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52話 ゴーレム兵起動

 さて、事態は一刻を争うし、このまま二人を寝かせておくわけにもいかない。

 私は二人を起こして、ペギラヴァがもうすぐダンジョンを抜けて地上に上がってくることを説明した。


 「思った以上に時間がなかったね。昨日聞いた話なのに、もうそこまで事態が悪化してるなんて」


 「そんな……おじいちゃんもいないのに、そんなことになっているだなんて! おじいちゃんがいなきゃ、王都防衛用のゴーレム兵も動かせないのに!」


 「それなら問題ない。ちゃんと動かせるんだな、これが」


 「ええっ!?」


 モミジちゃん、君はすでに”錬金術レベル7”というトップクラス錬金術師になっているのだよ。

 さらに人形操作スキルもつけた。ゴーレム兵とやらを動かすには十分だろうね。


 「さすがサクヤ様。こういう危機的な場は本当に強いね」


 「ふふふーん。そうでしょ」


 「でも私を抱いている最中なのに、その子にまで手を出したことは忘れないからね」


 「…………はい」


 くっ、モミジちゃんはターゲットの女の子だから、逃がすわけにはいかなかったんだよ。

 でも私の尊厳が崩壊した気がする。

 これも『ハーレム作り』という穢れた使命を背負わされた者の運命さだめか。

 ともかく私はロミアちゃんと別れて、みんなとルルペイア卿の工房へと向かったのだった。


 ◇ ◇ ◇



 ルルペイア卿の工房というのは、大きな魔導研究所といったものだった。

 ほとんどが中世時代のようなこの世界だが、ここだけは近代の工場を思わせる機械技術のようなものがあちこちに見える。

 私達はモミジちゃんの案内でそこに入ること許可を得て、問題のゴーレム兵が安置している場所へ向かう。


 「すごいね。まるで見たことのない道具がいっぱいだ。これが七賢者ルルペイア卿の工房か」


 「うん、でも高度すぎる性能のせいで、ある程度の錬金術スキルがないと扱えない物ばかりなんだよ。つまり、おじいちゃんかおじいちゃんのお弟子さんしか使えないんだよね」


 つまり、中世時代の人間に現代の機械なんかは扱えないのと同じだろうね。

 そして問題のゴーレム兵の置かれている一画についた。

 それは巨大な人型戦士の石像のようであったが、材質は石とはまた違ったもので出来ている。

 なんとなくアニメのロボットを思わせる造りだ。

 そしてその足元では、数人の魔導技術者らしき人達が一生懸命に作業をしている。


 「で、モミジよ。そのゴーレム兵だが、動かすのはそこらにいる弟子共には無理なのか? 頭良さそうなツラで偉そうにしているのだ。少しは役に立ってみせろと言ってやれ」


 「ラムス! こんなに忙しそうに頑張っている人達の前でやめて」


 どうしてこの男は礼儀というものを理解できないのだろうね。


 「ゴーレムの操作は、サイズが大きくなるほど難しくなるんだよ。で、そのゴーレムの大きさは人の約八倍。それに加え、魔導エーテルによる馬力の向上や重力軽減スタピライザー、精製魔石による関節アタッチメント、術式無効外殻機構なんかの、工房が開発した最新の魔導技術が組み込まれているんだよ」


 「な、なんか凄いね。それならたしかに、あのペギラヴァにも対抗できそうだ」


 「でも、おじいちゃんのやりたい事を詰め込みすぎて、おじいちゃんしか使えないものになっちゃったんよ。サクヤさん、そんなゴーレム兵を動かすって言ってたけど、どうするつもり?」


 「それはもちろん、モミジちゃんが動かすんだよ。モミジちゃんならやれる!」


 「なんじゃそら! 偉そうに『何とかする』とか言っておきながら、ウチ頼み!? ウチにおじいちゃんが本気で作ったものを扱えるわけないんよ! ばかあ!」


 モミジちゃんの大声で魔導技術者の人達がこちらに気づき、その一人が声をかけてきた。


 「お嬢さん、ちょうど探していたんですよ。来てくれて助かりました。ゴーレム兵の血統認証ロックを外すのに協力してください」


 「マルカスさん。やっぱり、おじいちゃんナシで動かすつもりですか?」


 「ええ、王国騎士団の要請だから仕方ありません。ほら、七賢者の【シルバード・コルディア卿】もわざわざ来ていただいてるんです」


 彼の顔の差す方向に、一見して位の高い人のものだとわかるローブをキチッと纏った青年がいた。

 その人はかなりのイケメンで、妙に緊張してしまう。

 考えてみれば、私のまわりでこんなリアルイケメンとかいたことはなかったな。

 ヤバイ。なんか上手くしゃべれる自信なんてないよ。


 「やぁモミジちゃん。君も王都の危機を聞いてここに来たのかい?」


 「は、はい。あの、コルディア卿がわざわざ伝言に来たんですか? 王都の守護任務とかについてたりは………」


 「モミジよ、察してやれ。今回ばかりは、さすがのこのお方も戦いには参加できん」


 「そうだね。王国随一と言われる魔法師様も、今回ばかりは……ねぇ。あっ、すみません」


 ユクハちゃんとホノウは何やら残念そうな顔でその七賢者随一様とやらを見ているけど。

 でも、どうして?


 「ねぇ二人とも、どういうこと? ”王国随一”ってことは、七賢者の中でも最強ってことでしょ? そのお方がどうして戦いに参加できないの? ペギラヴァを倒せないまでも、侵攻を遅らせたりとかはしないの?」


 「それがだ。このお方の使う魔法というのが、上位氷雪魔法なのだ。ものすごい吹雪すらも起こせる、たった一人で広域戦術魔法を使えるというすごいお方なのだ! ……が、なぁ」


 「なるほど。それをあの冷凍大精霊獣に使ったら……さぞかし元気になるだろうね」


 王都が凍らされて滅びそうな今、さらに氷を増やしてくれるというわけか。

 別の意味ですごいお方だ。


 「うん、すごい残念最強だ。こりゃ絶対ペギラヴァとの戦いには出せないね。出したら侵攻を遅らせるどころか、事態を悪化させちゃうよ」


 アーシェラもひどいな。まぁその通りだけど。


 「そんな役立たずな私だからね。こうしたお使いくらいしかできないというわけだ」


 あうっ、いつの間にかシルバードさんが近くに来ていた。

 イケメンが近くに来るとキツイ。

 女におぼれて消えかけてる乙女な感情がうずいてしまう。


 「それで君達は? 見たところ冒険者のようだが、パーティー名を聞かせてもらえるかな?」


 「うむ、よーく聞いておののけ! この王都の救世主! 歴史的最強英雄パーティー! ラムス様ひきいる【栄光の剣王】だあああっ! 具体的にどうするかは、まだ決めていない」


 本当にラムスの仲間でいるのが恥ずかしくなるなぁ。

 まぁ、こういう押しが強い所は助かるんだけど。


 「【栄光の剣王】……そうか、君達がドルトラル帝国軍を打ち破ったという、あの冒険者パーティーか。さすがの自信だ。『この王都の救世主』という言葉、信じさせてもらおう」


 うわぁ、ラムスのたわ言信じちゃったよ。

 ま、やれる事はやるつもりだけど、あまり期待されてもなぁ。

 と、さっきの術士が、じれたようにモミジちゃん言った。


 「えーとお嬢さん、ともかく時間がありませんので術式コンソールに来てください。血統認証の解除にだけ協力をお願いします。起動に成功したら、こちらでなんとか動かしますから」


 「いやいや。モミジちゃんは起動だけでなく、その後の操作までやります。全部まかせちゃってけっこうです」


 「だから! ウチごときの錬金術レベルにどうこう出来るモンじゃないって! まったく素人が無責任にほざいて……あれ? なんか分かる?」


 モミジちゃんは術式コンソールの前に立つと、ものすごい勢いでそれを操作し出した。

 やがてまわりの装置が眠りから覚めたように活発に動き出す。


 グオオオオオオンッ ゴゴゴゴゴゴゴ


 「…………起動どころか、自在に動かしているね。モミジちゃん、いつの間にあの術式コンソールの操作を覚えたのかな?」


 やがて巨大な石像のようなゴーレム兵はゆっくりと動き出す。


 「そんなバカな!? 高位の錬金術師が扱う物質錬成能力がないと、十分なエネルギーを得られないはずなのに!?」


 やがて「ズシンズシン」とゴーレム兵は地響きをたてて歩き出す。


 「ええっ!? なんでウチ、こんなに簡単に動かせちゃうの!? な、なんかゴーレム兵の扱い方もわかるような気がする!」


 モミジちゃんはゴーレムを自在に動かし、研究術士のみなさんたちを仰天させている。

 『これって普通のことじゃないんですか?』とか、さっきまで悪戦苦闘してた術士のみなさんに煽ったら完璧だね。

  

 「でも、さすが錬金術レベル7と人形操作スキル。これならペギラヴァの方はまかせちゃって大丈夫だね」


 「…………サクヤさん? モミジちゃんに何かしたんですか?」


 あ、ヤバ。さっきのつぶやきをユクハちゃんに聞かれちゃったみたいだ。

 


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] >私の尊厳が崩壊 >『ハーレム作り』という穢れた使命を背負わされた者の運命 シリアスぶっちゃって…… >七賢者の【シルバード・コルディア卿】 >イケメン うん? 今後関わってきそうな人物か…
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