57話 奪われたスマホ 鳴りだすコール音
*55話終了時点まで戻ります。
ちっくしょおおおお!
向こうのみんなが、いつの間にかそこにいた狼獣人のゼイアードというスゴ腕の剣士に襲われたぁ!
ザルバドネグザルの奴!
私に気づかれることなく接近して背後までとっておきながら、何もしないままに姿を現した、なんて不可解極まる行動の理由はこのためだったのか!
何かしらの罠は警戒していたけど、まさか置いてきたみんなの方に仕掛けるなんて!
これに対応するため、スマホを出してアーシェラの剣術レベルを7にアップ。
その結果を見る間もなく、背後から魔法の熱源反応感知! 魔法の火球ファイアボールだ。
ま、こうも無防備に背中をさらしたなら、当然攻撃はするよね。
「けど、甘い!」
ボシュウッ
後ろを見ないままメガデスを振りぬき、相手のファイアボールを潰す。
私の気配察知スキルは、目に頼らなくても攻撃を見切ることが可能なのさ。
「おっと連弾か。数が多いな。でも問題ないけどね」
ボシュウッ バシュウッ ドシュウッ ベシバシベシッベシベシッ
続けざまにくる無数のファイアボールは、さながら燃え盛る壁がせまってくるよう。
されどそれらすべてを、メガデスを振るい難なく叩き潰していく。
これだけの火球を繰り出す魔力はさすがと言いたいけど、攻撃としては単調で効果的とは言い難いね。
ファイアボールを凌ぐかたわら横目でアーシェラの様子を見たけど、あちらの方も襲撃を上手くいなしている。
どうやらスキルアップは成功したみたいだ。あちらは気にせず、こっちの方に集中できそうだね。
やがてザルバドネグザルはファイアボールを出すのをやめた。
「どうしたの? まさかこれで終わり? いくら何でも大したことなさすぎですけど?」
「終わりじゃ。目的は果たしたからのう。しかし、この魔導具は何じゃ? 使用法含め、かなり調べんと分からんのう」
「……え? あっ、ああああっ! スマホがあっ!!!?」
いつの間にか私の懐からスマホは無くなっており、それはザルバドネグザルの手の中にあった。
まさかザルバドネグザルが姿を現してからの一連の流れ、それはスマホを奪うためのものだったの?
だとしたら、老獪さが神すぎる!
いや、考えるより早く取り返さないと!
「返しなさい! ぜったい逃がさないから!」
「フッ、一つ言っておこう。さきほどお主に言った言葉、半分は嘘じゃ。たしかにお主を倒すことはワシの力をもってしても至難じゃ。しかし逃げることはそう難しくはないぞ。魔法隠形の奥義をもってすればな。フハハハハ」
「え、ええっ!?」
ザルバドネグザルの存在感がやけに薄くなったと思ったら、奴の体が透けていく。
やがて完全に消えて見えなくなってしまい、笑い声だけがその場に響いたが、やがてそれもかすれて消えていく。
あとには何もない。
気配すらどこにもないっ!?
「そんな……まさか私の気配察知スキルにすら、かからないなんて! 魔法隠形? くそっ、なんて凄い術なんだ! スマホを奪われたあああっ!」
前に私が奴に完勝できたのは、不意打ちが上手くハマったのと、まだ奴が私を小娘と舐めていたからか。
本気になったら、やはりこの世界で最高の魔法師。
このチートスキルまみれで最強な私が、こうまでしてやられるなんて!
こうなっては、もう……
チャチャチャーーン チャラリラチャチャーーン
あ、あれ? これって電子音の音楽?
なによ、昔のアニメアイドルの曲じゃない。
いくら何でも、これをスマホのコール音にするのはねぇ。
二次元ギャルに脳をやられた萌えブタめ。
「……………………スマホのコール音!!!!!?」
電子音を聞いて、感覚が現代人に戻っている場合じゃない!
奴がいるのは、まさかこの先?
「てええいっ【雷鳥剣】!!」
萌えブタ大好き電子音音楽の鳴る何もない場所に、斬撃を放つ。
「ザシュウウッ」と手ごたえある音がしたと思ったら、空間に赤い血が流れた。
するとそこに、深々と傷を受けたザルバドネグザルが姿をあらわした。
「ぬかった。相対しているのはサクヤ、お主だけではなかったのだな」
「……そうだね」
初めてこの世界に来た時にメールをよこして以来、まったく連絡のなかったミスターX。
だけどこの一件で、奴はいまだ私を監視していることがわかったよ。
「じゃが、お主の力の源はわかったぞ。この魔導具は、この世界の上位にいる高位存在と繋がっておる。それがお主にスキルレベル上昇の力を与えておるのだ! そうじゃろうっ」
「ええっ、そうなのっ!?」
「…………なんじゃ、お主も知らなかったのか。ならば」
奴は「ニヤリ」と嗤って提案する。
「一時休戦といこうではないか。いまの送られた”音”で、そ奴の存在する位置は知れた。そしてワシの召喚術ならば、そ奴をここに呼ぶことが出来る。お主の背後にいる者と対面したくはないか?」
「むっ……アンタと手を組むのか」
絶大な魔法師の力を持ちながら冷酷非常で災害すら起こすこのジジイと手を組むことは、危険極まりないと理解はできる。
しかしこれは、この世界に私を送った謎の高位存在とやらに会うことの出来る唯一の機会でもある。
ぶっちゃけ目の前のザルバドネグザルには大した恨みはないのに対し、その高位存在には恨み骨髄だ。
……やるか。
「いいよ、アンタの話に乗ろう。でも妙な真似をしたら、後ろから斬るからね」
「フッ名高い剣豪サクヤを出し抜けるものではないよ。安心していい」
よく言うよ。さっきまんまと出し抜いたクセに。
こうやってナチュラルに気を緩ませる言葉を吐くから、このジジイは油断できないんだよ。
ブッブウウーーッ ブブブブブ
「……むっ!?」
「……え?」
いきなりザルバドネグザルの手の中にあるスマホが激しく震えた。
と同時、私達の足元に巨大な魔方陣が現れた!
「こ、これは召喚の転移陣!? 先手をとられた! 奴の元へ呼び寄せられたぞ!」
「ええええっ!? 私が高位存在の所に行っちゃうの!?」
目の前が暗転した。
深いふかい穴へ落ちていくような感覚をあじわい、ここではないどこかへ向かっている。
ミスターXこと高位存在。
なんてとんでもない力を持った奴なんだ。
そんな奴が何で、私を異世界に送ってチート能力なんか持たせたんだ。
そして異世界に送った私に、七人の女の子をエロテクでオトす、なんてことをさせている意味とはいったい―――
――――ザルバドネグザル。
人間のままであっても恐ろしい奴だ。
オレの存在を嗅ぎ付け、あまつさえ迫ってくるとは。
そしてサクヤ。
早いが、真実を語る時が来たようだ。
…………激怒するだろうな。オレは殺されるかもしれん。




