06話 ラムスと私
さて、めでたく(?)主人公ラムスとパーティーを組むことになった私。
その彼から、受けているクエストの内容を聞いた。
「つまりだ。近年、このハジマーリの森では、凶暴な肉食モンスターがあまりに増えているというのだ。さっきのグレイウルフなどより、さらに強力なモンスターがな。村が全滅するようなこともあったため、ここのリーレット領領主としては軍隊を出さねばならない。が、そうする余裕がない」
「どうして?」
「うーむ、平民のお前に教えるかは悩みどころだが……近年、国境近くで、ドルトラル帝国が侵入をしそうな動きをしているそうなのだ。それに備えるため、軍隊を温存せねばならぬのだ」
ふーん、あのイベントは近いな。
ついでに言えば、このラムス。
じつはとある貴族の四男坊で、ちゃんとした仕事につけるにも関わらず、英雄志願が強いためにヤクザな冒険者稼業をしている困りものだ。
「そこでモンスター退治に高額報酬を設けて少しでも被害を減らそうとしているわけだ。そこにオレ様が、モンスターどもをバッタバッタと倒せば、領主もオレに一目置かざるを得ない。栄光への第一歩というわけだ! わははは」
実力があればね。
まぁその計画は、私が手を貸して乗っかってやるつもりだけども。
リーレット領主の令嬢ちゃんに近づくためにね。
ついでに言えば、この森で凶暴モンスターが大量発生しているのもドルトラル帝国の陰謀だ。
あの国には優秀な魔物使いがたくさんいて、侵攻前の一帯をモンスターで暴れさせるのが手なのだ。
このイベントは、もっと後の方で起こるはずなんだけど。
「よし、まずは狼どもの討伐証明部位をとってしまおう。10匹ものグレイウルフを倒したとあらば、ギルドで噂にならぬはずがない。ついでに使える素材もとろう。サクヤ、手伝え」
「あ、いやその、ナイフ持ってないんです。やり方も知らないし。ラムスさん、今回はおまかせします」
「なんだ、しょうのない奴だな。危険なクエストに出ているのに、ナイフの一本もないなんて……いやっ、ナイフどころじゃない! おまえ、そんな恰好でクエストに出るなど正気か!?」
そうだね。
Tシャツにジャージ下なんて、クエストどころか外に出る恰好でもないよね。
もう気にしてもしょうがないけど、なんて恰好で男の人の前に出ているんだ。
「それに……」
いきなりラムスは「ギュッ」と私の腕をつかんだ。
「きゃっ、な、なに?」
「細い。お前、そんな細腕でその大剣を振り回しているのか!? ちょっとそれ貸してみろ」
ふむ。この契約剣、契約者以外が持ったらどうなるか。
原作通りか、ためしてみるのもいいか。
私はスラリと背中からメガデスを抜いてラムスに差し出す。
「はい、どうぞ。いちおう両手で持ってくださいね」
「うむ…………ぐわぉわぁあ!!!?}
ドズウウウン
ラムスはメガデスを支えきれず地面に落としてしまう。
持ち上げようと柄を握るも、ピクリとも動かなかった。
「な、なんだぁ、この重さは! 見た目より軽いどころか、逆に重いではないか! こんなもの、人間が持てる重さではないぞぉ!!」
原作通りか。
メガデスはその契約者とならない限り、ピクリとも台座から動かせない。
契約者となったことではじめて台座から引き抜き、最強剣としての活躍を見せることができるのだ。
私は活躍するシーンまで見ていないけども。
「もういいでしょう。返してもらいますね」
私はメガデスを片手で拾い上げると「クルリ」一回転させて背中の鞘にもどした。
「ぐぬぬぬ悔しい! よし、サクヤ。オレ様の剣も持ってみろ」
ラムスは自分の剣を抜くと、柄を私の前に出した。
私はそれを両手で持ってみる。
ズンッ
「うわっ重い!」
腕と足をプルプル震えさせながらも、落とさずに持てた。
でも、これで戦うのは無理だ。
剣術レベル5のおかげで剣に対してだけは力持ちのはずなのに、この様だよ!
「ラムスさん、こんなもの使って戦っているんですか? 重すぎのせいで戦えないんじゃないですか!?」
「うむ。ミエを張って上級者用のを買ってしまった。これは下取りに出して新しいのを買うが。それはともかく、サクヤのその剣はタダの剣ではないな。おそらくは高位の魔導具」
「ええ、契約剣メガデスといいます。契約者以外がこの剣を持つと、ラムスさんのようになるみたいですね」
「ほほう、大したものを持っているな。恰好も奇妙だし、サクヤは魔法師の家系か?」
いえ、ただのサラリーマンの家系です。
この剣も本来はあなたが契約者になるはずだったのに、横取りしてゴメンナサイ。
「私のことはそのうち話します。それより早く討伐証明ってやつを」
「あ、ああそうだな。しかしサクヤが荷物持ちとして役に立たんなら、素材はあんまり持ち帰れんな。惜しいことだ」
「あ、そういえば私、虎ゴーンも三頭倒しているんです。素材はそっちから取りません?」
「な、なにッ虎ゴーンを!? あれはCランクの大物だぞ! ガワだって岩のように硬くてダメージを与えられやしない! とても一人でどうなるわけ……その剣か」
「ええ。嘘じゃなく、ちゃんと倒してますよ。狼はさっさと終わらして行きましょう」
というわけで、狼は証明部位だけをとって、前に倒した虎ゴーンの死骸の場所へ。
まだ数時間しかたっていないおかげで、死体あさりの獣は小さいのが数匹だけだったので、あっさり追い払うことが出来た。
「おお、まさしくコレはCランクモンスター! 目玉の毛皮は……使える部位が少ないな。サクヤ、今度倒すときは、なるたけ腹を斬って倒せ。背中はぜったい傷つけるな」
「そんな器用な倒し方できません。腹って下の方にあって、当てられないじゃないですか」
「うーむ、あとは牙、目玉、肉。肝臓や膵臓も薬になると聞いたことがある」
ラムスは私の反論など聞く耳もたず、せっせと素材取りに熱中している。
こういった作業を手慣れた様子でやるのを見ていると、彼はこの世界の住人なんだな、と感じる。
「フフフフ、グレイウルフ十匹に虎ゴーン三頭。これだけの成果を見せれば、誰も彼もグウの音も出まい。裏切者どもよ、覚悟しておけよ」
ラムスが復讐めいたことを呟いていたことだけが、少し気になった。




