48話 開けるセリア王女への道
『幸せなんてものに縁はねぇが、人の幸せを邪魔する奴は許せねぇ』
(byコンドルのジョー)
昭和のアニメで、やたらシブイおじさんがこんなカッコイイことを言っていた。
これを聞いた時はこのセリフにシビれたけど、今の私はまさしく『人の幸せを邪魔する奴』になっちゃったんだよな。
『不器用な男に不器用な恋している女の子を、レズ奴隷にオトして自分のハーレム要員にしようなんざ企む奴は人間じゃねぇ! 悪魔だ!』
あうっ妄想に怒られた。
ジョーさんに怒られてNTR続ける根性なんてないし、とりあえずユクハちゃんはいったん保留だ。
この事件で王都の偉い人達は動きだすだろうし、それを見極めてどうするのか決めよう。
「とにかく、ダンジョンに最大級の危険な精霊獣が出現したことを急いで知らせなければいけません。わたしはギルドへ行きます」
「なら俺は術士協会へ知らせてこよう。そこから宮廷の方々へ話を上げてもらう」
私はどうするかな。
……そうだ、ギルドに頼まれていたことがあったっけ。
「私もギルドへ行くよ。あそこからはパーティー探しを頼まれていたけど、そっちは絶望的だって伝えなきゃ」
というわけでアーシェラとノエルにはラムスとロミアちゃんへの連絡、防寒具の買い出し等を頼み、私はユクハちゃんと冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに着くと、そこは大騒ぎになっていた。
私達が報告するまでもなく、ダンジョン内に謎の異常寒波が起こっていることは知られていたのだ。
そう言えば途中で助けた冒険者パーティーも帰っているだろうし、あの人達から聞いたんだね。
そして騒がしいギルドのひと隅に、ある意外な人物を見つけた。
オレンジの髪を三つ編みにした小さな女の子。
「モミジちゃん? どうしてここに?」
「あっユクハと黄金級のお姉さん!」
「私の名前はサクヤだよ。覚えておいて」
そう言えば、前回会ったときに名前を名乗ってなかったね。
このモミジちゃんもオトさなきゃなんないのに、ひどい不手際だ。
「良かった……無事だったんだ。ダンジョンの異常寒波に巻き込まれて、まる一日以上帰ってこなかったからもう絶望的だって言われてたのに」
ゴメン。午前中はえっちに励んでた。
「ごっごめんなさいモミジちゃん。無事を早く伝えられなくて。このサクヤさんが助けてくれたんですよ」
「すごいですね、もう幾つものパーティーが帰還もできず、救助も不可能な状態になっているって聞いたのに。あ、ところでサクヤさん。帰るときウチのおじいちゃんに会いませんでした?」
「モミジちゃんのおじいちゃん? 知らないけど、どうして?」
「サクヤさんと会ったあと、おじいちゃんが帰ってきたんです。それでサクヤさんがメガデスを持っていたことを伝えると、『あとを追う』って言ってダンジョンに出ちゃったんですよ」
「それは……まずいね。でも第四層のあの様子を見たら、そのまま帰るんじゃない? さすがにお年寄りがあの吹雪の中を進むとは思えないし」
「それが……おじいちゃん『王国七賢者』の一人なんですけど、その仲間の【炎熱のバニング】さんと【雷光のサンダーク】さんと一緒にダンジョンへ行ったんです。だから無茶でもそのまま行ったかも。行っちゃったと思う」
あ、力尽くでメガデス奪う気まんまんだ。
こりゃこっちも、何か迎え撃つ用意をしないと危ないかな。
私達が話していると、そこに昨日私に遭難者を探すことを頼んできたギルド職員が来た。
「黄金級パーティーの【栄光の剣王】の方。まさか本当に謎の吹雪がおこっているという第四層からユクハさんを助け出されたとは」
「ああ、ユクハちゃんだけは召喚獣のフレイムポックルを抱いていたおかげで助け出せたよ。他の方達は見つけ出すこともできなかったけど、あの寒さじゃ生存は無理。絶望的だね」
「……そうですか。とにかくギルド長に詳しい話をして頂きたいので、モミジさんユクハさんといっしょにこちらに」
というわけで別室に通され、ここのギルド長というおじいさんと対面した。
老人なのにやたら目つきのスルドイ彼は、私をジロジロと嫌な目つきで見た。
「【栄光の剣王】の剣豪サクヤ……本当にお前さんが?」
「あれ? 何でその名前を知っているんです」
「おれはゼナス王国中の冒険者ギルドを統括してるんでな。で、パーティーを結成から一年もたたないうちに黄金級に押し上げたリーレットのお前さんのことはいろいろ聞いている。まぁいい。ダンジョンでお前さん方が見たことを話してくれ」
私とユクハちゃんは第四層に起こっていることを話すと、彼は「フゥーッ」と大きく息を吐いた。
「そうかい。この異常寒波の原因は、やはり伝説の大精霊獣ペギラヴァのせいか。そうだと噂にはなっていたが確定できたのは大きい。感謝するぜ。で、それを踏まえて【栄光の剣王】に依頼を引き受けてほしいんだがよ」
「まさか『あのペギラヴァを倒せ』なんて依頼じゃないよね。出されても断るよ」
あれはいくらスキルを会得しようと、どうにもならない。
いわば冬の雪山そのものと戦うようなものだ。
「そんな不可能を言って、貴重な黄金級を潰すつもりはねぇさ。だが、あの極寒の第四層から無事に戻ってきた腕を見込んで頼みてぇ。アンタを追ってもぐっていった三人の賢者を連れて帰ってほしい。さすがに今三人も王国七賢者を失ったら、国王陛下に申し訳が立たねぇ」
「は? やっぱり断りますけど。その人達って、私とやり合うつもりなんでしょ。どうしてその人達を私が迎えに行かなきゃなんないんです」
「サクヤさんよ、こいつは王国を滅ぼしかねん大災害だ。だからギルドとしては強引な方法をとってでも、使える奴を使わなきゃなんねぇ。国王陛下はじめ宮廷のお偉いさんもじきに対策を考えるだろうが、それまでに奴の細かい動向を探る奴も必要だ。それも含めて頼まれてほしい」
うーん、権力ずくでくるか。
こっちのバックには、いちおうリーレット領領主のロミアちゃんがいるけど、『王国の危機』なんて大義名分を出されたらつっぱり通すのは難しいね。
「サクヤさん、お願いします! おじいちゃんを助けてください! おじいちゃんは七賢者の中でも重鎮となっている方なので、いきなりいなくなると国王陛下も困ると思います。それに加え二人も賢者がいなくなったら王国はどうなるか!」
む? 国王陛下が困る?
ということは、その娘であるセリア王女も困るってこと?
さすがに手が届かないと思っていた王女様だけど、もしかしてこれはチャンスかも?
「負けたよギルド長さん。でも引き受けてもいいけど、ちょと報酬はふっかけさせてもらうよ」
「おお、賢者一人につき一万パルー出そう。死体でも同額。それに加えペギラヴァの動向を報告してくれたら千パルーだ」
一人一万!
すごい! たしかに金に糸目はつけない感じだ。
しかし私の目的はそれじゃないんだよなぁ。
「私、お金より名誉が欲しいんだよね。国王陛下が困る案件だというなら、当然王族の方からの栄誉も期待できるかな?」
「おいおい【栄光の剣王】ともあろうものが、今さらそんなものが必要かい? アンタとパーティーはドルトラル帝国軍五万に切り込んで壊滅に追いやったって話だが」
「ええっ嘘!?」
「そういえば侵攻してきたっていうドルトラル帝国軍なのに、続報を聞かなかったけど……まさか!?」
「ああ、そういや、そんなこともあったね」
みんな私をスゴイ目で見ている。ちょっと大物ぶっちゃったか。
しかしそっちの自慢話はラムスがやっているだろうし、私はここでセリア王女に近づくための布石を少しでも打っておきたいんだよ。
「それはそれ。私に仕事をさせたいなら、その報酬に私の希望を通してもらいたいって話だよ。それで王国中を統括しているギルド長さんの権力とやらはどのくらいのものかな?」
「ふん、こっちの値踏みをしやがるか。ま、よかろう。首尾よく仕事をしたなら、国王陛下からの勲章の授与を働きかけてやる。それに加え【栄光の剣王】をミスリルに格上げしてやる」
「いや、そんなものよりさ。『黄金の薔薇』とうたわれるセリア王女殿下への拝謁の栄誉を授かりたいんだよ。それって可能? 出来ちゃったら喜んで仕事を片づけちゃうよ」
「なんだ、女のクセにあの方への拝謁がお望みか。ま、本当に賢者の方達を救い出せたなら安いもんだ。話を通してやるよ」
よしっ、セリア王女が近づいてきた!
ユクハちゃんに手を出せない分、こっちをがんばるぞ!!




