50話 秒殺のスケコマシ
さて、またまた明日ダンジョンに潜ることが決まったその日の宵の口。
私の泊まっている宿にラムスとロミアちゃんが訪ねてきた。
「ラムスとロミアちゃん。二人ともどうしてここに?」
「フフフ面白いことが起こっているそうではないか。かつて一国を滅ぼした大精霊獣がダンジョンに現れただと? そんなものを討伐したとあらば、わが【栄光の剣王】の名声は不動のものとなろう!」
「いや、やんないから。一発あててみたけど、怒らせて凍らされそうになって、命からがら逃げてきたよ」
「ほほう、すごいなサクヤ。剣であれに一発あてたのか。あれに近づいたら、あっという間に凍死するって話だったがな。ともかく明日の討伐にはオレ様も参加するぞ! この大一番にリーダーのオレ様がいないというのは間抜けな話だからな」
「だから討伐じゃないって。うーん、でも大丈夫かな」
スキルを付与できるのは私の女になった七人のターゲットの女の子達だけ。
つまりラムスには寒冷耐性のスキルをつけることが出来ないのだ。
「ラムス様。いくら強いからって、サクヤ様にあのペギラヴァと戦わせるようなことしたらダメだよ。さすがに無茶だよ」
「ありがとうロミアちゃん。それでロミアちゃんは、いったい何しに?」
「まぁ現状の確認。王都の危機をもたらしている大精霊獣について聞きたくってね。それとサクヤ様。私、けっこうさみしかったんだよ」
ロミアちゃんの潤んだ瞳を見て「ああ」と思い当たる。
ロミアちゃんは最近かなりエロテクにハマってしまったのだ。
領主って立場はそうとうに重くて、ストレスがたまるみたいなんだよね。
もちろん友達兼旦那な私は、そんな可哀そうな嫁の期待にこたえなきゃ。
「じゃあ、あのペギラヴァについて詳しく話してあげる。私の部屋で話そうか」
「お、おい、なぜ場所を変える? 王都を危機に陥れているという大精霊獣のことなら、オレ様も聞きたいぞ!」
「ごめんラムス。ラムスにはあとで詳しく話すから、今の私の時間だけはロミアちゃんにあげて」
「ごきげんようラムス様。サクヤ様は借りるね」
と、ラムスを置いて仲良く私の部屋に入って「パタン」と扉を閉める。
ここからは二人だけの秘密の時間だ。
「さーて二人っきりになったけど、何から話そうか」
「そうだね……だけどいまは言葉なんて無粋じゃないかな? 二人だけなら、話をするのに言葉なんていらないし」
ロミアちゃんは服を上半分スルリ脱ぐと、私の首に腕をまわす。
ムチュッと深く口づけをかわす私たち。
私がロミアちゃんに感じているのは、友情か愛情かそれとも仲間としての絆か。
そんな疑問さえロミアちゃんの匂いに消され、二人仲良くベッドに倒れこむ。
ドサッ……
――「ひ、ひいあああああああっ!!!?」
え?
ベッドから、私のものでもロミアちゃんのものでもない声が響いた。
そこには毛布をかぶったオレンジ髪の小柄な女の子が、私達をビックリ顔で見つめている。
「………あっ、そう言えばモミジちゃんを寝かせていたんだっけ。ユクハちゃんやおじいちゃんが心配で寝てないって言ってたから。小さくて見えなかったよ」
もちろん起きたら速攻オトすために、上手いこと言いくるめて私の部屋で寝かせていたのだ。
「サ・ク・ヤ・様ぁ? いったいどうするのかな? 私の、このあられもない姿を、この子に見られた始末」
うん、半裸のロミアちゃんはすごくセクシー。
モミジちゃんが赤面どころか全身真っ赤になるほどだ。
「あ、いやいやいやウチ見てない!」
と、モミジちゃんは大げさに目を両手で隠す。
「あ、良かったね。見てないって」
「そんなわけないでしょ! あと気になっていたけど、サクヤ様の体についている残り香、アーシェラさんのでもノエルさんのでもないよね。いったい誰の?」
ああ、そういや昨日はユクハちゃんデイだったっけ。
昨日から今日の昼間まで、まる一日ユクハちゃんと裸で抱き合っていたからね。
「ユクハちゃんのだよ。ペギラヴァの吹雪に巻き込まれて体がカチカチに冷たくなってたから、ベッドで私の体温で癒したんだよ」
ドキマギと巧みな言い訳。ま、半分は真実だしね。
「ユクハ、そんなことになっていたの。助けてくれてありがとうございます」
「ふーん? サクヤ様がそれだけですますとは思えないけど、まぁいいや。で、これからどうするの?」
本当にどうしよう? ダブルブッキングなんて、まるでどこかのスケコマシ。
「あ、あははーーっ。ウチ失礼させてもらうね。このお布団、すごい女臭かったんはそんな理由だったんですか」
と、部屋から逃げ出そうとするモミジちゃん。
ヤバイ! このまま行かせては、警戒されて二度とオトせなくなる!
わが頭脳よ、人間コンピューターよ。
この最大のピンチを、どうにかする答えを導きだしたまえ!!
ウインウインウイン ピーガーピーガーピーガー
ヴイイイイイイイン ガガガッガガガッガガガッガガガーーッ
ピポピポピポ キュイイイイイン
カタカタカタカタカタカタカタ…………
いったい何時の時代のコンピューターなんだ、私の頭は。
出力が穴の開いた紙テープのカタカタ出てくるやつだったぞ。
いやしかし最適解は出た!
今ここでモミジちゃんを秒でオトすのだ!!
うなれ私のエロテクレベル10!!!
「待ってモミジちゃん。こ・れ・は口止め」
モミジちゃんの腕をつかみ「グイッ」と引き寄せる。
「え? ち、ちょっと何を……ムグッ!?」
何か言いそうになる口をキスでふさぎ、つき飛ばそうとする手を指でからめて抑える。
あとはもう何もすることはない。
一秒……二秒……三秒……
カックン
あ、幸せそうな顔して気絶しちゃった。
「はっ、まさか?」
念のためスマホで確認してみると、なんとモミジちゃんの名前にクリアマークがついていた!
「チ、チョロすぎる! これが”チョロイン”というやつ?」
今までロミアちゃんとかアーシェラとかユクハちゃんとか、難しい娘ばかり続いてたから、このチョロさにビックリ。
「むうっ私の前で別の子にキスなんて。もう知らない! その子と仲良くね」
と、出て行こうとするロミアちゃんの手をつかみ引き寄せて、強引にキス。
嫁を怖がってちゃハーレムなんて作れないからね。
「ううっ卑劣……でも悔しいけど逆らえない……」
すっかりチョロくなったロミアちゃんの相手をしていると、やがて横で寝ていたモミジちゃんが起きてビックリ目をみはる。
逃げ出そうとしたので、つかまえて再びベッドに押し倒す。
「ち、ちょっと! 他の子とこんなことしてるのに、ウチにまで手を出そうなんて鬼畜!」
「サクヤ様! この子といっしょにだなんて、いやああああ!」
とか言ってたけど、「女の子を倒せ」と輝きさけぶ私のダブルシャイニングフィンガーで、見事ダブルヒートエンド!
「ハァハァ。同じことを男がやっているのを見たら、絶対殺したくなるだろうな。でも私はもう止まれないんだよ」
なぜか急に冷えてきた気温に、仲良く眠る二人は「ブルリ」と震える。
そんな二人にそっと毛布を掛け直した。




