55話 事件の黒幕
大量の魔物の気配を追って西へ西へと向かった私達。
小高い丘の上でそこに見たものは、やはり狼や虎や熊などの無数の魔物が、雪上で走り回っている光景だった。
「うわー何だこりゃ」
「ふーん? あの魔物たちの動き、狩りの動きだね。中心に向かって絶えず攻め立てているよ。あれだけの数の魔物が襲うなんて、そこに何があるんだろうね?」
「ま、連中を蹴散らして確認するのが早い。ノエル、竜巻だ」
「パチンッ」と指を鳴らして促すと、「はいっ」と元気よく応えてくれるノエル。
彼女は魔物の群れに向かって三歩進み出ると、呪文を唱える。
「南洋に渦巻く大いなる風の竜よ。天に雄たけび上げる者よ。この地に生まれ裂けよ、威よ、迸れ! 【メギュリオンの野風】!」
彼女の前に風が渦を巻き、それは見る間に巨大な竜巻となって魔物集団へと向かう。
「それじゃ、私は行って確認してくるよ」
私はそう言い残して竜巻の後を追った。
ビュオオオオオオッ
魔物の群れに直撃した竜巻は中型小型の魔物を次々に吹き飛ばしていく。
竜巻に耐える大型の魔物には私の必殺剣技スキルが炸裂する。
「征風大切斬!」
竜巻の風を利用し、この前獲得した大技を放つ。
さすがに威力は素晴らしく、おそらくはA級であろう魔物は次々に刈り取っていく。
「え、人!?」
魔物をなぎ倒した先に、三人の人影を見つけた。
そうか。おそらくだが、この魔物どもはこの人達を襲っていたんだ。
でもヤバイ! このままじゃあの人達、この竜巻に巻き込まれる!!
「消え去れ旋風、【征風大切斬】!」
ひときわ大きな風の刃を竜巻に叩きつけると、「ボシュウウウッ」という音を響かせて竜巻は霧散した。
さて改めて彼らを見てみると、そのうちの二人は意識がなく倒れており、意識があるのは残り一人の兄ちゃんだけだった。
そして倒れている二人のうち一人はかなり老齢のおじいちゃん。三人はコルディア卿とお揃いの身分の高そうなローブを着ていた。
三人の中で唯一意識のある体格の良い黒髪の兄ちゃんが私に声をかけてきた。
「おう、姉ちゃん。えらいごっつい技使うの。あんたは?」
「冒険者パーティー【栄光の剣王】のサクヤです。そういうあなた方は、行方不明の賢者様たちですか?」
「そや。俺の名はバニング。いちおう王国七賢者の一人や。そっかあアンタがサクヤか。じいさんに『アンタの持つ剣を取り戻すから手伝え』っつうて連れてこられたんやけどな。まさか、ここまでごっつい技使う剣士とは思わんかったで。さんざん俺らを嬲りよったモンスター共を一掃とはな」
「そうですか、じつはこちらは、あなた方の捜索の依頼を受けて来たんです。そっちの二人の方は無事なんですか? なんか意識がないようですけど」
「ああ。寒さにやられモンスターにいてこまされて、あんまり無事やないが、いちおう生きとるで」
よかった。これで依頼は無事に完了だね。
「それより、あっちのヤバイじいさんも任せてええか? 俺ら、アイツの姿を見ちまったっつうんで襲われてたんや。この魔物の大群、あのじいさん一人が全部呼び出したもんや」
「――なに!?」
バニングさんの言葉に、戦闘態勢をとって振り返る。
そこではじめて、魔物の死骸の中に潜むように佇む老齢の魔法師を見つけた。
それは死んだと思っていた宿敵のアイツ。
「頼んだで。俺ももう限界や」
バニングさんも眠るように意識を手放したが、かまっているヒマはなかった。
「……生きていたんだね。あの状況で生きている可能性は低いから、つい死んでいると思っていたけど」
「高位の魔法師相手に、そんな甘い見方はせん方が良いのう。どんな状況でも生き延びる術なり獣なりは持っておるものじゃ」
それはドルトラル帝国の重鎮であるザルバドネグザル。
なるほど。この大量の魔物どもはアイツが召喚したものだったのか。
私は油断なく奴に剣を向けて語りかける。
「で、どうして、あなたがこんな所にいるの?」
「無論、不覚をとったお主に再度挑むためじゃよ。お主にはワシの【聖者の石】も預けておるしのう。他にも『お主の力に興味がある』というのもあるがな」
「ふーん? それでこっちは、【ペギラヴァ】っていう魔王級の大精霊獣があらわれて大変なことになっているんだけど。もしかしてあなたに関係ある? このタイミングであなたがここに居て、無関係だとは思えないな」
「いかにも。奴はワシの手持ちの召喚獣の中で最大級の力を持つものじゃ。お主に【聖者の石】をとられたので操ることはできんが、ただ呼び出して好きに暴れさせることは出来る」
「なんでそんなことを? それって私に対抗するため?」
「そうじゃ。たかが剣士一人のために奴を呼び出すなど相当なことじゃ。お前さんはそれほどの存在。誇ってよいぞ」
「ああ、そう。だったら、お礼はこのメガデスでたっぷりしてあげるよ。こんな災害を起こしたケジメは、アンタの命で払ってもらうから」
アレのせいでけっこうな数の人間が死んでいる。
それがコイツが私を狙ったせいだというなら、当事者の一人として責任は果たさないとね。
「良いのか? あれを再び精霊界へ戻すことが出来るのは召喚したワシのみ。ワシを殺せば、アレをどうにかする術はなくなるぞ」
「ああ、そっか。じゃ、この場は半殺しってとこかな。王都のお偉いさんの前に引きずり出して、ペギラヴァを精霊界に戻してもらうよ。無論、取引なんかしないで強要だからね」
「そう上手くいくかのう。ワシも、おとなしく捕まるほど耄碌しておらんぞ」
「これだけの数の魔物を召喚できるアンタが、凄い魔法師ってのはわかるよ。けど、同じ数の魔物を召喚したって私には通用しない。それとも切り札になるような凄い魔法なり召喚獣なりがあるのかな? どっちにしろ、それを使わせるほど素人じゃないよ。私は」
少しばかり余裕を出して話などをしているが、この状況は完全に私の王手。
向こうが何をしようと、この契約剣メガデスと剣技レベル10の私の真っ向勝負をどうにかする方法があるとは思えない。
「たしかにお主自身は倒すことも逃げることも不可能に近いのう。じゃが、お主のお仲間はどうかな? ゼイアードよ、やれ!」
「なにっ!?」
その声にみんなの所を見ると、どこに隠れていたのか狼獣人のゼイアードという男と十数匹の魔物どもが、置いてきたみんなに襲い掛かっていくのが見えた!
「しまった! くっ、遠すぎる!」
ゼイアードはあっという間にノエルを切り伏せ、応戦しようとしたラムスもアーシェラも余裕でいなしている。
その場を制圧するまであと数秒だろう。
みんなを人質にされたら為す術はないし、といって、私が急いでも間に合いそうにない。どうする?
「そうだ! これで!」
私は懐からスマホを取り出し、カメラ機能で戦っているアーシェラを映す。
この距離でスキルを与えられるのか? でも、やるしかない!
さっき倒した魔物どものポイントを使い、アーシェラの剣術を一気に7まで上げた。




