05話 主人公登場
さてと。さっそく【気配察知】をためしてみよう。
目をつむり、感覚を研ぎ澄ませると、辺りに徘徊する生き物の気配がよく分かるようになっていた。
ふむ、殺気の強い気配が注意すべきモンスターだね。
けっこう距離があるから、近づかなければ大丈夫。
…………うん?
西の方にけっこうな数の集団がいる。
多分だけど、二足歩行だし自分に近い種族のような気配。
もしかして人間?
「やったあ! ようやくサバイバルから脱出だ。ごはんもらって服も着替えたい!」
そう上手くいくものでもないけど、ともかく急ぐことにする。
どうにも争っているような気配を感じたからだ。
ドドドドドドドド
その場所へ近づくと、古臭い武器やら鎧やらをまとった一団が駆け抜けていく。
やはり人間!
彼らの後を追おうとしたけど、背後からの人の声に思わず足を止める。
「くっそぉぉぉっ! あいつら、裏切りやがってえええっ!」
見ると、ひとりの兄ちゃんが倒れていて、十匹程の大きな狼に齧られている!
ああ、こっちに行かなきゃダメか。
でも、間に合うか!?
私は背中からメガデスを引き抜き、駆けつける。
「てえええい! 二段斬り!」
さっそく覚えた剣術技をためしてみた。
一振りのモーションで二回剣をふることが出来る。
群れ集う狼達と私に襲い掛かる狼達の両方を寸断する。
さすが剣術レベル5。
野生動物の動きにもしっかりついて行き、得物を目標に当てられる。
スピードについていけるのだから、やはりこの狼たちも敵ではなかった。
ザシュッ ザシュッ ザシュウッ
さらに残った狼達も切り伏せ、私はこの兄ちゃんを助けることに成功した。
あれ? どうでもいいが、男女の役割逆じゃね?
まぁいい、私はこの兄ちゃんの命の恩人。
徹底的に恩を売りまくって、メシと着替えと寝床をゲットだぜ!
「ケガはない、君?」
うわっ泣いてるよ、この兄ちゃん。かわいそっ。
まぁ仲間に裏切られたみたいだし?
ここはやさしいお姉さんになって、メシを自発的におごらせようかと思った時だ。
いきなり兄ちゃんは笑い出した。
「フ、フハハハハ! 見たかグレイウルフども! きさまらなどオレ様の敵ではないわぁ‼」
はぁ?
あの狼どもを倒したのは私だろ?
君はさっきまで、泣きながら齧られてたじゃん。
「ね、ねぇ君、頭だいじょうぶ? もしかしてショックでワケわかんなくなってたりしてない?」
「う……あ、いやオレ様は正気だ。ただ言ってみたかっただけだ」
願望が強すぎて、そう言ってしまうタイプか。
これが本当に現実だと思うようになったらヤベーな。
「で、君の名前は? こんな所で何をしていたの?」
「フッフッフよくぞ聞いた。オレ様の名は【ラムス】! 英雄になる男だ!」
―――ー!!?
な、なんだってー!
まさかの主人公様だとおおお!?
そういや主人公だから立ち絵はあんまりないが、イベントではよく見る顔だ!
でも……
「そ、その英雄ラムス様ともあろうお方が、何故に狼ごときに苦戦されてたんですか? 泣きながら」
「泣いてない! たしかにお前は強い。しかしオレ様もいずれは、お前くらい……いや、もっと強くなる! オレ様は英雄となる男だからなフハハハハ」
「フハハハハ」じゃねーよ。
いま現在、まったくモンスターに手も足も出ずに泣いて齧られてたくせに、こんなヤバイ森来てんじゃねーよ。
将来の目標が『英雄になる』?
フワフワしすぎてニート一直線な未来しかないわ!
……と、これがどっかのプー太郎予備軍なら、説教のひとつもかましてやる所だが。
この世界ラムスクエストの主人公様なら話は別だ。
「ラムスさん、感動いたしました! まさに、あなたこそ英雄になる器‼」
「おおっわかるか、お前にはオレ様の大望が! 英雄は英雄を知る。狼どもを簡単になぎ倒したお前には、オレ様の光る才能が見えたというわけだな。はっはっは」
……まぁ、ゲーム設定的にほぼ無限に強くなれる主人公補正はあるよね。
一見、どう見ても泥船。
しかし、このラムスと組んでゲーム同様の活躍をしていけば、目標の女の子達に近づくことが出来るはずだ。
王女様なんて、どう近づきゃいいか分かんないのもいるしね。
「私も英雄になりたいです。私の名前はサクヤ・ノハナ。ラムスさん、私とパーティーを組んでください!」
「よかろう、共に英雄の道を走ろうではないか。遅れるなよサクヤ!」
襲われるヒロインを助けて仲間にするテンプレ展開も、男女逆転させたらこの通り!
この二人が中心になって冒険します。




