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53話 ユクハちゃんの選択

 「主機器メインシステム竜玉カーバンクルヘッドセンサーに同調成功。そっち動かすから気をつけて」 


 巨大なゴーレムは、モミジちゃんの言う通りに動いた。

 それを見ていた研究者のみなさんからは歓声が上がる。


 「そらそらそらぁっ!」


 さらにゴーレムを躍らせると、術士研究者たちからはさらに大きな歓声が響いた。

 難題だったゴーレム操作を、ほとんど初級錬金術師のモミジちゃんが自在にこなしているのが信じられないんだろうね。


 「見事だモミジちゃん! いやルルペイア卿の後継者よ! 君こそルルペイア卿の意思を継ぎ、彼の残した術具で王都をまもる者! ルルペイア卿も彼方でさぞ喜ばれるだろう」 


 「あのーコルディア卿。おじいちゃんが死んだみたいな言い方やめてくれません? あのダンジョンからはユクハも戻ってきているし。おじいちゃん、きっと生きています」


 「う、うむ。そうだったな。ともかくゴーレムをダンジョン前の陣地に動かしてくれ。では諸君! いざ王都防衛戦に向かおう!」


 コルディア卿の言葉で慌ただしく動きはじめる術士研究者たち。

 雄々しく「ズシンズシン」と歩み出発するゴーレム兵。

 あそこだけまるでロボットアニメの世界だね。


 「…………?」


 ふと視線を感じて後ろを見ると、ユクハちゃんが私を見ていた。

 さっきの呟きとモミジちゃんが自在にゴーレムを動かす様で、何かを察しているんだろうな。

 そうだな。ここらでユクハちゃんと話をしてみようか。


 「ユクハちゃん、話があるんだ。ちょっと来てくれない?」


 「はいっ」


 私とユクハちゃんはゴーレムの起動に夢中になっているみんなから離れ、人気のない工房の片隅へと来た。

 思いつめた彼女を前にすると、まるで告白前みたいに緊張する。

 いや、ある意味告白だけど。


 「話してくれるんですか? たしかにモミジちゃんは、賢者のおじいちゃんから錬金術の高い教育を受けてきました。でも、あそこまでのレベルはなかったはずです。あれって、サクヤさんが何かしたんですか?」


 「そうだよ。私がモミジちゃんの錬金術レベルを7まで上げた。ついでに”人形操作”ってスキルもつけた。それでゴーレムを自在に操れるようになったんだ」


 これが私の選択。

 あえて、ごまかさずに話すことにした。

 おそらく、ここがユクハちゃんとの決着になる予感がしたから。


 「まさか……いったいどうやって?」


 「私は特定の女の子の職業クラスに応じたスキルのレベルを上げる力があるんだ。いや、誰かから与えられているのかな? とにかく、それがあの結果なんだ」


 「信じられない……”錬金術レベル7”って、モミジちゃんのおじいさんのルルペイア卿が六十年かけて到達した域ですよ」


 まったくチートってとんでもないね。

 人間の長年かけての努力をあざ笑うみたいに簡単にスキルレベルを上げちゃうんだから。


 「じつは、このことは仲間にすら話したことはないんだ。それをどうしてユクハちゃんに教えたと思う?」


 「え?……あれ? それって理由があるんですか? どうして?」


 「じつはユクハちゃんもその特定の女の子の一人なんだ。つまり君の召喚術レベルも上げることができる。それこそ、あのペギラヴァを精霊界に送り返すことが可能まで」


 「………え?」


 じつはこれこそが、あえてユクハちゃんにだけ真実を語った理由だ。

 あの災害の化身ともいえる怪物をどうにかできるスキルを覚えることが出来るのは、多分ユクハちゃんだけ。

 けど、そのためにはユクハちゃんをホノウと別れさせて私のモノにしなきゃならない。

 でも原作みたいにエロテクの力技で、ユクハちゃんを肉奴隷にして無理やりモノにするんなんて、私にはできない。したくない。

 幸せな恋をする少女に、エロゲワールドへ堕とす引き金は引けない私。

 だからユクハちゃんに判断材料をあげて、彼女自身に選択させることにしたのだ。


 「あの……それって私じゃなきゃダメなんですか? 私なんか、死んだお父さんが召喚術の賢者だったっていうだけで、あんまり才能とかないし。私よりホノウくんのレベルを上げてくれた方が……」


 「ホノウにはできないんだ。条件を満たす召喚術士はユクハちゃんだけ。そしてスキルの力を与えられる条件は、ユクハちゃんが私の女になること。つまりホノウと別れて私のものになること」


 「え、ええっ!? そんなこと……できません!」


 「即答しないで。よく考えて答えて。ホノウを捨てて、あなたが王都を救う力を手にするかどうか」


 「それは……」


 「よく考えたあとにもう一度だけ答えて。その答えにぜったい後悔しないって決心して」


 こんな決断をユクハちゃんに強いる自分が嫌いだ。

 でも一つだけ決めている。

 ユクハちゃんがどんな答えを出しても、私は全力でその答えを尊重しようって。

 長い長い沈黙のあと、やっとユクハちゃんは口を開いた。


 「サクヤさん、決めました。この答えにぜったい後悔しません」


 「そう。じゃ、聞かせて。ユクハちゃん、あなたはホノウと別れて、この王都を救う高レベル召喚術士になりますか?」


 「私はホノウくんが好きです。大好きです! だから、サクヤさんのものにはなりません!」


 私は思わず笑った。

 うん、すごく良い答えだ。


 「そっか……よく考えたんだよね?」


 「はい。この王都の危機に、こんな決断をした自分が嫌です。でも、それでも、私はホノウくんへの気持ちを捨てられそうにありません」


 「うん、わかっている。それでいいと思うよ。ユクハちゃんはそれでいい」


 やっぱりダメだよ。こんなひたむきに恋している女の子を、私のハーレムメンバーになんか出来やしない。

 がんばって、ユクハちゃん。

 ゲームと違って、ホノウへの恋をあきらめないことを決めたんだから。


 「サクヤさん……?」


 「ホノウはね。ユクハちゃんがダンジョンで何かあったと感じたとき、何がなんでもユクハちゃんの元へ行こうとしていたよ。すごく思われてるね」


 「ホノウくんが……? そっか。そんなに心配してくれたんだ。えへへ」


 ああ、可愛いな。

 きっと二人はすごく幸せな恋人同士になって、いつか幸せな家庭とか作るんだろうな。


 「いつまでも仲良くね。王都のことは心配しないで。モミジちゃんもゴーレム兵を動かせるようになったし。それに……」


 「サクヤさん?」


 「私が二人の住む王都を守ってみせるよ。必ず」


 私は決意とともにユクハちゃんに背を向けて歩む。歩み出す。

 

 「あーあ。ユクハちゃん、私、あなたが羨ましいよ」


 思わずつぶやきが出た。

 純粋に男の人に恋している彼女がやけにまぶしかったから。

 いつか男の人を好きになるってどういうことなのか教えてほしいな。


 そんな感傷も含めて、気分は彼女の幸せを守る勇者。

 やっぱり私は鬼畜じゃない方の勇者がいいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >おじいちゃんが死んだみたいな言い方 時々ある言い方のギャグですね。 勿論彼は生きていて、この後サクヤと剣をめぐってトラブルのだろうな。 >特定の女の子の職業クラスに応じたスキルのレベルを…
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