46話 とってもNTR
「急いで! このあたりにユクハちゃんはいるはずだ!」
私たちがフレイムポックルの気配のある場所に駆け寄ると、そこにはなかば雪に埋もれて気いる女の子がいた。
紫の長い髪を髪飾りで結んでいる清楚系美人の女の子。
ラムスクエストで見た通りのユクハちゃんだ。
「……体がすごい冷たくなっている。息もとっても小さい。すぐに運んで手当てしないと」
まだ生きているのは、彼女の抱いているフレイムポックルのおかげだろうね。
でも全身が白くなって意識がなくなっている。
いかにも”ザ・凍死(十分前)”って感じだね。
「しかし人がこんなになるくらいの寒さなのに、どうしてボクたち平気で動けるんだろうね?」
「……さあね。それを考えるよりユクハちゃんを運ぼう。アーシェラ、右から肩をもって。ノエル、転移ゲートを開いて」
「はい、『わが鍵をもて異なる空間のその場所への門扉を開く』……ああっ!」
私とアーシェラがユクハちゃんの体を左右から支えて持ち上げ、ノエルが転移ゲートを開いたた時だ。
ふいに後ろから「ギエエエエエエエエエエエッ」ともの凄い咆哮が聞こえた。
ヤバイ! すごい殺気を感じる!
「ペギラヴァが! 急いで入って!!」
転移ゲートを開いたノエルの顔は恐怖で見開かれていた。
、私たちは後ろを振り向くことなく転がるように転移ゲートをくぐり、ノエルは急いでゲートを閉じた。
「ハァハァ、助かった? なにかものすごく冷たい感触が背中からきたけど」
「はい、ペギラヴァはすごく怒っていました。口から白い吹雪のようなものを吐いて浴びせてきたんです。あれにあたったら凍らされていたと思います」
ノエルの言葉が示すように、私たちのマントの裾はカチンカチンに凍っていた。
今さらながら、アレは規格外の怪物だとゾッとする。
「ユクハ! おい、ユクハは無事なのか!? 生きているのか!?」
私たちが戻るなり、そこにホノウが駆け寄ってきた。
…………フルチンに毛布という姿で。
思わずメガデスで真っ二つにしそうになってしまったよ。
命拾いしたな、この露出マン。
「ホノウ、心配なのはわかるけど、裸に毛布だけって姿はいただけないね。目のやり場に困るし、なにか着ようか」
「そんなものはここにはない! 何から何まで小さすぎて、何も着られないではないか!」
……ああ、そういや女所帯だから、ホノウのでかい体で着られる服なんてここにはなかったよね。
「ええい、とにかくそのユクハはどうなっているのか聞かせろ! 生きているのか、それとも……!」
「息はいちおうしている。でもこの子、すごく体が冷たいんだ。まるで氷みたいになっているよ」
「な、なにッ!? くっ、フレイムポックル、出ろ!」
「とにかく濡れた服を脱がせて毛布を! 温めないと!」
「裸にするからホノウさんは出て! あとは私達が看病するから!」
「わ、わかった! フレイムポックルは部屋を暖めるのに置いておく。一晩中燃やすから、どうかユクハを助けてやってくれ!」
ホノウは未練がましそうに部屋を出ていく。
その途端、扉の向こうからものすごい大騒ぎが起こった。
『ぎゃあああっ、なによアンタ変態!?』
『見ないで来ないで! 見せるなあああっ!』
『お客人! そんな恰好で宿をうろついちゃ困るよ。いますぐ何か着ないなら出ていってもらうよ』
あ、ホノウになにか着せるのを忘れていた。
しかしホノウもよくあの恰好で外に出られるよ。
「ま、外は気にしないでおこう。それじゃ私も服を脱ごうかな」
私はガバッと着ぶくれしている衣服をすべて脱ぎ捨てて裸になった。
「わあっ!? サクヤ様まで裸に?」
「ちょっと! いまからやる気!? いくらなんでも、そんな場合じゃないだろ!」
「なんの勘違いをしてるんだアーシェラは。極寒地に住む人は凍傷にかかったとき、獣の肉内にはいって治すそうだよ。だからこうやって暖めるんだよ」
私はユクハちゃんも裸にすると、その体に抱きついた。
「ううっ冷たい! これは凍傷で火傷になるね。けど、一晩こうやって治すよ!」
「……無茶なことを。でもサクヤ。裸で抱き合ってるからって、その子に変なことはするなよ。ホノウの大事な子なんだからな」
「そうですよ。サクヤ様の趣味に口出しする気はありませんが、さすがにユクハさんに手を出すのは鬼畜すぎです」
「二人とも私を何だと思っているの。いまの私はユクハちゃんを助けることしか頭にない! こうして抱き合っていようと、考えるのはただユクハちゃんを助ける決意だけ! ううっ冷たい」
本当にユクハちゃんの体は氷みたいだ。
寒冷耐性のスキルがあるとはいえ、裸でこの冷たい体を抱きつづけるのはかなり根性がいるぞ。がんばれ私!
「サクヤ、疑って悪かった! 君がホノウの大事な子にそんなことするわけはなかった! 冷たさに震えながらも抱きつづけるその覚悟、たしかに本物だ!」
「変な疑いをかけてごめんなさい。サクヤ様、その火傷は必ずノエルが治します」
「うん、ぜったい助けるよ。ユクハちゃん、がんばって!」
そうして懸命に抱きつづけていくうちにユクハちゃんの息は少しずつ確かなものになっていき、体温も戻っていった―――
◇ ◇ ◇
「……というわけ。ユクハちゃんと裸でベッドにいたのは、決していやらしいことをするためじゃなかったんだよ」
「そうだったんですか。勘違いしてごめんなさい……って、いやらしいことガッツリしたじゃないですか! わたし初めてだったのに、最初の相手が知らない女の人だなんて!」
うん。まぁ無事に復活した彼女を見たら、安心すると同時にキレイな裸にクラッときちゃったんだよね。
もう女同士に抵抗がないどころか、抑えがきかなくなってきたよ。
いやしかし、このユクハちゃんもターゲットの一人。
ホノウには悪いけど、いずれはオトさなきゃなんないんだから、これでいいのか。
これを話している場所はベッドの上で二人とも裸。
えっちの後のピロートーク代わりにこれまでの経緯を話したんだけど、やった後に『いやらしいことが目的じゃなかった』と言っても、まったく説得力ないね。
ノエルとアーシェラは、えっちしている間に気をきかせて出ていった。
あの二人の心底あきれたような目が痛かったね。
「気持ちよかったんだからいいじゃない。すごく可愛い反応だったし」
「だ、だからって許せません! ホノウくんのことも裏切って! ホノウくんは本当にフレイムポックルを一晩中出し続けていたのに!」
ユクハちゃんは、今なお高い熱を出し続けているフレイムポックルを悲しそうに見た。
「ユクハちゃん、いいことを教えてあげよう。女同士だし、知られなきゃ全然オッケー。彼氏に秘密の女性の恋人を持とう」
「な、なにを言ってるんですか! そんなこと出来るわけ! ……ないじゃないですか……」
彼女は恥ずかしそうに私から目をそらす。
フフフ拒絶が弱い。
やっぱり感じまくっていただけに、拒みきれないみたいだね。
「私はサクヤ。これからよろしくね、ユクハちゃん」
「あっ、だからダメですって……もう……」
ユクハちゃんの裸体を引き寄せると、形ばかりの抵抗。
でも口づけをすると、彼女も私の首に腕をからめて、より深くくっつきあう。
そのまま、まるで恋人同士のように二回戦へ突入した。




