかりオトせよ」
「なんという鬼畜! また私を異世界送りしたうえ、女の子をエロテクの餌食にさせようとは! 誰が行くかああっ!」
「行かなきゃ、あの世界のヤツラはみんな殺されちまうぞ。やがて来る魔人王ザルバドネグザルにな」
「え?」
剣吞な言葉に、思わず私の怒りの熱も冷めてしまう。
みんなが殺される? あっちの世界にも魔人王が現れて?
「……どういうこと?」
「見ての通り、オレは神様やめて人間に転生した。継承された創造神の力を、再び【奈落の道】の底に封じてな。創造神は創った世界を安定させ続けなければいけねぇんだが、オレはそれをやめた。するとオレの創造した世界は安定を失い、その元となった世界に引き寄せられ、やがて一つになる」
「ま、魔人王のいる世界へ!? それで、みんなは……」
「ああ、奴に殺される。お前はコマした女どもを見捨てられるのか?」
言い方ひどい!
それはともかく、一瞬で私はまた異世界へ行く決心をしてしまった。
「……私が行けば、みんなは助かるんだね?」
「お前次第だ。オレの導きに従って魔人王を倒せ。とりあえず向こうに戻ったら、まずは残り三人をオトせ」
「いやだから、それの意味が分かんないんだけど? 女の子をオトすのが魔人王倒すのと何の関係があるのよ!」
「だから、その説明はあとで読め。で、お前が納得したなら、ケリをつけるのは早い方が良い。女オトすのは一ヵ月以内にカタつけろよ」
「い、一ヵ月!? 無茶言わないでよ! ユクハちゃんはホノウ大好きだし、セリア王女様はまだきっかけさえ掴めてないし、シャラーンはドルトラル帝国行って行方を探す所からはじめなきゃなんないし! 間に合うわけないでしょ!」
「ったく。オレの妹のクセに頭を使わん奴だ。ドルトラル行くなんざ論外だ。ゼナス王国の三倍の領土を探してたら何年かかるってんだよ。三人の攻略法を教えてやる」
とまぁ、創造神様から女の子のオトし方を教わったわけだが。
やっぱり元鬼畜勇者だけあって、すっごく悪辣な方法だったよ。私の良心大丈夫かなぁ。
あとついでに、ザルバドネグザルのことも教えてもらった。
「ふーん、やっぱりザルバドネグザルもこっちに来ていたのか。でもお兄ちゃんはすぐに向こうに送り返したと」
「ああ。だがやはり知識欲の塊のような奴なだけに、オレやこっちの世界のことは興味深々だったぜ。そしてそれを利用して、シャラーンを呼び寄せることが出来る」
踊り子シャラーンは、じつは「ドルトラル帝国の諜報員。
ゲームでは、ラムスから情報を得ようと接触してきた所をコマされて、あっさり帝国を裏切ったりしてたけど、現実でそんなに上手くいくわけないよね。
手管に長けた女スパイなんて、私がどうやってオトせばいいんだろ。
「やっぱり……ユクハちゃんもNTRしなきゃなんないのか。二人の幸せを守るって決めたのに」
「ヌルいこと言ってんな。魔人王を倒せなきゃ、どっちにしろ幸せなんてねぇ。ほら、スマホとメガデスだ。コイツでまた暴れてこい」
お兄ちゃんはクローゼットからメガデスを取り出し、ザルバドネグザルから取り返したスマホと一緒に私に渡した。
またこれで異世界を渡っていくんだね。
「ねぇ、最後にひとつ聞いていい? ノエルの最期の願いのこと」
「……言ってみろ」
「魔人王を倒すとしても、ノエルの『生き返ってみんなと会う』って願いを叶えるのは無理だよね? もう一つの世界のみんなは死んじゃったんだから。けどお兄ちゃんは、その願いもどうにかしようとしている気がする。どうなの?」
お兄ちゃんはメガデスを真剣な顔で見ながら言った。
「このメガデスな、前世でオレが使っていたものなんだがな。これをお前と契約させて、一緒に創った世界へ送った。だがその時、面白い現象が起こった」
なんだ? いきなり話題が変わったぞ。
もしかして別の話題ふって、この話やめさせようとか?
「別の場所で現錬金の賢者ワードラーじいさんが製作中のメガデスが、消失したんだよ」
「……ああ、その話は聞いたことがあるよ。でも、それが?」
「二つのメガデスは一つになった。どうやら二つの世界の同一の物質は、同じ世界に存在した瞬間に一つになっちまうようだ」
「へぇ。並行世界ってそうなっちゃうのか」
「となると、人間もだ」
「あ! もしかしてお兄ちゃんが考えてるのは?」
「ああ。あっちで死んだ奴らも、オレの創った世界で生きている奴らの中に甦るのかもしれん。それを少し期待している」
「そう上手くいくかなぁ。ずいぶん前に死んでいるんでしょう?」
「ま、つまらん感傷だ。だがどっちにしろ、魔人王の奴は倒さなきゃはじまらねぇ。咲夜、頼んだぞ」
「……うん」
また異世界へ行くことへの葛藤とかが無い自分に少し驚いた。
思った以上に、向こうの仲間と生活は嫌いじゃないらしい。




