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58話 高位存在その正体

 深いまどろみから目を覚ました。

 まだはっきりしない頭のまま自分が何に寝ているのか見てみると、この世界にはないはずのスプリングベッドの上でフランネル毛布にくるまっていた。

 さらに辺りを見回すと、やたら広いタワマンの一室のような部屋で、机、椅子、ベッド等の家具以外は、パソコン機器のような精密機械に囲まれた場所であった。


 「え? ここ……現代? たしか高位存在とかの所に召喚されたんじゃ……ああっ!」


 机の上に目をやると、そこには作られたばかりのカップ麵と、缶詰やお菓子等の現代の食べ物が置いてあった!


 「おのれ高位存在め! 人をあんなメシマズ世界に送っておきながら、自分はこんな高級ディナーをむさぼっているとは! 許せん! 私がみんな食べてやる!」


  ガツガツ ズルズル モシャモシャ バリバリ


 「ううっ! 味噌ラ王とシーチキンとポテチが死ぬほどおいしいっ! でも甘い物がないな。ポッキーとたけのこの里とイチゴミルクも買ってこおい!」


 そしてそこにあるアサヒドライにも手を伸ばすと、「ヒョイッ」と誰かの手が伸びて先にとられた。


 「これだけはやめとけ。向こうじゃお前は大人でも、こっちじゃいろいろと問題だ」


 そしてそれを「プシュッ」と開け、ゴクゴク飲んでいるこの人は……えええっ!?


 「ええっ!? お、お兄ちゃん!?」


 あんまり散髪しないモジャモジャ頭に、適当に剃っただけの残り髭だらけの顔。

 着た切りの汚いスーツのその人こそ、私の兄。

 【野花のはな 岩長いわなが】だ! 


 「メシに夢中でオレに気がついてなかったのか? ったく、人の昼メシ遠慮なしにむさぼりやがって」


 「だって獣臭くも草臭くもないご飯なんて久しぶりだもん。こんなごちそうが目の前にあったら、他のものなんてどうでも良くなっちゃうよ」


 いったいどうしてパーティーには、私含めて料理スキルを覚えられる子がいないのよ。

 いたら一番に可愛いがっちゃうのに。

 『胃袋をつかめる女は最強』って真理だね。


 「……いやいやいやっ! お兄ちゃん! 長く行方不明だった妹と再会したのに、昼ご飯の方が気になるの!? いったいどういう神経してんのよ!」


 「り。神の目越しとはいえ、いつも見てんで、再会って感じはしねえんだわ。最初はスキルやったとはいえ、お前にモンスター退治とか女オトすとかやれるか不安だったが、上手くやれてるじゃねえの。立派なスケコマシ勇者に育ってくれて兄は嬉しいぞ」


 「あの世界では生きるのに必死だったもん。早く帰りたいからレズにも頑張ってなっちゃったし……」


 …………なんですと?

 いつも見てるって、もしかしてアノ時も?


 「お、お兄ちゃん(震)。まさか私がロミアちゃんやノエルやアーシェラとかとあんなことやこんなことしてる所とかも、もしかして全部……」


 「まぁ一部始終ってわけじゃないが、最初の方だけは確認のために、な。だが、実用とかには使ったりしてない。妹の成長見守る兄の目線でだから気にするな……って言っても無理か?」


 「ぎゃあああっ! このド変態! 痴漢があああっ!! 他にもいろいろ許せない事を聞いた気がするけど、とにかく許せん!」


 とにかくボコボコに殴ったけど、お兄ちゃんの顔は名前の通り岩みたいに硬い。

 自分の手の方が痛くなってきたのでやめた。

 くそう、ここにメガデスがあれば……って、あれ? メガデスはどうしたんだろ。

 それにザルバドネグザルも来ているはずだけど、アイツは?


 「おー痛え。やっぱ剣士やってるだけあって力強くなってんな。メガデス隠しといて正解だったぜ」


 「あ、お兄ちゃんが持っているの。で、今までの話からすると、私をラムクエの……ゲーム世界へ送ったのはお兄ちゃんってこと? いったいどうやって、何の目的でそんなことしたのよ!」


 なんと犯人は身内だった!

 窃盗とかにはありがちだけど、さすがに異世界送りしたのが身内って、小説でも見たことないなぁ。探せばあるかもだけど。


 「やっとそれが出たか。オレが言うのも何だが、一番最初にする質問じゃないか? あとゲーム開発業界にいる者として言うが、ゲームの中に世界なんかない。プログラムや音響CGなんかで、ユーザーに世界があるよう錯覚させているだけだ」


 「……なんかいろんな所にケンカ売ってる発言な気がする。とくに悪役令嬢モノとか書いてる人に」


 「そうだな。まずラムクエから説明するか。あれはオレが前世に居た、こことは位相を異にする異世界の、オレの前世体験をゲームにして綴ったものだ。お前をあっちの世界に送る前に『鬼畜勇者ラムスクエスト』をプレイさせたのも、あっちの世界のことをざっと知ってもらうためだ。こんな理由でなきゃ、妹にエロゲプレイなんか頼まんよ」


 「はい? あれ? それじゃ、お兄ちゃんの前世って……」


 「ああ、そうだ。オレの前世の名は【ラムス・オルバーン】。オルバーン侯爵家の三男だったが、勇者としての名とハーレムの方が知られていたな」


 「ええっ‼ ラ、ラムスなの? あれ? でもなんか、おかしくない? 転生したってことは、死んだってことでしょ? けどラムスはまだ生きているわけで?」


 「お前といっしょにクエストやってるラムスは、オレとは別モノだ。前世のオレとそっくり同じだが、別の存在と考えろ」


 「????? わかんないんだけど? ラムスが二人いたってこと?」


 「オレことラムスだけじゃない。現在あっちの世界は二つあるんだ。つまり並行世界が存在している。一つはお前が行った、オレの創造そうぞうした世界。そしてもう一つが……」


 「いや待って! 『オレの想像そうぞうした世界』って何!? あの世界って、お兄ちゃんの妄想ってこと!?」


 「妄想の『想像そうぞう』じゃなくて、創ったという意味の『創造そうぞう』な。オレはあの世界の創造神そうぞうしんなんだよ。だからお前に【簡単スキルアップ】なんかのチートを授けることもできる」


 「ぎゃあああっ! 前世鬼畜勇者きちくゆうしゃで今創造神そうぞうしん!? 兄の厨二病が重篤すぎだった件!!!」


 「とにかく話が進まん。『待って』はしばらく控えろ。ひと通り話し終わった後に質問に答えてやるから」


 「わ、わかりました想像神そうぞうしん様。あなた様の考えた最強の世界をお話しください。で、『もう一つの世界』は何?」


 「『魔人王となったザルバドネグザルが、世界を滅ぼしかけている世界』だ」


 そうして兄は語りはじめた。

 ゲームでは語られなかった鬼畜勇者ラムスの本当の戦いと。

 そして彼がたどった運命の話を。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 大体分かってきましたが……。まだまだ疑問点がいっぱいです。次が待ち遠しい。
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